次々と洗脳されてゆく家族 衝撃の“一家乗っ取り”サスペンス/『寄居虫女』櫛木理宇

新刊著者インタビュー

更新日:2014/9/29

フィクションだからイヤな話でも楽しめる

櫛木さんといえば一般には、シリーズ累計50万部突破の青春ラブコメホラー『ホーンテッド・キャンパス』の書き手というイメージだろう。本作や『赤と白』のようなシリアスでダークな犯罪小説路線は、ファンにどう受け止められているのだろうか?

「どう受け止められているんでしょう(笑)。自分では『赤と白』『避雷針の夏』はすごく楽しんで書いたんですが、後味が悪い、読後感が最悪、というような感想が多かった。今回はまたイヤな話ではあるけど、最終的に救いがありますから。ハッピーエンドに着地するので、そう読後感は悪くないはずですよ。主人公も等身大の女の子だし、恋愛も入っていますから、『ホーンテッド・キャンパス』の路線とも近いと思うんです」

そうなのだ。皆川家の母娘4人が洗脳され、心身ともにボロボロになりながら、互いに憎悪をたぎらせてゆく過程は、目を覆いたくなるくらいにイヤで、無惨で、恐ろしいのだが、全体の読後感は決して悪くない。第4章とエピローグにおいて、しっかり救いのある展開が用意されているからだ。テクニカルに構築されたどんでん返しも鮮やかに決まっており、現実の事件を見事にフィクションに昇華している。『ホーンテッド・キャンパス』のファンも安心して、この計算された“イヤさ”を楽しんでほしい。

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「イヤな話は好きなんですよね。ルース・レンデルに『ロウフィールド館の惨劇』という作品があって、本当にイヤな話なんだけど、もう十数回は読み返しています。ホラー映画でも小説でもフィクションだから楽しめるんだ、というところはありますよね。この作品も犯罪ドキュメントではありません。あくまでフィクションなので、そのつもりで楽しんでいただきたいですね」

誰もが抱えるちょっとした不平不満。平凡な家庭に潜んでいるほころび。山口葉月はそこに目を付け、身体を滑り込ませてくる。

「一緒に住んでいても、家族とちゃんと話していない人っていっぱいいると思うんです。会話しているつもりでも、テレビにコメントしているだけだったり。それぞれが個として動いているから、困ったことがあっても家族に相談するわけでもない。最近親子でちゃんと話していないという人ほど、この作品の感覚がよく分かってもらえると思います」

うちは仲が良いから、どんなことがあっても大丈夫? 本書を読み終えてもまだ、あなたはそう断言できるだろうか。

取材・文=朝宮運河 写真=山口宏之

 

紙『寄居虫女』

櫛木理宇 KADOKAWA 角川書店 1500円(税別)

息子を事故で失い、生きる気力をなくしていた皆川留美子の前に、やせ衰えた少年・朋巳が現れる。家族の反対を押し切って、朋巳を保護することに決めた留美子。やがて皆川家には朋巳の母親・山口葉月も同居するようになり……。平凡な一家に入りこみ、服従させ、すべてを奪い尽くす寄居虫女の凶行を描いた戦慄の長編。