亀梨和也主演ドラマも好調! 活字ならではの『山猫』の楽しみ方とは?

新刊著者インタビュー

2016/3/5

 テレビドラマ版も大人気でますます話題沸騰のピカレスク・ミステリー「怪盗探偵山猫」。その最新刊となる『怪盗探偵山猫 黒羊の挽歌』が刊行された。新たなファンが増埴しているなか、執筆にあたって著者の神永学さんが意識したのは、「スタンダードな『山猫』であること」だったという。

神永 学

かみなが・まなぶ●1974年山梨県生まれ。2004年『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』で本格デビュー。同作から始まる「心霊探偵八雲」シリーズを筆頭に、「天命探偵」「殺生伝」「浮雲心霊奇譚」「革命のリベリオン」など、多くのシリーズで絶大な人気を誇っている。他の作品に『イノセントブルー 記憶の旅人』など。
神永学オフィシャルサイト

 

「冒頭にはこれこそ『山猫』だ、という作品を置くべきだと思いました。主人公が早い段階で登場して、ストーリーがどんどん展開してゆく、まさに王道というような作品です。今回はやや変化球的な短編も収録しているんですが、まずはスタンダードがあってこそ」

 山猫は“悪党から金を盗む”ことをポリシーにしている神出鬼没の窃盗犯だ。その胸のすくような活躍を、今回もたっぷり堪能できる。収録作は「羊の血統」「羊の叛逆」「黒羊の挽歌」の3編。いずれも「羊」という文字を含んでいるが、これにはどんな意図が?

「このシリーズ、実は“干支しばり”なんですよ。2冊目の『虚像のウロボロス』が蛇で、3冊目の『鼠たちの宴』が鼠。今回は未年の連載だったので羊にしました。これといった深い意味はないんですが、しばりがあった方がイメージが膨らんで書きやすい面もあるんです。ただ、羊は牧歌的な響きになりがちなので、タイトルを付けるのには苦心しました(笑)。将来的には十二支すべてを制覇できたらいいなあと考えています」
 

下北沢という街が生んだ人間味のあるヒーロー像

「羊の血統」は中編ともいえるボリュームをもった力作。下北沢の駅前を歩いていたライターの勝村英男が、男たちに追いかけられている女性を目にする。彼女はなぜか舞踏会で着けるような、ベネチアンマスクで顔を隠していた。

 ふとした好奇心から男たちの邪魔をした勝村は、因縁をつけられ暴行を受けるはめに。勝村のピンチを救ってくれたのは、マスク姿の女性だった。

「勝村は特に秀でた能力があるわけではありません。いわば読者に一番近い人物。そんな彼がワトソン役として、山猫の非凡な言動に驚いたり、つっこみを入れたりしてゆく。山猫というキャラクターを際立たせるうえでも、勝村はすごく大切な人物ですね」

 初登場時にはだいぶ頼りなかった勝村も、巻が進むにつれて成長してきたようだ。今回は山猫に「ずいぶんと図太くなったな」と言われるほど、自らの意志で事件にかかわってゆく。

「キャラクターの成長や変化は、シリーズものを書くうえで特に大事にしている部分です。人間は誰しも、人との出会いによって変わってゆく。それが人間関係の本質ですよね。僕の作品の登場人物は何らかの欠陥を抱えていることが多いんですが、少しずつ成長してゆく姿を描くことで、人って変われるんだ、と伝えられたら嬉しいです」

 警視庁の女性刑事・霧島さくらの情報によって、勝村を襲った男たちはRAMというクラブの従業員だと判明する。RAMは売春やドラッグの噂が絶えない会員制のクラブ。1カ月前、名門女子校の生徒がドラッグの過剰摂取で死亡した事件にも、RAMの従業員がかかわっていた。

「毎回頭を悩ませるのは、悪役をどうするかです。あまりに小物過ぎる相手では、ラストで山猫が大金を盗み出してもカタルシスがない。読んでいる人が『こいつは許せない!』と怒りを感じるような、リアリティのある悪人である必要があります」

 少女売春にドラッグという現代的でやりきれない犯罪。その裏にあるものを探っていった勝村は、大金に惹きつけられた山猫とともに、RAMに潜入することを決意する。スリリングな潜入シーンは、このシリーズの大きな見どころだ。

「どんな便利な防犯機器であっても、人間がかかわっている限り、どこかにセキュリティの穴ができるものです。その盲点を見つけ出すのが山猫の潜入方法。頭脳ゲームに近いですね。潜入方法を見つけるのは大変ですが、防犯コンサルタントの方に取材したり、防犯器具の見本市に出かけながら、毎回新しいルートを考えています」

 シリアスなシーンでも心の余裕を失わない。ここぞというタイミングで、調子っぱずれの懐メロを披露する。そんなクールなのに人間くさい山猫のキャラクターも大きな特徴。勝村との軽妙なやりとりも、毎回ファンにはたまらない要素だ。

「山猫は下北沢という街から生まれたキャラクターなんです。下北沢はお洒落な街とされていますが、どこか雑多で、完璧じゃない面白さがある。昭和の匂いも濃厚に漂ってきますよね。そんな街に怪盗が住んでいたらどんな奴だろう、という発想からキャラクターが生まれてきた。もし山猫のアジトが別の街だったら、全然違ったキャラクターになっていたはずです」