真犯人の内面を描き出す“手記”「僕の“妄想”による“二次小説”です」

新刊著者インタビュー

2016/4/6

 この度、大人気サスペンスコミック『僕だけがいない街』から初のスピンオフ小説『僕だけがいない街 Another Record』が発売された。


一 肇

にのまえ・はじめ●ニトロプラス所属。2006年『桜ish─推定魔法少女─』の連載を開始し、デビュー。その後「フェノメノ」シリーズで人気を集め、『魔法少女まどか☆マギカ』のノベライズも手がける。他の著書に『少女キネマ ─或は暴想王と屋根裏姫の物語─』『幽式』などがある。
 

「三部けい先生のマンガだから書くことができました」

 小説の作者・一肇さんはそう語る。ご存知の方も多いと思うが、コミックスの主人公は藤沼悟。ごく普通の青年だが、時間が巻き戻る“リバイバル”という能力を持っている。ある日突然、惨殺された彼の母親。悟はそれをきっかけに、18年前へとタイムリープ。それは、同級生の雛月加代が連続児童誘拐殺人事件の被害者となる直前だった。雛月と母を救うため、悟は過去と現在を行き来しながら真犯人を追いつめる……。

 3月4日発売の『ヤングエース』でついに完結を迎え、最終8巻の発売が5月2日に決定したばかり。既刊7巻の累計発行部数は341万部を突破。TVアニメ化、実写映画化もされ、マンガの枠を越えて、今、“僕街”現象を巻き起こしている。

『Another Record』は、この現象を盛り上げる一作だ。だが、ただコミックスを補完するものではない。小説単体として抜群に面白いのだ。『僕街』ファンにお薦めするのはもちろん、マンガを読んだことがない方ですら、間違いなく楽しめる作品だ。

 一肇さんは、以前から『僕街』の大ファンだったという。

「4巻が発売されたときに初めて読みまして、もう面白くて。僕はちょうど『少女キネマ ─或は暴想王と屋根裏姫の物語─』という小説をKADOKAWAから出したところでした。帯に推薦コメントを寄せてくださった乙一先生に、編集さんとご挨拶にうかがったのですが、先生と『僕街』の話題で盛り上がりまして。それが今回のスピンオフのきっかけだったと思います」

 しかし、編集者から依頼を受けた当初はかなりためらいを感じた。実は一さんは、ニトロプラスのライティング部門に所属している。ニトロプラスはゲームソフトの開発やアニメ制作などを主とする会社で、大ヒットアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』を生み出したことでも有名。一さんは、その『まどマギ』のノベライズも手がけている。好評を博したが、小説家としての責任感ともいえる苦しい思いもそのときに抱いたのだ。

「僕は自分のオリジナル小説も基本的に一人称なのですが、いつも主人公になりきって書いています。『まどマギ』のときは、まどかの見ている世界をまどかの言葉で表現するのが非常に難しかった。結果、アニメとはちょっと違うものになってしまったかなと反省しました。自分はやはりノベライズは向いていないと思ってしまったんです。『僕街』も大好きなマンガであるだけに、原作を壊してしまうのではないだろうかと不安がありました」

 一さんを変えたのは、コミックスの作者・三部けいさんとの出会いだった。

「始めに、自分は小説化には向いていないとお伝えしたんです。でも、三部先生は〈一さんの好きなようにやってください〉とおっしゃってくださって。先生の言葉がなければ、ずっと決心できなかったと思います。先生のおかげで、頑張ってみようと小説に向き合うことができました」
 

真犯人は『僕街』のもう一人の主人公

『Another Record』には、一さんの『僕街』への愛情が詰まっている。一さんが選んだのは、真犯人の“手記”という形式だった。

 悟の決死の追跡によって逮捕された真犯人。悟の小学校時代からの親友で弁護士になっていた小林賢也は、その国選弁護人に指名されていた。これまで37人もの人間を殺してきた犯人。なぜ殺人を続けたのか? 語りかけ続ける“スパイス”とは何者なのか?“蜘蛛の糸”は何を意味するのか? “手記”を手にした賢也は、戸惑いながらも犯人の内面を探っていく。

「僕は最初から犯人が大好きでした。そのときは犯人だと気づいていなかったのですけれど。犯人を、ほぼもう一人の主人公として読んでいました。それで、スピンオフをやらせていただくなら、“犯人側からの物語”にしたいと三部先生にお願いしたんです。先生は、びっくりするぐらい自由に書かせてくださいました」

 一さんは、なぜそこまで犯人に惹かれたのか?

「……うーん、なぜでしょう。気づいたら好きになっていたといいますか……。たとえば僕も子どものときに犯人に出会っていたら、〈大人になるのも悪くない〉と感じたと思うんです。それが実は犯人だった。すごく驚いたし、このかっこいい人物が連続殺人を犯すなんて、相当なドラマがあったに違いないと思いました。そこから僕の犯人に対する“妄想”がスタートしました。犯人がどう思うか、何を言うか。犯人が大好きで、その“手記”はあまり迷うことなく書くことができました」