理想の政治とはなにか? 国民の大命題を直球で描いた痛快物語―『総理にされた男』中山七里インタビュー

新刊著者インタビュー

公開日:2015/9/5

大小数々のどんでん返し 胸がすく大英断のラスト

 そのように現実社会の問題を投影したストーリーと、その問題の裏に隠された政治や経済のからくりは、最後まで読み手を飽きさせない。そして何より心揺さぶられるのは、真垣首相になりきった慎策が理想の政治をめざしてある大英断を下し、国民をも動かしていく驚きのラストだ。

「いつの間にか私は“大どんでん返し”の作家と言われるようになったんですが(笑)、こういう終わり方はおそらく誰も想像できないだろうという意味では、この結末もひとつのどんでん返しといっていいでしょうね」

 ちなみにこの『総理にされた男』には、中山さんの他の作品に登場した人物も何人か出てくる。そこに気づいた方は、一番大きなどんでん返しが本作品に仕込まれていることに気づくはずだ。大小さまざまなトリックを盛り込んで、読者を面白がらせるのが楽しくて仕方がないといった様子の中山さんである。

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「連載がはじまる前、3日間でプロットをきっちり立てたので、あとは頭のなかにあるデータをダウンロードするように書くのはとても楽でした。いつもそんな感じで、自分のなかに常時ネタは30ぐらいあるので、このテーマで書くならこのネタとこのネタを使えるなとか考えているときが一番楽しい。ジュークボックスみたいなものですよね。出版社からリクエストをいただくと、いろんなネタを組み合わせた面白いエンターテインメント小説が出てくる。まだデビューして5年しか経ってないので、今は作品の幅を広げて何でも書けるということを見せていきたいと思っているのです」

 デビュー作の『さよならドビュッシー』をはじめとする音楽ミステリー、弁護士ミステリー、猟奇殺人ものの本格ミステリーなど、すでに作風は幅広いが、今回はじめて政治をテーマにしたことで作家としての気づきや新たなネタの収穫はあったのだろうか。

「基本的に私は一切取材しませんし資料も読みませんので、この小説はすべて自分のなかにあるネタと想像力だけで書きました。池上彰さんのニュースを聞いていたら誰でもわかる知識がほとんどですけど(笑)。ですから新たな発見というのは特にありませんが、それだけ素人だから書きやすかったんでしょうね。あとやっぱり勤勉で真面目な日本人がいとおしいからこういう小説を書きたかったというのはあります。こんな素晴らしい国民が苦しんでいいはずがない。だったらどうすればいいんだろう? という思いから政治をテーマにしました。根底にあるのは、大好きな日本人に対する愛ですね」

 中山さんの一番の願いは、読者が寝食を忘れるほど夢中になってくれる本を書くことだと言うが、今回の新刊を読んでくれた読者にはひとことだけ伝えたいことがあるそうだ。

「政治って本当に面白いんですよ。政治家はみんな個性のかたまりですし、政治に関心を持ちはじめるといろんな事が見えてくる。無関心でいるのがいちばん怖いことなので、拙い方法ではありますけど、この本が政治を理解する一助になったり、議員を見る目が変わるきっかけになってくれたら本望です。最後にお断りしておきますが、この小説には、作者の思想や信条はひとつも書いていないので、そこはご心配なく(笑)」

 国民のための政治とはなにか? 理想の政治家とはどのような人間なのか? この小説が、そんな漠然とした疑問について考える糸口になるのは間違いないだろう。

取材・文=樺山美夏 写真=下林彩子

■紙版・電子版同時発売! 冒頭を試し読みできます■

http://nhktext.jp/0005670_davinci1509

 

紙『総理にされた男』

中山七里 NHK出版 1600円(税別)

総理の替え玉の密命をうけた舞台役者の慎策は、瓜二つの容姿とものまねで閣僚や官僚を欺きながら総理になりきっていく。国民を置き去りにした政治の現実に憤りを感じた慎策は、自らの意思で政治改革に挑みはじめる──。歪んだ政治に活字でメスを入れた感動のエンターテインメント小説。