マンガ・アニメ・ゲームの総合ミュージアムが誕生!? 明治大学の構想とは

アニメ

更新日:2014/9/20

東京国際マンガ図書館

 マンガ・アニメ・ゲームの総合的ミュージアム「東京国際マンガ図書館」(仮)が準備されているという。

 この施設を計画しているのは、創立133年を迎える名門・明治大学。日本のサブカルチャーを総合的に俯瞰できる施設設立を目指している。

 しかし明治大学でマンガといえば、「米沢嘉博記念図書館」が有名だ。こちらがあるにも関わらず、なぜ新設させるのか。その意図はいかに? 「東京国際マンガ図書館」(仮)の設立に関わる、同大学国際日本学部・森川嘉一郎准教授にうかがった。



▲東京国際マンガ図書館(仮)のイメージ図


■今年度中は無理?

「『米沢嘉博記念図書館』は2009年にオープンしたマンガとサブカルチャーの専門図書館ですが、これは当初からより大きな施設構想の実現に向けた、ステップの一つとして造られたものなんです。
 その構想自体はすでに公表していて、2014年度を”完成目標”として謳ってきました。実際の完成はそれよりもう少し先に延びるのですが、計画が停滞しているわけではありません。そのあたりの背景をお話しします」


▲森川嘉一郎准教授。施設準備を貫くモチベーションは、幼少期に海外で過ごし、マンガやアニメへの渇望感だとか

 その施設構想とはいったいどのようなものなのか、経緯と現在の様子を教えてくれた。話は、米沢嘉博記念図書館設立の前までさかのぼる。

 図書館の名前にもなっている米沢嘉博氏とは、コミケの創設メンバー。その米沢氏が長く代表を務めていたコミックマーケット準備会では、1975年の初回開催以来、コミケで頒布されてきたほぼすべての同人誌の見本を回収・保存してきたという。さらに米沢氏は、マンガ評論家として、個人としても、一般に流通しているマンガを多数収集していた。

「国会図書館に収蔵されているマンガの雑誌や単行本は、30数万点と推計されています。それが納本制度がはじまった1948年以来、日本で一般の書店に流通する形で出版されてきたマンガの総数を表しています。しかしコミックマーケット準備会で保存している同人誌の見本誌は、約200万点。出版点数(本の種類の数)でいえば、書店で売られるマンガより、同人誌の方が遥かに多く発行されているのです」

 書店に流通しているマンガも相当な数だが、それをはるかにしのぐのが同人誌の発行数だ。発行部数は少なくとも、種類は膨大。同人誌のパワーを感じさせられる。


▲米沢嘉博記念図書館の閲覧室


■戦後マンガ史を網羅したコレクション

 森川先生がこうした資料を保存するための施設を作りたいと活動をはじめたのは、2005年のこと。森川先生は2004年に「ヴェネツィア・ビエンナーレ」日本館でコミッショナー(キュレーター)を務め、「おたく」展を製作した。
 そのときの展示物を保存する場所を探しはじめたことがきっかけとなり、米沢氏と、内記稔夫氏と協力することとなった。内記氏もやはり膨大なマンガのコレクションを築いていた。

「内記さんのコレクションは、ドラマ『ゲゲゲの女房』で描かれたような貸本屋のために出版されていた、いわゆる「貸本マンガ」を多く抱えていることが特徴です。貸本マンガは国会図書館にもあまり収蔵されておらず、いまとなっては貴重なものです。その時代から現在にいたるまでの、主だったマンガの雑誌や単行本を約18万冊擁しています。
 またヴェネツィア・ビエンナーレの展示品は、90年代末からオタクの街と化した秋葉原を再現するために、膨大な量のフィギュアをはじめとするさまざまなアキバ系のアイテムを集めたものです。
 この3つのコレクションを核にしつつ、さらに企画展やイベントを開催できる空間を併設すれば、施設として成立すると考えたのです。
 問題は土地と建物をどうするのか、ということでした」

 自治体にプレゼンを行うなど働きかけをしてきた森川先生。なかなか行き場が見つからないなか、2006年に、米沢氏が急逝。それと前後して、ある話が舞い込んだ。

「明治大学が2008年に新学部を創設するので、相談したいという話でした。”国際日本学部”という名前で、日本の文化や社会に関する教養を持ち、海外で活躍できる人材を育てるというコンセプトです。その中で、マンガやアニメなどのポップカルチャーも扱いたい、と。そこで自己紹介がてら先ほどの施設構想を説明しました。その結果、明大で実現できるかもしれないという運びになったんです」

