声優志望者必見!「人生経験の全てが芝居につながっている」伊瀬茉莉也さんトークショー in総合学園ヒューマンアカデミー

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更新日:2014/11/23

■声優専攻コースに在籍する学生の感想

 トークショーの終了後、イベントに参加していた総合学園ヒューマンアカデミー大阪校のパフォーミングアーツカレッジに所属する田部由香梨さん(19歳)に感想をうかがった。

 「最初から最後までためになる講演で、伊瀬さんの言葉にとても勇気づけられました。伊瀬さんがおっしゃるように、これから日々の生活における発見を大切にしたいと思います。私は歌うことが好きなのですが、声優になってから歌う機会もたくさんあると思うので自分を信じて頑張りたいです」。田部さんは来年の春に学校を卒業し上京する予定だという。

 イベント終了後、伊瀬さんにトークショーについて振り返っていただいた。

――お疲れ様でした。先輩として声優を目指す人たちの間でお話をされてみていかがでしたか?

伊瀬:声優という職業に憧れを持って話を聞きに来てくれる人に会うことは私にとっても貴重な機会で、逆に皆さんからキラキラしたパワーをいただくことが多いです。仕事をしてしまっていると、業界内の難しい事や実践的な話をしてしまいがちなんですけど、自分が声優になろうと思ったきっかけや養成所にいた頃の話ができるのはこういう場ならではですし、皆さんにとっても得るものがあったらいいなと思って楽しくお話させていただきました。

――参加者の多くが学生ということもあって、あえて技巧的な事よりも心構えや精神面のお話をされたのでしょうか?

伊瀬:いえ、それは本当に私が大切だと思うことなんです。技術はやっていくうちに身につくものだと思うのですが、諦めない気持ちだったり、自分の中で燃えている気持ちは持とうとして持てるものではないと思うんです。その気持ちを持って、こうしてイベントに足を運んでくれる皆には、その気持ちをこれからも大切にして欲しいなと思っています。声優に限らず夢を持っている人にとっては、それが一番大切なことだと思って伝えたつもりです。

――講演では「人生経験が芝居に生きてくる」というお話をされていましたが、伊瀬さん自身がそれを感じた役はありますか?

伊瀬:もう、それは全部ですね。キャラクターたちが生きている世界は私たちが生きている世界とは全く違う、ファンタジーの世界だったりしますよね。そういう世界に入ってキャラクターの目線で追体験できることは声優ならではですが、そのキャラクターが持っている感情の根本は演じている役者の中からしか出ないものだと思います。なので、日々の生活の中でも何気なく過ごしていると見落としがちな感情の動きには、常に気を配っていますね。例えば、街を歩いている時も正面だけを見るんじゃなくて少し目線を上げてみる。すると、今日は空がきれいだなと感じたりして、日常生活の中からも自分にインプットできるものってたくさんあると思うんです。ちょっと意識するだけで普段の生活の中にも芝居に活かせるヒントがあるんじゃないかな。

――何か特別な事をするのではなく、日々の生活を充実させるということですね。やはり、私生活でも芝居のことは常に意識してしまいますか?

伊瀬:泣いている時や怒っている時でもどこかに冷静な自分がいて、人ってこうやって泣くんだな、とかは考えちゃいますね。役者の性ですかね。

――新しい役をもらった時も、声を考えるというよりも気持ちから作っていきますか?

伊瀬:最初は深く考え過ぎず作り過ぎず自分のインスピレーションのままにやったりしますね。自分なりにキャラクターを解釈してイメージする声を出してみて、それから音響監督さんの説明を受けて微調整していきます。

――10年近くのキャリアの中で、ターニングポイントとなった時期はありますか?

伊瀬:去年ですかね・・・。自分が思い描いていた声優という職業の理想と現実の違いが分かってきて、仕事している中で傷ついて悔しい思いをしました。自分の芝居に対してもフラストレーションっていうか、殻を破りたいと思ってふつふつしていた時期でしたね。そんな時に出会ったのが『惡の華』という作品でした。それが、普通のスタンドマイクを使って行うアフレコとは違って※ガンマイクを使っていて、あの挑戦はすごく自分の中で新しい風が吹きましたね。その現場で得たものとか始めてした経験は、レギュラーで続けている『HUNTER×HUNTER』の芝居にも活きましたし私の仕事に対する姿勢も変わりました。ターニングポイントは『惡の華』でしたね。

※ガンマイク…舞台やロケなどで使用される指向性の強いマイクロホン。『惡の華』のアフレコでは広範囲の音声を拾うことのできるガンマイクを使うことで、演者同士が向かい合う体勢となり臨場感あふれる掛け合いが行われた。

――劇中で伊瀬さんが演じられた仲村さんは、かなりエキセントリックな少女でしたが役柄の面でも影響を受けられましたか?

伊瀬:私自身の中にはいないキャラクターだったので、仲村さんを自分の中に取り入れるのに苦労しました。普段の生活から仲村さんになりきらないと演じきれなかったので影響はありましたね。『惡の華』を収録していた3ヶ月間は他の現場に行っても、マイク前に立って演じるという通常のアフレコが逆に違和感でした。

――では、最後にこれからどんな役者になっていきたいですか?

伊瀬:今はこんなふうになりたいとかは決めずに、やれることをしっかりとやっていって、プラス自分が学びたいことや吸収したいことをどんどんインプットする時期だと思っています。例えば、旅行したり映画とか舞台を観たりして、日々の生活の中で吸収したことを芝居の中で表現していける役者になりたいと思います。

 日本語の正しいイントネーションや、さまざまな声を使い分ける技術は声優にとって不可欠だ。だが、伊瀬さんが声優を目指す人たちに伝えたかったのは、技術よりも演じるキャラクターの考え方や感情を理解しようと努めること。そして、なによりも「声優になりたい」という強い意志を持ち自分自身を信じることだった。声優として生きてゆく人生は険しい。だが、本気で取り組んだ人には必ず結果がついてくるのではないだろうか。伊瀬さん自身がそれを証明してくれているように。

取材・文=松田はる菜