イッセー尾形「監督いわく“野良猫とイッセー尾形は似ている”、さすが見抜いてるなあって(笑)」
公開日:2015/9/6
映画『先生と迷い猫』でイッセー尾形が演じているのは定年退職した校長先生。妻に先立たれ、ひとり暮らし。おまけに偏屈で引きこもりがち。歩く時はふんぞり返って歩くし、シスターたちにはすれ違いざま「アーメン!」とあいさつをする。この人が長年演じてきたひとり芝居にいかにも出てきそうな人物だが「フフッ。結構好き勝手にやらせてもらいました」とイッセーさん、してやったりの顔でニヤリ。
じゃあ、趣味のカメラでシャッター切る時に大声で合図するのも?
「うん。僕のアドリブってゆうか。台本と区別できないとこだらけ(笑)。監督にワンカットで行きますって言われると、まかしとけ!って。ほら、ワンカットって舞台とそっくりでしょ。」
原案となった『迷子のミーちゃん 地域猫と商店街再生のものがたり』(木附千晶 扶桑社)をベースに、深川監督とイッセーさんが現場で細かなニュアンスをつくりあげていった。監督いわく「呼んでも来ないけど、エサを置いておくと寄ってくる野良猫はイッセーさんとよく似ている」。
「ヒドイこと言うよねえ。でもその通り! さすが見抜いてるなあって(笑)。深川監督とは『60歳のラブレター』で初めてご一緒したんだけど、最後に綾戸智恵さんが意識不明になって、旦那の俺が枕元でギター弾きながら『ミッシェル』を歌うシーンがあったんです。監督がとめないから、何遍も何遍も同じフレーズを歌ったんだけど、まだとめないから、なんかせつなくなっちゃってさ。あの時、俺、泣いたんだよ。そうしたら監督もいいシーンだって一緒に泣いて、芝居とかそういうんじゃない、ほんまもんの何かが出ちゃった。それってひとり芝居とかライブで僕が絶対に避けてる部分だからね。それまでは全部コントロールしてたけど、あの時、コントロールの外にあることを監督が僕に運んできてくれた。そんな強烈な体験だったから、また一緒にやりたいなあと思っていたんです」
今回共演した猫のドロップは、NHK連続ドラマ小説『あまちゃん』で夏さんの飼い猫カツエを演じたあの猫。
「おっとりした賢い猫で、目の色が読めないの。まあ、猫を読もうってこと自体が間違いなんだけど。出番が終わると、僕とは話が通じないし、すぐ楽屋に戻っちゃう。やっぱ本番で勝負だよなって、こっちも馴れあわないようにしてましたね」
いなくなった猫を探して街を彷徨い歩くうち、校長先生は、街の人たちの温かさに気づいていく。
「豊かな個性の共演者のみなさんと一緒にいると、日常的な何気ないシーンがどれも目に焼きついてる。監督とまた一緒にやることで、僕の新しいひきだしが開く感じがきっと全編に出ていると思います」
(取材・文=瀧 晴巳 写真=江森康之)
いっせー・おがた●1952年、福岡県生まれ。81年、日本テレビ『お笑いスター誕生!!』でさまざまな職業の人物を演じ、8週勝ち抜き金賞を受賞。ひとり芝居で独自の世界を切り開く。映画出演作に『トニー滝谷』『太陽』『60歳のラブレター』など。スコセッシ監督の映画『Silence』(遠藤周作『沈黙』原作)が公開待機中。
ヘアメイク=久保マリ子
舞台はアーサー王の死後、数十年経ったブリテン島。アクセルとベアトリスの老夫婦は遠い地で暮らす息子を探して旅に出る。これまで一作ごとに読者を驚かせてきた著者が、妖精や竜、円卓の老騎士も登場するファンタジーの意匠を借りて描き出すのは失われた記憶をめぐる物語。『わたしを離さないで』から10年。待望の最新長編。
映画『先生と迷い猫』
監督/深川栄洋 出演/イッセー尾形、染谷将太、北乃きい、ピエール瀧、嶋田久作、佐々木すみ江、カンニング竹山、もたいまさこ、岸本加世子 配給/クロックワークス 10月10日(土)より全国ロードショー
●定年退職した校長先生、森衣恭一(イッセー尾形)は妻(もたいまさこ)に先立たれ、一人暮らし。訪ねてくるのは亡き妻がかわいがっていた三毛猫ミイと市役所の青年(染谷将太)だけ。どんなに追っ払っても毎日やってきたミイがある日突然姿を消す。なぜか心配になり、必死でミイを探す校長先生がやがて見つけたものとは──。
©2015「先生と迷い猫」製作委員会