 そうして構想が実現に向けて一歩前進するとともに、森川先生はその国際日本学部の教員として、明大で教鞭をとることになった。


■施設を新築しないと収まらない

「マンガ・アニメ・ゲームの複合施設を作るという構想は、明大の中で、『東京国際マンガ図書館』という仮称で検討されていくこととなります。ほどよい大きさの校舎が空くことになっていたので、改装工事をすることで実現できる見込みが立ちました。
 それでも大きな施設なので、諸々の段取りだけで4、5年はかかりそうでした。ところが、キャンパスに隣接する小さなビルが売りに出されて明大がこれを買い取った結果、いきなりそこを先行準備施設として使えることになったのです。
 そこでまずは米沢さんの個人蔵書をそこに集めて整理し、『米沢嘉博記念図書館』としてビルを使うことになりました。これは暫定施設で、最終的な施設が完成したら蔵書と機能はすべてそちらに複合するという計画です」

 つまり、最初に東京国際マンガ図書館ありきで、米沢嘉博記念図書館は、その行程というわけだ。
 ここでは米沢さんが集めた膨大なマンガ雑誌や単行本の蔵書に加え、年2回のコミケの度に、そこで頒布されたほぼすべての同人誌を一定期間、閲覧提供している。その同人誌の数は年約10万点集まってくる!


▲米沢嘉博記念図書館の書庫。これはコミケ1回分の同人誌。1回でも約5万点に及ぶ


■日本サブカルのミュージアムに

 ではその東京国際マンガ図書館とは、どのような施設になるのか。

「これまで『東京国際マンガ図書館』という仮称で計画を公表してきましたが、すでに『東京国際マンガミュージアム』へと仮称を更新する方向になっています。原画やゲーム機など、通常の”図書館”とよりも幅広い資料をアーカイブし、ミュージアム機能やシアター機能、さらにイベントスペースとしての機能を持つことになるからです」

 今はマンガがコレクションの大部分を占めているが、アニメやゲームも収蔵していく。さらにフィギュアや関連商品も含めて、マンガ・アニメ・ゲームの歴史を見渡せるような常設展示を行う予定だという。

「マンガやアニメの展示はすでに、特定の作品や作家に焦点を合わせた期間限定の企画展という形で、すでに各地で頻繁に催されています。
 しかし、さまざまな作品や作家、メーカー、さらにはジャンルや時代にまたがり、通史的に見ることのできるような常設展示は、まだどこにもありません。
 大型の博物館や美術館には、文化史なり美術史なりを一望できる常設展があります。マンガ・アニメ・ゲームの複合的なアーカイブ施設を造ろうとする以上、この分野の体系的な展示は不可欠だと考えています。
 そのために展示用のアイテムの収集をずっと行っています」


▲閲覧室には、有名マンガ家さんの直筆色紙とともに古今のマンガが見られる

 コレクションの対象は多岐に渡る。マンガの原稿を初め、アニメの原画・セル画、ゲームの基板などはもちろん。店頭販促用のキャラクター等身大のポップスタンド。さらに劇場ポスターなど多岐に渡る。そうした原画等の資料がすでに多数集められているタイトルも、興味深い物ばかり。ほんの一例だが、スタジオジブリ作品、『ルパン三世カリオストロの城』『機動戦士ガンダム』『新世紀エヴァンゲリオン』『超時空要塞マクロス』……などなど。

 正直、今すぐ見てみたいものばかりだ。先生、いつになったらマンガミュージアムはオープンするの?

「すでに開館できるくらい収蔵コレクションは集まっています。あとは、器(建物)の問題です。構想を公表したときは、既存校舎を転用する計画のため、2014年度を完成目標として謳っていました。
 ところが構想を公表したところ、想定外に多量でかつ多様な寄贈の提案を新たに頂いたのです。これらをきちんと収蔵して運用しようとすると、既存校舎の転用ではうまくいかないということになり、新築する方向になったんです。だから、もう数年先になります。
 オープンは先延ばしになりましたが、まだ公にできないことも着々と決まっています。目処が付き次第、発表します」


▲東京国際マンガミュージアムに向けて集められたアニメ作品の原画など、お宝の数々


 戦後、マンガの歴史がはじまってから、約70年。現代の日本人のライフスタイルや価値観を知るツールとして、文学は研究されている。しかし、文学と同じくらい書店で扱われているマンガにはスポットが当たっていなかった。日本文化を多面的に知る資料として、マンガ・アニメ・ゲームは不可欠だ。
 後世に、海外に、優れた文化を発信する場としてオープンに期待したい!

明治大学

■明治大学「米沢嘉博記念図書館」
公式HPにて、展示・イベント案内を告知。
1日会員300円、1ヶ月会員2,000円
http://www.meiji.ac.jp/manga/yonezawa_lib/

■「明治大学 現代マンガ図書館」
昔の貸本マンガから現在のマンガまで総覧できる
https://sites.google.com/site/naikilib/

■森川先生に学べる
日本国際学部はこちら
http://www.meiji.ac.jp/nippon/

(取材・文=武藤徉子)