『神様のジョーカー』佐原ミズ インタビュー <願いが叶うかわりに失うもの―。 残酷な神様の等価交換を描く>

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2015/12/4

 願いが必ず叶うとしたら? こんな素晴らしい話もないが、必ずイタい代償を伴うとしたら、あなたは願い事をする勇気があるだろうか。
 幸福と不幸の関係性という深淵なるテーマに挑むのが、楠みちはると佐原ミズの二人のマンガ家。今回は心の葛藤を見事に描き出す佐原さんに話を伺った。

取材・文=大寺 明

 

大御所作家とゼロ年代作家の邂逅が、化学反応を生む

神様のジョーカーイラスト

©佐原ミズ・楠みちはる/講談社

 たとえ本気で信じていないとしても、誰しも心の中で合格祈願や良縁の「神頼み」をしているものだと思う。もし願いがすべて叶うとしたら……? 『イブニング』で連載中の『神様のジョーカー』は、そんな夢のような“力”を描いたストーリーだ。しかし、人生思いのまま、とはいかない。なぜなら願いの成就と引きかえに必ず代償が伴うからだ。

 直接自分がヒドイ目に遭うならまだしも、家族や親類に災いが起きたりするのだから、安易に力を使うわけにもいかない。どんな代償が待っているかもわからないのだから、恐ろしい。そのため主人公の希和は、望みや欲を自制してひっそり平凡に生きようとする。特殊能力を描いたマンガは数あれど、これだけ使いづらい力を描いた作品もないだろう。ある意味、マンガ的フィクションへのアンチテーゼとして、リアリティを追求したかのようなテイストである。

 原作者は『あいつとララバイ』『シャコタン★ブギ』『湾岸ミッドナイト』で知られる楠みちはる。バイクや車をめぐる青春群像を描き、数々の大ヒット作を生み出した大御所作家だ。「これまでのイメージを破り、新しい作風に挑戦したい」という思いが本作のきっかけとなった。

 作画を手がけるのはドラマ化もされた『マイガール』をはじめ、みずみずしくも緻密な人物描写に定評がある佐原ミズ。まったく異なる作家性を持った二人の邂逅により、『神様のジョーカー』は新たな化学反応を生み出している。しかし、編集部から作画を打診された際、佐原さんは内心戸惑っていたらしい。

「楠先生と近しいわけでもない自分が描いても大丈夫なのかな……と不安でしたね。私より適役のマンガ家さんがいるはずだと思ってお断りするつもりだったんですけど、『神様』という題材に惹かれたんです。神社に参拝したり、縁起をかついだり、日常生活のなかに身近にあるものですが、近くにありすぎてかえってあまり深くは考えたことがないテーマだと思ったんです」

 本作で描かれる神様は、姿かたちがあるわけではなく、言葉を発するわけでもない。願いが叶った後に必ず災いが起きることでその存在を知らしめるのみ。それは運命のいたずらのようでもあり、物語はごく普通の人々の人間ドラマが中心となる。原作がほぼ同時進行のため、登場人物同様に佐原さんも次の展開(代償)がわからないのだ。

「楠先生は週刊誌でずっとお仕事をされてきた方なので、今の時点ではあまり意味を感じさせないキャラや場面が伏線になっている可能性があるんです。自分はこうした先のわからない展開が不慣れで……。今は臨機応変に描くことが試練になっていますね。基本的な展開は、願いが叶うこととそれに伴う代償というストーリーなので、それに関しては予想を裏切られたことは少ないのですが、希和の力の詳細や他の登場人物の目的が私にはわからないので、そこは緊張感を持って受け止めています。いつか私の予想を大きく裏切る展開が待っているかもしれないと期待しながら描いてますね」

 

佐原ミズ
さはら・みず●神奈川県生まれ。同人スカウトでイラストを描いたことがきっかけで商業マンガ誌の世界へ。2006年より連載された『マイガール』が09年にテレビドラマ化。その他の作品に『ほしのこえ』(新海誠/原作)『鉄楽レトラ』『夜さん』がある。

 

運命に翻弄される登場人物たち

主人公・緒方希和(おがた・きわ)
就職活動もおぼつかず、小さな本屋でアルバイトをしている。高望みをしない欲のない性格だが、その背景には「願いを叶える力」を持つという誰にも言えない秘密があった。

ヒロイン・島崎茉洋(しまざき・まひろ)
大学時代に希和と出会った一つ年上の彼女。希和より一足早く社会人になり、出版社の広告局に勤務。職場の人間関係にストレスを抱え、彼氏の希和が入社することを望んでいる。

川科友里(かわしな・ゆり)
希和と同期の新人社員。意識高い系の他の同期と異なり、どこか冷めた雰囲気を漂わせる。

松木次長
広告局の茉洋の上司。女癖が悪く、女子社員に手を出してばかりの典型的なパワハラ上司。

神様に振り回されても自分だけは失わないでほしい

神様のジョーカー コマ

 これまでにも原作ものを手がけた経験を持つ佐原さんだが、「原作付きのほうが心労は圧勝」とのこと。その一方で、自分一人では想像もしないような作品ができる楽しさがあるそうだ。

「学生時代に友人と同人誌や創作絵本を作って遊んでいたことがあるんです。簡単な設定と約束ごとを決めて、まず最初の一人がノートに4ページのマンガを描いて、次の人が続きの4ページを描く。最終的に滅茶苦茶なマンガが出来上がるんですけど、加わった人の数だけ話が変化していくのがとても楽しくて。その思い出があったので、原作ものに挑戦してみようと思ったのかもしれないですね」

 佐原さんの持ち味は、ふとした表情やさりげない台詞から浮き彫りになる内面描写にある。登場人物のひりひりした感情が肌身で伝わる作風により、等身大のリアリティに引き込まれるのだ。今回の主人公・希和にしても、特別な力を持っているのに、ナイーブな感性を持った小市民的な若者として描かれる。彼が普通であればあるほど、運命の不条理がきわだって見える。

「自分自身がさえない若者だったので、背伸びをしなくてもいいキャラクターが描きやすいんですよね(笑)。ヒロインの茉洋にしても、原作では大学一の美人で、社会人になってからも男性社員の憧れの存在という設定だったんですけど、私にはそうした女性の気持ちがわからない。自分が描ける等身大のレベルまで下げてキャラクターを描くようにしましたね」

 主人公の希和はどうだろう? 大学のマドンナ的存在だった茉洋と付き合うことになったのも実は神様に願ったから。そのかわり取り返しのつかない代償を払うことになり、今では「欲や望みは分相応でいい」とどこか人生を冷めて見ている。

「ネガティブなところは自分似かな……と思います。私自身、臆病なんでしょうね。そのぶん原作の内容以上に代償に対する後悔を描く場面が増えてしまっているかもしれない。希和は神様に振り回される立ち位置のキャラなので、なるべく人形っぽくならないように描けたらいいなと思っているんです。欲や望みに振り回されて生きていくのは大変でしょうから、自分を失わずに頑張ってほしいと思いながら描いてます。私も少しでも多くの人に楽しんでいただけるように自分なりに頑張っていきたいです」

 1巻のラストでは自身の禁を破って願い事をしたことで、希和と茉洋の運命は急展開を迎える。どんな代償が待ち受け、そして彼は何を願うだろう? 次の展開が待ち遠しくなる作品だ。

 

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『湾岸ミッドナイト』『シャコタン★ブギ』などで、多くの男性読者を魅了してきた楠みちはるが「神様のジョーカー」原作のルーツと、38年にわたる漫画家生活を語るインタビューをコミックプラスで公開中。
コミックプラス「楠みちはるインタビュー」