海外からの留学生を通じて知る、日本へのアニメ留学事情。彼らの思い、きっかけとは?

アニメ

公開日:2014/9/27


 世界へ向けて相次いで、日本のコンテンツが発信されている。経済産業省による「クールジャパン」戦略も目立つが、クリエイター個人としてネットを使い情報を発信し続けながら、アニメやマンガ、アイドルなどのいわゆるサブカルを中心に海外へ飛び立つ事例も多く、今後ますます勢いを加速させていきそうだ。

 そして、特にアニメにおいては「アニメ先進国」とも呼ばれる日本だが、現在、アニメの監督やアニメーター、声優などに憧れて日本へ留学してくる海外からの学生も少なくない。従来から「ものづくり大国」と呼ばれてきた日本だが、自動車や家電などの製造業だけではなく、アニメというコンテンツの担い手となるべく留学してきた人たちは、なぜ日本へやってきたのか。高田馬場に校舎を持つ東京アニメーションカレッジ専門学校の留学生にお話を伺った。

 1人目は、中国からアニメーターとなるべく留学してきたというリュウさん(28才)である。上海音楽大学を卒業後に、中国で3年間、音楽関係の仕事へ携わっていたという。その後、思い立って日本へ留学してきたというが、日本のアニメに対する思いや留学のきっかけなどをお話いただいた。


▲クリエイターとして活躍するべく、アニメ制作を学びにやってきたというリュウさん。

――日本のアニメが好きになったきっかけと、好きな作品などをお聞かせ下さい。

「きっかけは、宮﨑駿監督のジブリ映画を見たことでした。映像がきれいで音楽も素晴らしく、魅了されましたね。他には『MONSTER』や『妄想代理人』が好きです。日本のアニメは、人や風景がきれいに細かく書き込まれているのが最大の魅力だと思います」

――中国の国内でアニメは放送されていますか?

「日本のアニメがふつうに流れているので、自分自身もよく見ていました。日本の作品は国内でも人気ですね。中国で作られたアニメもあるのですが、どちらかといえば子ども向けで、教育目的のものが多いです」

――日本で学ぼうとしたきっかけは何でしたか?

「日本のアニメは描写が細かく、きれいで惹きつけられる作品がひじょうに多かったので、学びたいと思いました。また、もともと中国で音楽関係の仕事へ関わる中で、たまたまアニメ作品に携わったことがあったんです。そのときに、自分も将来、アニメ監督の立場から作品に関われるようになりたいという思いがわきあがってきました」

――ふだんの学校生活では、どういったことを学んでいますか?

「現在は『アニメプロデュースコース』で、絵コンテを描いて起こしたりするなど、アニメ制作の現場に近いものを勉強しています。カリキュラムの中では、5分位の短編作品も実際に作ったりと、もともと『演出を学びたい』と考えていたのもあり、入学してから1年半(同コースは3年制)ほどでたくさんのことを学びました」

 リュウさんの所属する「アニメプロデュースコース」は、現場での即戦力となれるクリエイターを育てるという目標のもと、企画やキャラクターデザイン、シナリオなどのいわゆる作品の骨格を作り上げる段階から、動画の編集や音響効果など、一つの作品を形作るまでの工程をすべて経験することで、アニメ作品全体をプロデュースする力を積み上げられるカリキュラムが用意されている。


▲制作現場全体を見渡す役割となるべく、作品の完成までをプロデュースする力を養う(画像は、同校2015年度向けパンフレットより)

 あと1年半ほどで専門学校での過程を終えるリュウさんだが、最後に、将来への夢や思いを語って頂いた。

「ゆくゆくは、中国のアニメ業界で日本のような作品を作りたいと考えています。現地で30人ほどのスタッフを抱えたスタジオを作り、宮﨑駿監督のような立場から制作へ関わっていきたいと思いますね。そして、テレビ作品から実績を積み重ねていき、映画のような大作を人生のうちに残していければと願っています」

 さて、続いてインタビューに応じてくれたのは、2014年、声優をめざすために入学したというエリーさん(29才)だ。韓国で生まれたあと、アメリカへと渡った。18才からはUCLA(カリフォルニア大学 ロサンゼルス校)で日本語や日本文学について学び、卒業後はラスベガスのホテルへ就職。しかし、あるときふと「声優になりたい」という思いが芽生えてきて、見知らぬ土地での生活に不安を抱えながらも一念発起して日本への留学を決意したという。



▲旅行経験はありながらも、まったくの見知らぬ土地へ一念発起して留学を決意したエリーさん。

――日本のアニメへふれるようになったきっかけは何ですか?

