菊池亜希子「その瞬間、強烈に結びついた相手が私にもいたんです」

あの人と本の話 and more

2015/7/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、よしもとばなな原作の主演映画『海のふた』の公開を7月18日に控えた菊池亜希子さん。おすすめの短編集『私たちは塩を減らそう』(前田司郎/著)の中で、一番衝撃を受けた「悪い双子」と映画の共通点について語ってもらった。

 幼いころに死んだ双子の幻影を求め続けるイチオは、あるとき同い年のハトコに出会う。彼女こそが双子なのじゃないか。そんな妄想を巡らせ、ハトコと一つになりたいと願うイチオ。その昏くて深い欲望を綴った「悪い双子」を読んで、菊池さんは“前田さんはこんな作品も書くのか”と驚いたという。

「これまでの前田さんの作品は、読み終わったあと、抱きしめたくなるような気持ちになることが多かった。だけど『悪い双子』はまったく違っていて、目を背けたくなる描写も多いのに情景が浮かんできて、揺さぶられる。五感で読まされた作品でした」

 断片的な記憶を繋ぎ合わせたイチオの語りは、読む者を惑わせ、現実と妄想の境を曖昧にさせる。

「混乱はするんですけど、自分の心象風景と重なるところもあって。イチオが追う双子のような存在が、私にもいたような気がするんです。近所の幼なじみかもしれないし、同級生かもしれない。誰かはわからないけれど、ある一瞬だけすごく深いところで結びついていた相手の記憶が、読みながらフラッシュバックしました。幻想かもしれないのだけど」

 その幻想こそが思春期であり青春というものなのではないか、と菊池さんは言う。

「『海のふた』のまりとはじめちゃんの関係も、それに似ていますよね。思春期の女の子同士って、まるで恋のように惹かれあうことがあるじゃないですか。異質な存在なのに目が離せなくて、相手の痛みも自分のことのように感じてしまう。寄り添っているうちに、気づけば自分が支えられていた。そんな二人の出会いは、最後の思春期だったんじゃないかな。蓄積してきた関係とも違う、強烈な結びつき。一瞬の夢みたいだけど、でも確かに存在していたその記憶こそ、人生においてとても大事なものなのだと思います」

(取材・文=立花もも 写真=鈴木慶子)

菊池亜希子

きくち・あきこ●1982年、岐阜県生まれ。女優・モデル。自身が編集長を務める書籍『菊池亜希子ムック マッシュ』は累計32万部を突破するヒットシリーズとなる。主な出演作に映画『森崎書店の日々』『わが母の記』『深夜食堂』、ドラマ『問題あるレストラン』など多数。主演映画『グッド・ストライプス』公開中。
ヘアメイク=廣瀬瑠美 スタイリング=岡本純子 衣装協力=ワンピース4万5000円(税別)(ミナ ペルホネン TEL03-5793-3700)

 

『私たちは塩を減らそう』書影

紙『私たちは塩を減らそう』

前田司郎 キノブックス 1600円(税別)

私このままこの人と結婚するのかなあ。なんだかピンと来ないんだ。──喧嘩はする。決め手はない。だけどくだらない話をして歩くのが楽しくて、まるで猫のじゃれあいのよう。そんな恋人たちの日常を描いた表題作ほか、映像化された話題作「ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ」など8編を集めた最新短編集。

※菊池亜希子さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ8月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

映画『海のふた』

原作/よしもとばなな(中公文庫) 監督/豊島圭介 出演/菊池亜希子、三根 梓、小林ユウキチ、天衣織女、鈴木慶一 配給/ファントム・フィルム 7月18日(土)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
●舞台美術の仕事を辞め、かき氷屋を始めようと地元・西伊豆に帰ってきたまり。祖母を失い、まりの実家に身を寄せることになった、顔に火傷の痕を負った少女・はじめの痛みに触れ、ともに開店準備を始める。メニューはみかん水と糖蜜、エスプレッソだけ。こだわりの店はついにオープンするが……。
©2015 よしもとばなな/『海のふた』製作委員会