凶暴さと美しさが共存した9つの鬼の物語 【京極夏彦インタビュー】

新刊著者インタビュー

2015/4/6

シリーズのコンセプトにもっとも忠実に書けた作品

 美しい日本語表現や、斬新な小説技巧に出会えるのも、京極作品の大きな魅力。
 本書でも2人の僧侶の討論の行方を文字組とページレイアウトで表現した「鬼情」や、時代背景と台詞まわしのズレが独特の効果をあげている「鬼慕」など、変幻自在のテクニシャンぶりを堪能することができる。小説とはこんなに自由なものなのか、と驚かされることだろう。

「視点人物に感情移入できたほうが伝わりやすい作品なら、たとえば視点人物の性別を完全に不明にしてしまえれば、男性読者は男性として、女性読者は女性として読んでもらえるんじゃないかとか、そういうくだらないことは考えますね。でも決して実験小説じゃないんです。そんな高尚なものじゃなく、変なだけです。そもそもこのシリーズは、怪談じゃなくて『どこにも載せてもらえないような変な小説』なら書きます、ということでスタートしたものですし」

 ラストを飾る一編「鬼神」は、疫病によって滅んだ村から逃げ出した少年の物語。優しかった祖父母に会いたいという少年の思いは、やがて死者が集まっているという山に向けられてゆく。しかしそこには人を喰う鬼がいる、とも言われていた。残酷さの中にある一条の救いがしみじみと染み入るこの物語をもって、9つの鬼にまつわる物語は幕を閉じる。

「さっきお話ししたように、日本の鬼には複雑な成立背景があります。せっかく『鬼談』なんだから日本の鬼観念と、儒教的な死生観がクロスするような話をラストに持ってこようと思いました。山に行ったら懐かしい人に会えるというのは、鬼に喰われるのと同じこと。生きている限り、死んだ人には会えないんですから。結局、主人公のした選択は、人間として生きるという選択なんだけれども、その結果どうなるのかは、知りません。読者に委ねます。残酷で酷い話ではあるんだけど、それを希望と取る人は、健全なのかもしれませんね」

 本書を通読すると、本来の意味での鬼がどんなものなのか、おぼろげながら掴めてくるだろう。それは超自然的な怪物でも、角を生やしたキャラクターでもない。日常にふいに姿を現す、甚だしいもの、凶暴なものの集合体。わたしたちの心の中にもきっと眠っている、とても恐ろしい何ものかだ。

「鬼とは何か、という話をするととても長くなるんですが、この小説を読めば何となく分かっていただけるかも。もちろん押しつけるつもりはまったくありませんが、豆を撒いたら逃げていくのが鬼だ、というイメージだけじゃ鬼も可哀相。そろそろ勘弁してあげたら、と言いたい気持ちはありますよ(笑)」

 現代の戯作者・京極夏彦が、存在しないものを見事に描き出した超絶の作品集。「 」談シリーズはやっぱり凄い。

取材・文=朝宮運河 写真=川口宗道

 

紙『鬼談』

京極夏彦 KADOKAWA 1500円(税別)

窓から忍んでくる姿のない存在。800人の子供の首を斬り落とすことになった男の嘆き。幼い息子に対して父親がとった不可解な行動──。京極夏彦が描く9つの「鬼」の物語。『雨月物語』を下敷きに異様な愛の世界を描いた「鬼情」「鬼慕」も収録。著者の真骨頂として怪奇幻想ファンに絶賛されてきた「 」談シリーズ第4弾。