「韓国へ住んでいた幼い頃、母親が好きだった日本のアニメを私も隣で観ていたんです。記憶にある限りでは『ベルサイユの薔薇』が、初めて観た日本の作品だったと思います。その影響もあってか大人になってからもアニメが好きという気持ちは変わりなく、最近の作品では、『黒執事』や『夏目友人帳』が好きですね」

――エリーさんが思う、日本のアニメにみられる特徴は何ですか?

「登場人物たちの気持ちなどが細かく描かれているストーリーに、魅力を感じています。アニメを見ながら感情移入しやすい。韓国に住んでいた当時は日本のアニメをよく観ていたのですが、アメリカだとわりとロボットが登場したり、ケンカしたりする作品が多かった印象があります」

――声優をめざして日本へ来られたということですが、憧れの声優さんはいますか?

「坂本真綾さんですね。声優としての活躍されているのはもちろんですが、音楽活動など多方面で活躍されているも尊敬しています。今も、真綾さんのCDなどをたくさん持っていてよく聴いています」

――日本で声優になりたいと思うきっかけはどういったことからだったんですか?

「ハッキリとしたきっかけはよく覚えていないんですが、ある日ふと『声優になりたい』という思いが、自分の中にわき上がってきたんですね。ただ、日本へ行こうと決断するまでは悩みました。やはりこれまで勉強したものや生活がガラッと変わるということに、思うところが色々とあったのでだいぶ考えましたね」

――現在は、日本の生活に慣れましたか?

「半年ほど前に来てからは、意外とすぐ慣れました。ただ、いまだに朝の満員電車が苦手です(笑)」

――なるほど(笑)。入学から半年の現在は、どういった勉強をされているんですか?

「入学当初から先生に言われているのは『アクセントを直す』ということなので、日常でニュースや情報番組を見ながら、日本語の発音について勉強しています。また、学校では実際の台本を読む練習もしています。先生の指導を受けながら、棒読みするのではなく感情などをきちんと考えながら台詞を話せるように繰り返しています」

 エリーさんは現在、同校の「アニメ声優コース」へ所属している。2年制の同コースは、発音や発声の基礎レッスン、実際のアフレコを経て、声優として必要なノウハウをひとり一人の学生たちが勉強できるようになっている。


▲発声やアクセント指導、実際のアフレコを経験することで声の演技についてのスキルを習得していく(画像は、同校2015年度向けパンフレットより)

 入学してから半年、授業に組み込まれた歌舞伎の十八番「外郎売り」の一節を披露してくれたエリーさんだが、流れるようにハッキリとしたセリフ運びには、感嘆させられた。そして、今後もまだ勉強を重ねていく先にある、ご自身の未来像についても伺ってみた。

「自分自身が海外出身というのも個性だと思っているので、例えば、留学生や海外での生活が長かった役柄など、日本と他国のつながりを感じられるような役柄を演じるのが夢ですね。また、主人公の少年時代など、女性の声だけではなく男の子の声なども演じられる、声優になりたいと思っています」

 海外で生まれ育った人たちが、日本語で声を演じるというのはけっしてたやすい道ではない。言葉の壁はもちろん、作品や役柄にもよるだろうが、演じる上で文化などの背景を染みこませる意味でも容易にはいかない部分も想像される。
 また、就労ビザの取得が困難であるという背景もある。外務省のホームページによれば演劇などに関わる人達へ該当するのは「興行ビザ」と呼ばれるものだが、2006年より審査が厳格化されたこともあり、実際に声優として活躍するには、法律的な壁が立ちはだかっているのもいなめない。
 エリーさんがその先駆けとして、未来に活躍してくれることをぜひとも願いたい

 さて、アニメを制作する立場、そして、アニメの登場人物を演じる立場というそれぞれ異なる夢を抱き、日本へやってきた二人にお話を伺った。クリエイターや作品、声優への憧れという夢のきっかけは、日本人の抱く思いと変わらないようにみえる。ただ、勉強の場として日本を選んだというのは、やはり、日本の誇るアニメが世界にも認められているという一つの功績をあらわしているようにも思える。

 最後となるが、全国専門学校各種学校総連合会によれば、専門学校の留学生は2013年度に2万4,586人、大学なども含めた総数は13万5,519人だったという。今後、2020年までに各種学校すべて合わせて30万人をめざすとしているが、その中でも、日本のアニメに興味を抱き、羽ばたく人たちがよりいっそう増えることだろう。

◎取材協力
・東京アニメーションカレッジ専門学校
http://www.tokyo-anime.jp

◎参照
・全国専門学校各種学校総連合会「専門学校留学生をめぐる動向」
http://www.zensenkaku.gr.jp/cource/vocational_college/standing/fs_trend.html

取材/文=カネコシュウヘイ