工藤夕貴「戦中の日本を舞台にした物語なのに、ヨーロッパ映画を感じさせる、不思議な作品です」

あの人と本の話 and more

2015/7/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、8月8日より公開される映画『この国の空』に出演している工藤夕貴さん。「脚本を読んで、その面白さに惹かれた」と話す工藤さんが感じた、この映画の魅力とは?

「戦争を題材にしていますが、凄惨な戦闘シーンがあるわけではなく、恋愛映画でもあるのですが、分かりやすい純愛を描いているわけではないんですよね。ひと言で“こんな映画です”と説明するのが難しい作品。でも、ご覧いただければ、絶対に“観てよかった”と思ってもらえる自信があります」

 戦時中の東京で暮らす母と娘。娘の里子(二階堂ふみ)は、疎開させた妻子と離れて生活を送る隣家の市毛猛男(長谷川博己)の身の回りの世話をするうちに、次第に淡い恋心を抱いていく。工藤さん演じる母親は、そんな娘の姿に“女”へと成長していく姿を感じ取っていくのだが……。

「言ってしまえば不倫ですし、戦争中という状況を考えると、許される恋ではないんです。ですから当然、娘にも『その恋心は胸の内に秘めておきなさい』と諭す。でも、その一方で、男性と結ばれることなく戦争で死んでしまうかもしれない娘を不憫に思う気持ちもあって。そうした複雑な想いを、母の蔦枝は隠すことなく、ありのまま娘に伝えるんです」

 時に母親として、時に同じ女性として。その姿に、「こんな親子の関係もあるんだと、新鮮さと驚き、それに面白さを感じました」と話す。

 また、今作でメガホンを取ったのは、『共喰い』や『さよなら歌舞伎町』など数々の話題作の脚本を手がけてきた荒井晴彦だ。「脚本家としても素晴らしい方ですが、役柄のいろんな解釈の引き出しを持っていらして。撮影中もアドバイスをたくさんいただきました」と現場での様子を振り返る。

「全体的なストーリーとしては、それほど劇的な展開があるわけではないんです。でも、荒井監督の手にかかれば、メロドラマになりがちな物語も芸術的な作品へと変わってしまうんですよね。出来上がった映像を観ても、淡々と時間が流れているようで濃密な空気感が感じられるし、ふとした登場人物の表情からもいろんな感情が伝わってくる。時々、戦中を舞台にした物語ということを忘れて、まるでヨーロッパ映画を観ているような感覚になりました」

「誰かを愛したり、愛されたいと思う気持ちは止められるものではない」と工藤さん。「人間とはそういう生臭い生き物なんだ、ということを描いた作品。でも、そこに嫌味はなく、“それでいいのかも”って思わせてくれるんです。ぜひ、ひとりでも多くの方に観ていただきたいですね」

(取材・文=倉田モトキ 撮影=山口宏之)

工藤夕貴

くどう・ゆうき●1971年東京都生まれ。石井聰亙監督の『逆噴射家族』(84年)、相米慎二監督の『台風クラブ』(85年)に出演。実力派女優として人気を博す。16歳からハリウッドに挑戦。89年にジム・ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』に出演。以降、海外でも多くの作品に出演。現在は、女優業と並行し静岡県で農園活動も積極的に行っている。
ヘアメイク=スズキミナコ スタイリング=木村舞子

 

『自然農法 わら一本の革命』書影

紙『自然農法 わら一本の革命』

福岡正信 春秋社 1200円(税別)

田を耕すことなく、肥料もやらず、草もとらない……。驚異の自然農法を自ら編み出し、世界中のエコロジストに多大なインパクトを与えた、目からウロコのハウツー本。その内容は農業だけでなく、“何もしない”生き方を説く「無の哲学」にまでおよび、初出から30年以上経った今でも、多くの者を魅了している。

※工藤夕貴さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ8月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

映画『この国の空』

原作/高井有一『この国の空』(新潮文庫刊)
監督・脚本/荒井晴彦 出演/二階堂ふみ、長谷川博己、富田靖子、利重 剛、工藤夕貴ほか
8月8日(土)より全国ロードショー 
●谷崎潤一郎賞を受賞した高井有一による同名小説を、人気脚本家・荒井晴彦が18年ぶりにメガホンをとり映画化。母と2人、空襲に怯えながらも気丈に生きる19歳の里子は、隣人の年上の男性に惹かれ、やがて自分の中に「女」が芽生えていくのを感じ始めていく。
©2015「この国の空」製作委員会