瀬戸康史「いかに芝居をしないか。自分のすべてを出しきるつもりで臨みます」

あの人と本の話 and more

公開日:2015/1/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、俳優の瀬戸康史さん。「これまでにない役、世界観への挑戦」だと語る、舞台『マーキュリー・ファー Mercury Fur』が、いよいよ開幕。過剰なまでにグロテスクで美しい、その作品から気付かされたこととは?

 映画『わたしのハワイの歩きかた』『僕は友達が少ない』、ドラマ『株価暴落』『ライドライドライド』『ロストデイズ』など、2014年は映像作品を中心に活躍した瀬戸さん。『マーキュリー・ファー』は、『八犬伝』以来、約2年ぶりの舞台出演作となる。

「舞台は、役者としてものすごく大切にしている場所なんです。実をいうと、どこかまだ恐怖心が少しあって、それを消せないでいるんですね。映像作品に比べて、舞台は役やストーリーに浸っている時間が長い。それは自分のなかで葛藤する時間が長いということでもあって、“役を理解できた”と確信しても、突如としてわからなくなることもある。その恐怖がいつもつきまとっている場所ですね」

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『マーキュリー・ファー』の脚本を読み、強く感じたこと、役者として実現したいこと――それは「いかに芝居をしないか」

「たとえば役者をしていない人でも、普段から“芝居”をしていると思うんです。人に会った時は行儀よくしなくちゃ、とか(笑)。けれど舞台のうえでは、あえて芝居をしないことで、いろんな表現が生まれてくるのではないか――そのことをこの『マーキュリー・ファー』からは痛烈に感じました。描かれている世界が非現実的で、入っていきにくいからこそ、逆に“芝居”をしてはいけない、自分の感じたこと、あるがまますべてを出さなければいけないのだと思います

 今年のNHK大河ドラマ『花燃ゆ』では、高杉晋作、久坂玄瑞と並び称される松陰門下の三傑のひとり、吉田稔麿を演じる。幕末の乱世を走り抜け、池田屋事件において24歳の若さで斃れた志高き青年武士――。

「“歴史の勉強”というワードが、いかに視聴者の方々の脳裏に浮かばないようにするか。そこを追求しつつ、役に臨んでいます。それもまた“芝居をしない”ということにつながっていく。芝居ではなく、“そこに生きる”稔麿を演じたいと思っています」

(取材・文=河村道子 写真=下林彩子)

瀬戸康史

せと・こうじ●1988年、福岡県生まれ。D-BOYSメンバー。2015年でデビュー10周年を迎える。ドラマ『株価暴落』『ロストデイズ』(主演)映画『わたしのハワイの歩きかた』舞台『八犬伝』など出演作多数。大河ドラマ『花燃ゆ』では、松下村塾“四天王”のひとり、吉田稔麿を演じ、秋には杉浦日向子原作で渡辺あやが脚本を手掛けた主演映画『合葬』の公開が控えている。
ヘアメイク=須賀元子 スタイリング=小林洋次郎(yolken) 衣装協力=ブルゾン2万3000円(税別)(ハムネット/キャサリン ハムネット プレスルーム TEL03-5784-3327)、タートル2万円(税別)(キャサリン ハムネット/キャサリン ハムネット プレスルーム TEL03-5784-3327)

 

『潮騒』書影

紙『潮騒』

三島由紀夫 新潮文庫 430円(税別)

伊勢湾を臨む歌島の素朴な青年・新治、島へと呼び戻された美しい少女・初江。惹かれ合う2人だが、父を亡くし、漁夫として家族を支える彼と、裕福な家の初江には隔たりがあった。そして村に立った心ない噂……だが2人の恋は真摯に進んでいく。古代ギリシア的人間像に対する憧憬が生んだ青春小説の金字塔。

※瀬戸康史さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ2月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

舞台『マーキュリー・ファー Mercury Fur』

作/フィリップ・リドリー 演出/白井 晃 出演/高橋一生、瀬戸康史ほか 2月1日(日)~22日(日) シアタートラム
●暴力、略奪がはびこる街。生と愛を渇望する兄弟の切なくも美しく生きる姿、極限状態に置かれた人々が生きるために繰返す残酷な行為……他者を排除してでも生きようとする姿が現代日本と重なり合う。過激な表現のなかに人の美しさを描く衝撃作。日本初演。
写真=西村 淳