オタク用語から中国の一般社会に広まった言葉とは? 【コラム】

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更新日:2014/8/18

中国オタク事情を連載している百元です。第3回は中国でオタク用語から中国の一般社会にまで広まった言葉を紹介させていただきます。

漢字の存在もあってか日本のアニメや漫画等のオタク関係の言葉が中国のオタク界隈に入り現地特有の使われ方をするようになるのは珍しくありません。また漢字表記ができず中国語に適当な言葉も無いものに関しては、中国オタク界隈独自の新たなオタク用語が生まれたり、それまで使われていた別の意味の言葉があてられ使われたりもします。
そしてそんな中国オタク界隈で使われるオタク用語がネット等を通じて広まり一般レベルで使われるようになるといったこともあります。以下にそういった言葉をいくつか紹介させていただきます。
 

▲メイド服が似合うYangChenさん

・「宅男」(ジャィナン)「宅女」(ジャイニュ)
恐らく最も中国に広まっているオタク関係由来の言葉だと思われます。中国における代表的な中国語辞典の現代漢語詞典の第6版にも収録されている言葉です。
日本の「オタク」、「おたく族」から来ている「御宅」、「御宅族」という言葉から変化していったこの言葉は当初「オタク」の意味で使われていたのですが、その後「引きこもり」、「インドア派」、「外に出ないでPCの前でネットにふけっている」といった意味が加わり、 現在は「外に出ないでPCの前でネットにふけっている」意味の方が先に来るようになっています。

最近の中国では娯楽やメディアに関してPCとネットの存在が非常に大きいことから、引きこもりとまではいかなくてもずっとPCの前にいるようになってしまう人も多く、中国語にはそんな状態に関する適当な言葉が無かったので、「宅男」「宅女」はまさにうってつけの言葉として広まったという話です。

しかしこの「宅男」「宅女」の意味の変化により思わぬ混乱が生まれることもあるようです。 「宅男」「宅女」が新しい意味の方で広く使われるようになってからも「オタク」という意味が消えたわけではありませんし、翻訳の過程で誤解が生まれたりもするのだとか。

例えば「日本には大きなオタク市場がある」といったニュースが中国に伝わる時に、「オタク」の部分を「宅男」「宅女」或いは「宅」として訳すことから、人によっては「日本には大きな引きこもり市場がある」という謎のニュースとして受け取ってしまうといったことが起こっています。一応、ニュース本文を読めば「オタク」の方の話だというのは分かるはずなのですが、タイトルだけで誤解してしまう人も少なくないそうです。

・「爆表」(バオビァオ)
計測した数値が計測範囲を振り切ってしまうといったことを表現する言葉として使われています。これは「ドラゴンボール」の「スカウターの爆発」から来ている言葉だそうです。中国オタクの方の話によれば、この「爆表」という言葉を使う時は「ドラゴンボール」の戦闘力に関するリアクション的なことをイメージしたり、やりたくなってしまったりということもあるのだとか。

この「爆表」は最近の大気汚染関係のニュースにおけるPM2.5の測定で更に有名になりましたが、今までの計測範囲を超え、計測できるレベルではないような数字になるという状況は中国でも非常に衝撃的だったそうで、まさに「爆表」な印象を受けた人も少なくなかったとのことです。

・「偽娘」(ウェィニャン)
女の子のように見える、或いは女装して女の子のようになっている男性を指す言葉です。日本のオタク関係の「女装キャラ」や「男の娘」といったネタから発展したと思われるこの「偽娘」ですが、中国オタク界隈では見る方も装う方も等結構な規模のジャンルになっていますし、「偽娘」な容姿の男性が中国の一般社会でも話題になったりしています。そして性転換や人妖(ニューハーフ)ではない、女性っぽい男性というジャンルを中国の社会に新たに認識させることになりました。

中国では男性はタフ、男らしくなければならないとされる空気が強く、中性的だったり女性的な気質があったりする男性に対する目はかなり厳しいものがあったそうです。例えば中国のスラングには女性的な気質のある男性を指す「娘娘腔」(ニャニャンチアン)という言葉がありますが、以前はかなりネガティブな意味で使われていたそうです。

しかしある中国オタクの方から聞いた話によれば、「偽娘」という言葉と概念の流行によりネタ混じりではあるものの、男性のもつ女性的な部分に関して外見、内面問わずポジティブに扱えるようになる等、少なくとも完全な否定ではなくなったそうです。
「偽娘」は中国のオタク界隈に新たなジャンルを確立すると共に、中国の一般社会においては男性に関して今まで認められていなかった価値観を、ネタとして扱いながらではあるものの表に出すのが許される空気を作った言葉と見ることもできるという話です。


現在の中国ではネットが情報発信、コミュニケーション、そして様々な娯楽の場として非常に大きな存在となっています。またそんなネットの娯楽において、日本のオタク系コンテンツは存在感と話題性があることから、関連する中国のオタク用語もネット経由で拡散し易くなっているそうです。そしてそういった状況の下で中国のオタク界隈で使われている言葉が一般社会へ流れ込んでいますから、今後も中国ではイロイロなオタク経由の言葉が広まっていくのではないかと思われます。

(文=百元籠羊