日本のアニメに字幕をつける中国人に、いろいろ聞いてみました。【中国のアニメ事情】

アニメ部

2014/12/20

 中国オタク事情を連載している百元です。第6回は中国で正規配信されている日本のアニメに中国語の字幕を付ける作業について紹介させていただきます。第1回で最近中国では日本のアニメの公式配信が活発に行われていると紹介させていただきましたが、先日そのアニメ公式配信ビジネスの初期から中国語字幕制作業務に関わってらっしゃるGさん(仮名)にお話を聞くことが出来ました。

◆中国語字幕加工の流れ

 Gさんによれば近年の中国の動画配信ビジネスにおける中国語字幕加工は大まかに3つのタイプがあるそうです。
1つ目は「直接現地動画サイトに動画と台本等の資料を丸投げする」
2つ目は「ライセンサー側の指定する字幕担当が一括した管理と加工を行い現地動画サイトに送る」
3つ目は「仲介業者を通して字幕加工や管理を行い現地動画サイトに送る」というものです。

 どれもコストとリスク、そして字幕のクオリティ等に関して一長一短ですが、字幕のクオリティは現地での人気に直結しますし、過去には人気作品の動画が日本放映前に流出する事故等も起きていますからコストだけで決めるのは少々危ない面もある模様です。

 そして作業の大まかな流れは、
1.台本等の資料が到着。翻訳を行う。外注の場合は翻訳文書のチェックも行う。
2.動画が到着。生データをエンコードして作業用データにする。
3.動画に字幕を付け再エンコードして配信用データにする。
といったものになるそうです。

 すべてスムーズに進めばアニメ1話の作業時間はチェックも含めて計6時間程度となるそうですが、それはあくまで理想の話。会話(=字幕の量)の多い作品や翻訳の難しい話が来ると作業時間は延びますし、台本等の資料が遅れたり、動画の納品が遅れたり、更には回線状況に関するトラブルも有り得るので予定通りにいかない事も珍しくないのだとか。しかしそれでも台本等の資料があり放映前から作業を行えるのでファンサブに比べて概ね安定したスケジュール、クオリティで中国語字幕版を提供できる体制になっているそうです。

◆中国語字幕加工作業の悩み

 スケジュールが予定通りに進まない等のトラブルの他にも中国語字幕作成に関する悩みは様々なモノがあるそうですが、中でも比較的大きなものを紹介させていただきます。

 まずは作品ごとに難しさが異なる点。中国語字幕作成が比較的やり易い作品は現実の日常を舞台にした作品、例えば「けいおん!」のような作品だそうですが、逆に難しい作品はSFやファンタジー等の特殊な用語、造語の多い作品だそうです。

 そういった部分に関しては対応するものが公式に出ている中国語版に存在すればそちらを使い、どうしても見つからなければ現地ファンの認識で比較的問題の少ないであろうものにする……といった工夫をしているのだとか。

 また意外に難しいのがスポーツ系の作品だそうで、これは作中に出てくる競技関係用語の多くに中国語で対応する用語が存在することから「間違ってはならない専門用語」が多く、タイトなスケジュールでその辺りを調べて訳すのはかなり骨が折れるという話です。

 それから中国本土と香港や台湾では言葉のニュアンスや言い回し、決め台詞等に違いがあるのも難しい所だそうです。最近は中国本土と香港、台湾で同時展開する作品も珍しくありませんが、同じ中国語と言っても中国本土と香港、それから台湾との間には簡体字と繁体字の違いだけでなく言葉の感覚が微妙に異なるという事情が存在します。もちろん基本的な意味は通じるのですが、娯楽コンテンツではその微妙な差による違和感が無視できないものとなってしまうケースも少なくないのだとか。

 これは固有名詞や作品名にも及びますが、作品名に関しては特に重要で、次々に新作が出てくる現在のアニメ配信においては初動でファンを掴まなければ厳しいため、もし「見たいと思えない名前」等と受け取られたら大きなマイナスとなってしまうそうです。

 こういった微妙な言葉の感覚の違いに関しては、少々ひっかかりはあっても既に中国本土でも広まっているので問題無いものから、台湾や香港と中国本土では印象が異なるもの、更には中国本土で既に別の言葉や言い回しで広まり認識されているものまであるそうで、この辺りの判断と調整、それに加えて、「なぜ香港や台湾とは別の言葉にするのか」という事に関するライセンサーへの説明等は実に悩ましい問題だということです。

◆公式字幕配信による、新しい作品の伝わり方

 今回お話を聞いていて個人的に興味深かったのはGさんが、
「字幕が出しゃばらないようにする、字幕を意識させないレベルにできるのが理想」
「制作側の意図している内容、日本の視聴者が受け取るものに可能な限り近づけたい」
というスタンスで字幕を制作しているという点でした。

 実はこのような「字幕が前に出ない」というスタンスは、ファンサブ中心でオタク系のコンテンツが広まった中国ではやや珍しい部類に入ります。
中国のファンサブ系字幕はオタク的な能力のアピールの場となっている面もあり、翻訳に訳者の解釈や好みの言い回し等を強く出したり、ウケ狙いでネットスラングを多用したり、中国特有のネタをセリフに仕込むといったことも行われています。

 もちろん「作品が好き」という熱意や知識により質の高い翻訳が行われるケースも少なくないそうですが、結果的に日本の視聴者が受け取っているものとズレが発生しているようなケースも珍しくないという話です。

 そんな背景がある中で、正規の配信による安定したコンテンツの提供と共に「字幕が前に出ないようにする」というGさんのようなスタンスの字幕がつけられた日本のアニメが広まっているというのは面白い変化にも感じられます。

 ちなみにGさん自身もオタクの方なので、「やってみたかった作品や自分の字幕で広めたかった作品はありますか?」と聞いてみた所、「『まどか☆マギカ』の劇場版の字幕はやってみたかったですね。最近の作品では自分がファンになった『ヤマノススメ』や『普通の女子校生が【ろこどる】やってみた。』を自分の字幕で広めてみたいと思いました!」と答えてくださいました。

文=百元籠羊