ありふれた、けれど永遠に解けない 恋愛は究極の日常ミステリーです 岡崎琢磨インタビュー

新刊著者インタビュー

公開日:2015/8/6

ささやかで大切なことを“日常の謎”は見逃さない

 ラストに驚き、はじめから再びページを繰ると、“あ、ここにも、あそこにも!”と、仕掛けられた伏線の緻密さに驚く。

「プロットの段階で練るタイプだと思います。自分は本格ミステリーの人間だと思っているので、最初から最後までプロットを精密に組んでからじゃないと書けないし、書かない。特に後半の章では、大がかりなトリックを用いたので、かっちりと構成を組み立てていきました」

 そうした技巧的な作業から生まれる“日常の謎”の数々。岡崎さんがそれを追求してやまないはどうしてなのだろう。

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「やっぱり“日常である”ことにつきると思います。僕たちが生きている普通の世界のなかに存在しうる謎であるということに。そうしたものを書くことによって、日常のなかで感じること、葛藤することなどを描ける。フィクションのなかでしか書けないドラマチックなものだったら、何気ない心の動きというものは見逃されてしまうのではないかと思うんです。普段思う、ささやかな、けれど大切なことを描くために“日常の謎”はすごく適している。本作では、日常に寄り添ったこまやかな心情をより明確に、丁寧に描くことができました。そこが『タレーラン』とは少し違う、単行本作品ならではの味わいになったと思っています」

「これまで僕の小説を手にしたことのない方が読んでくださったらすごくうれしい。殊に夏樹と冬子、そして僕と同世代の方に」と、語る岡崎さん。文芸の香り漂う、初の単行本作品は、新たなスタートでもある。

「あとがきにも書いたのですが、本当にいろんな感想の出る作品だと思うんです。もちろん、この結末が気に入らないという方もいらっしゃるだろうというのは覚悟の上。たったひとつ、僕が望むのは、読んだことを覚えおいてほしい、ということです。こういう話を読んだなと、ずっと心の片隅に留めおいていただければ、著者としてこれほど幸せなことはない。そういう小説になったと思います」

 余談だが、岡崎さんが心をこめて執筆したあとがき、そこにも“日常の謎”のサプライズが。隅から隅まで気を配りながら、その妙技をじっくりと味わってほしい。

取材・文=河村道子 写真=鈴木慶子

 

紙『季節はうつる、メリーゴーランドのように』

岡崎琢磨 KADOKAWA 1400円(税別)

奇妙な出来事に説明をつける、つまり、キセツ。互いに季節の名前を持つ夏樹と冬子は、高校時代、“キセツ”を通じて無二の“親友”だった。冬子への恋心を封印したまま大人になった夏樹は久々に彼女に再会。今度こそ想いを伝えたいけれど……謎を乗せ巡る、煌めくような1年の結末とは? 究極の片思いミステリー。