母のネグレクトや義父からのわいせつ行為。壮絶な過去が描かれたコミックエッセイ『母になるのがおそろしい』著者インタビュー

コミックエッセイ

公開日:2016/3/23


『母になるのがおそろしい』(ヤマダカナン/KADOKAWA)

 
 『母になるのがおそろしい』このタイトルに心がざわついた女性も多いのではないだろうか?母になるのは誰しも不安、その原因が、もしも自分の母にあったなら——。
 
 3月14日から始まったドキュメンタリーコミックエッセイが早くも話題を呼んでいる。著者のヤマダカナンさんに、このタイトルで執筆しようと思ったきっかけや心境などを伺った。





 

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——まず、この漫画を描こうと思ったきっかけを教えてください。

ヤマダカナン ずっと前からいつか、ストーリー物でフィクションを加え描きたいと思っていたんですが中々消化できずにいまして、このままでは腐ってしまいそうだったんでそうなる前に、エッセイで描いてみようと思い立ちました。

 
 

——本編では実在の方が登場します。執筆にあたり、お母さまや旦那さん、周囲の方の反対などはありませんでしたか?


ヤマダカナン それが全くなかったんです。母も、自分を悪く描かれるのはわかってるだろうに「好きに描いたらええ」と言っていました。

 
 

——幼いカナンさんは、漫画を心のよりどころにしていたようですが、小さいころ読んでいたマンガのタイトルを教えてください。

ヤマダカナン 雑誌『なかよし』が好きで『虹の伝説』(原ちえこ 著)とか恋愛物を好んで読んでいました。家族物も好きで『銀曜日のおとぎばなし』(萩岩睦美 著)では母親の気持ちに涙していました。

 
 

——幼いころ、お母さまとの思い出で一番楽しく印象に残っていることは?

ヤマダカナン それが思い出せないんです。小さいころの記憶は辛かったことしか残っていなくて。でも、熱が出た時などりんごをすってくれたことは覚えています。病気の時は優しくて、母を独り占めできて嬉しかったです。

 
 

——幼いカナンさんの毎日はしんどかったと思います。そのころの自分に声をかけるとしたら、なんと言ってあげたいですか?


ヤマダカナン 何も言えないです。何を言っても薄っぺらくなってしまいそうです。きっと、幼い私は誰かに声をかけてもらいたかったでしょうね。でも、何も言えない自分がいます。ふがいないです。もしかしたら、見守ることはできるかもしれません。

 
 

——不妊治療の末、妊娠がわかったときのお気持ちを教えてください

ヤマダカナン 嬉しさ10%、不妊治療からの開放感20%、不安70%って感じでした。

 
 

——妊娠に関して、お母さまは喜ばれましたか?

ヤマダカナン 喜んでいました。そういえば、母はそれまでも「子供はまだか」的なことは一切言ってきませんでした。

 
 

——この作品は、幼少期の忌まわしい出来事にふれざるを得なかったわけですが、描いていて新たに沸き起こった感情などありましたか?

ヤマダカナン 感情とはちょっと違うのですが・・・。私はそれまで「性格は環境で決まる」と思ってたんですが自分が子供を産んでみて、実は遺伝的要素が強いと気づきました。もちろん、自己肯定感などは環境が関係すると思うのですが。
 
 なので、色々な事が決して母だけのせいではないんだなと気付きました。

 
 

——現在は2人のお子さんを子育て中ですが、子育てで一番大事にしていることはなんですか?

ヤマダカナン 「大好き」など、言葉に出して言うようにしてます。あとは頭をなでたり、抱っこなど、触れ合いをなるべく多めにしてます。

 
 

——この作品を通して、読者に伝えたいことはなんでしょう?

ヤマダカナン 読んでどんな感想を抱くかは読者の方におまかせしますが・・・ひとつだけ。

 もし、リアルタイムで性的ないたずらなどに苦しむ方がこの漫画を読んで下さっていたら、まず、誰かに相談してもらえたらと思います。こども相談窓口などもありますし、匿名でもいいので、とにかく相談してみてほしいと思います。このような、強制わいせつ罪の時効はたったの7年です。(時効を見直す動きが現在ありますが)

 私もそうでしたが、「訴えたい!」と思っても時すでに遅し、なんです。せめてそれを知っていてもらえたら…と思います。

 
 

——ありがとうございました。

 

 連載は、4月7日まで月・木更新で続きます。ますますヘビーな展開になりますので、どうぞお見逃しなく。


 

ヤマダカナン
大阪府高槻市出身。98年「山田可南」名義でデビュー。代表作に、『澤飯家のごはんは息子の光が作っている。』(小学館)、『私の彼は仕事ができない』(徳間書店)など多数。女性誌や青年誌など幅広く執筆。今作が初のコミックエッセイとなる。
⇒著者Blog

 

母になるのがおそろしい

母になるのがおそろしい

ヤマダカナン/KADOKAWA

男性依存症の母をもち、義父からのわいせつ行為、ネグレクトを受けて育った作者 渾身のノンフィクションコミックエッセイ。
 
30代になったカナンは結婚して家庭を持つが、出産する決心がつかない。それは無意識下で、自分も母のような母親になるような恐怖があるからだった・・・。「母になるのがおそろしい」。そう気づいたカナンは、母親と自分は違う人格であることを確かめるために、これまでの半生を振り返るのだった。
 
機能不全家族で育った著者の実体験が、今リアルに苦しんでいる誰かの救いになれますように。苦しみながら描き、3年の月日を要した問題作、待望の書籍化です。