戸次重幸「無口で孤独でダメな男。きっと初めてみる戸次重幸の姿がこの映画にはあります」

あの人と本の話 and more

2015/8/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、9月26日からの公開映画『ホコリと幻想』が控える戸次重幸さん。実は初主演映画でもあったこの作品について、役への思い、そして撮影当時の様子をうかがいました。

 間もなく公開される『ホコリと幻想』が自身にとって2作目の主演映画となる戸次さん。しかしこれはあくまで公開順の話。実はこの作品こそ、初めて主演としてオファーを受けたものになる。

「主演というのは役者にとって誉れですからね。お話しをいただいた時は、そりゃあうれしかったです。それに、役者の仕事って結果が形になって現れにくいもの。ですから、こうして主演に呼んでいただけたことで、自分の中で一つの成長を感じることができましたね」

 喜びのあまり、オファーがあった時は2つ返事でOK。台本を読んだのはその後だったという。

「もちろん、簡単なあらすじはうかがってました。でも、その後で改めてシナリオを読んでみたら、これがビックリするぐらいヒドい男(笑)。とにかく周りに迷惑をかけまくるんです。しかも、いざ撮影に入って演じてみると、その最初に持っていたイメージ以上に最低なヤツだと感じて。作品の中で、元同級生に罵倒されるんですが、“そりゃあ、そうだわ”って思いました(笑)」

 戸次さん演じる松野は、アーティストになることを夢見て、高校卒業と同時に上京したはいいが、まったく芽が出ず、数十年振りに、逃げ帰るように地元の旭川へ戻ってきた男だ。最初は快く受け入れてくれた仲間たちも、次第に彼の言動に不信感を抱き始め、やがて松野は故郷でも居場所を失っていく……。

「きっと松野は学生時代が黄金期だったんでしょうね。普通だったら、多少うぬぼれていても、社会に出れば自分の力のなさを痛感すると思うんです。でも、彼はそういうのをすべてシャットアウトして生きてきた。だからいつまで経っても、成長しないし、根拠のない自信だけを持ち続けているんです」

 演じながら、「イライラ、イライラしてました(笑)」と、戸次さん。でも不思議なことに、映画を観た周囲の女性からは意外な評価をもらうそうだ。

「女性には魅力的に映るそうです。ずっと夢を追い続けてる姿が素敵に見えるのかなぁ。でも、男性に感想を聞くとみんな僕と同じ意見。『やれもしないことを口にするな!』、『できないんだったら、まずはちゃんと謝罪をして、周りに迷惑をかけるな!』って(笑)」

 聞くと、ここまでダメな男を演じるのは初めてだそうだ。

「普段の僕はよく、“残念な男”と言われてますけどね(笑)。ただ、僕の近くにもこの松野に似た知人がいたんです。その姿を見ていただけに、松野が荒唐無稽な男とは思えなくって。その意味では、役のイメージはつきやすかったです。むしろ大変だったのは後半の演技。自問自答するように自分の殻に閉じこもっていくんですけど、セリフが全然なくって。どこまで演じても、“これでいいのかな?”っていう不安感がありました。きっとそうした孤独で静かな僕の演技をファンの方もあまり観たことがないと思いますので、ぜひ映画館で今までにない戸次重幸を感じてください!」

(取材・文=倉田モトキ 写真=干川 修)

戸次重幸

とつぎ・しげゆき●1973年北海道生まれ。大学時代に大泉洋らとTEAM NACSを結成。7万人を動員する人気演劇ユニットとなる。2014年には初の短編小説集『ONE』(ダ・ヴィンチブックス)と連動した一人芝居も行った。現在、TEAM NACSの本公演『悪童』が全国で巡演中。
スタイリング=小林洋治郎(Yolken) ヘアメイク=白石義人(ima.)

 

『東京喰種:re』書影

紙『東京喰種:re』(1〜3巻)

石田スイ 集英社ヤングジャンプC 514〜562円(税別)

ヒトの形をしながらも、人肉を食べることでしか生きられない喰種を駆逐するため、半分喰種の遺伝子を持つ佐々木琲世(通称ハイセ)は喰種対策局(CCG)で問題児ばかりの部下とともに活動する。やがて、さらった人間をオークションにかける喰種たちの集まりがあると聞き、ハイセたちは会場に乗り込むことに……。

※戸次重幸さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ9月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

映画『ホコリと幻想』

監督・脚本/鈴木聖史 出演/戸次重幸、美波、遠藤 要、内田朝陽、本田博太郎ほか 9月26日(土)より全国順次ロードショー
●北海道・旭川を舞台に、挫折を繰り返しながらも、夢を叶えるために不器用に生きていく男の姿を描いた孤高のドラマ。夢に敗れて都落ちしてきた松野は、かつての同級生の前でも虚勢を張り続ける。そんな折、市が募集するモニュメント製作のチラシを見て、これこそ自分が輝ける場だと意気込むのだが……。
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