社員採用の条件は「食べられないものがない人?」pixiv社長インタビュー(後編)

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更新日:2014/8/19

国内最大のイラストSNS・pixivの代表取締役社長の片桐孝憲(かたぎり・たかのり)さんインタビュー後編。前編では、pixivの魅力や二次創作に対するスタンスなどをうかがいました。今回の後編では、片桐さん個人について踏み込んでお聞きしていきます。「将来pixivで働きたい!」「自分で会社を作ってみたい!」人は必見ですよー!
 

▲片桐さんは普段どれくらいpixivを利用しているのだろうか?

――ちなみに片桐さんは、投稿された作品をご覧になっていますか?

片桐:僕、pixiv相当見てますよ! 鬼のように! 初期のころなんて、僕や社員が見すぎて「PVのほとんどが俺たちのアクセスなんじゃない?」みたいな状態でした(笑)。内容チェックとかではなくて、見てて面白いから見てしまう。それでバグが見つかったり、「こういう使い方してるんだ!」って発見があったりもします。
たとえば、ぱげらったさんの「ピクシブたん漫画」は良すぎてpixivの方向性も人生も変わりました!

――最近見ていて「面白い!」と思った作品はありますか?

片桐:新機能の「うごくイラスト」(うごイラ)は面白いです。うごイラが生まれたきっかけは、超オシャレマンの友だちが教えてくれた海外のサイト。アーティストがGIFアニメでいろんな作品を発表しているのですが、アニメというよりイラストの延長みたいなものだったんです。犬だけが動いているとか、雨が降ってるだけとか、星が動いているとか。春ごろから手を付け始めて。6月に実装することができました。できたときはかなり嬉しかったですねー。毎日検索してます。

――新しい機能を実装するときに、気を付けたことってありますか?

片桐:僕たちは、基本的にwebの技術者なんです。なので、人に使われる人気のあるサービスを作りたい。漫画機能もはじめはなかったのですが、既存のwebマンガサイトがすごく読みにくいビューワーを使ってるのが気になって! 「webマンガの見やすい形ってなんだ?」と考えながら作りました。いいwebサービスがあれば、作家活動はよりやりやすくなるんじゃないかと思っています。
 

▲シールが多数貼られたにぎやかなノートPC

――いま、pixivの「スタート」についてお話していましたが、片桐さんの「出発点」が気になります。pixivを作るために起業したわけではないんですか?

片桐:pixivはエンジニアの馬骨さん(上谷 隆宏)の作りたかったもので、僕たちはそれを手伝っただけですね。今みたいに人気が出て、たくさんの人に使ってもらえるようなサービスになるとは正直予想していませんでした。本当のスタートでいうと、僕は映像作家になりたかったんです。ロンドンの「tomato」っていうクリエイター集団みたいになりたくて、webや映像、グラフィックを作ってました。バンドのPVやWebを作ったりもしましたけど、すぐに「これじゃ食えないな」って思って……、起業しました。

――修行するとか、就職するじゃなく、「起業」だったんですか!?

片桐:高校の時に思ったんです。自分が尊敬して好きな人と仕事をしたいのなら、自分で会社を作るのがいちばん早いって。でも、映像クリエイターやデザイナーとしてやっていくには時間がかかりすぎるし、自分にはそこまで才能がないと思った。もちろん、何年も頑張ってうまくなる人もたくさんいますけど、僕はそれをやりたくなかったんです(笑)。ちょっと聞こえが悪いですけど、いわば「逃げた」先がインターネットでした。インターネットの世界で自分たちのプロダクトを成功させたほうが早いと思いました。

――結果として、大成功なわけですね。

片桐:うーん、でも当時は、pixivで食えるとは本当に思ってなかったんです。人気はあっても、何十人も社員を雇えるだとか、何億PVだとか、そんな世界とは程遠かった。しばらくは請負の仕事や他のwebサービスも並行してやっていましたし。でも、請負の仕事のときは、まったく自分たちを信じてなかったんです。「この世界じゃ無理だな」「仕事ふってこないかな……」なんて思ってた。会社を作ったときはテンションが上がっていて(笑)「めちゃくちゃうまくいくんじゃないかな!」って楽しみにしていたくらいだったんですけど、作った直後に現実を知って。会社を作ったからって仕事が来るわけじゃないし、ゼロから作っていかなきゃいけないって初めて気づいたんです。不安で、ずっと眠れない状態でした。

――その不安が消えてきたのは、どのタイミングですか?

片桐:2008年に社名を「ピクシブ株式会社」に変更したときですかね。でも、あのときは「請負の仕事をやめたい」という気持ちも強かった。映像制作からweb制作に「逃げて」、請負の仕事から「逃げて」、最終的にたどり着いて初めて自分たちを信じたのがpixiv。逃げた先がWebサービス業界という「F1サーキット」だった(笑)。でも、最初から志はあったと思います。会社をつくったころは大学生だったんですけど、「学生起業家」と呼ばれたくないし、名乗りたくもないので、大学を辞めました。会社を作るっていうのは、無差別級の戦いだから、その中でやっていきたいという気持ちはありましたね。

――そんなpixivで働きたいと思っている人も多いと思うのですが、どういう人に入ってほしいと思っていますか?

片桐:食べられないものがない人! もちろんアレルギーとかはしょうがないんですけど(笑)そういえば、こないだ鯉の活け造りを食べて……(ここからしばらく鯉の活け造りが店で暴れまわった話に)で、もう鯉を食べるのはやめよう……って、あっ、なんの話だっけ! そうだ、採用。もちろん、技術や知識は大事ですけど、優しいとか、素直とか、ネガティブなことを言わないとか、性格のほうが重要ですね。
 

▲身振り手振りで「暴れまわる鯉の活け造り」トークを披露する片桐さん

――当媒体の読者には中高生も多いのですが、彼らに向けたメッセージをお願いします!

片桐:今やるべきことは、なにか1つのことを集中してやることです! 1つのことに集中して、それに対して職人になるか、博士になることを目指してほしい。どんなことでも、プロになるには1万時間必要だと言われています。早くからやりたいことを見つけるのは難しいですが、もし見つけたら、全力で頑張ってほしいです。

――ありがとうございます。最後に、pixivを今後どのようなサービスにしていきたいと考えてらっしゃいますか?

片桐:いま、新規会員の登録数の6割くらいが海外の人なんです。もっと海外のユーザーを増やして、グローバル化していきたいです。そのためには、海外でイベントを開くことも考えていますし、もっとpixiv自体をわかりやすく作り直さないといけないなと思っています。今は文字(日本語)が多すぎて、海外の方には不便ですし、もっと簡単にしていきます。2月に実装したスタンプ機能は、グローバル対応としてもうまく機能するといいなと思ったんですけど、改善点がたくさんある状態です。もっともっとpixivをよくしていきます!
 

▲この遊び心に溢れたオフィスでpixivは日々進歩している

好奇心たっぷりの少年っぽさと、webのエキスパートとしてのクールさを併せ持っている片桐さん。自身が体験したこと、思いついたこと、楽しいことを、自分もファンの一人として、確実に形にしてゆく。ここに、たくさんのユーザーを楽しませる秘訣があるのかもしれません。これからも進化していくpixiv、今後も1ユーザーとして楽しませていただきます!
 
取材・文/青柳美帆子、撮影=橋本商店