津田大介2011年を振り返る 「メルマガ」

スペシャルインタビュー

更新日:2013/8/9

僕がやっているのは
メルマガの「リ・デザイン」

 

――「ファンクラブ」とも揶揄されることの多いメルマガですが、その限界を超えようとされていることが良く分かりました。

津田:そうですね、単なるファンクラブでは意味がありませんから、コンテンツとして文句を言われないように、編集の方にもお給料をお支払いしてきちんとしたものをお届けしています。

――いわゆる「ファン」によって、多少行きすぎた言動があっても必ず肯定意見が出てくるので、だんだん過激になってしまうという印象もあるなか、そうではない購読者の存在は貴重ですね。

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津田:EPUBをやって確信を得たのですが、非常に読みやすいので、これは無料記事として目玉コンテンツをピックアップして公開していこうと思ったんです。そうすると、「メルマガは信者ビジネス」だという批判にも応えることができると。
まあ、本だって買った人しか基本読めないわけですから、この批判もどうかとは思うんですけど。いずれしても「開かれたメルマガ」を目指していきたいと思っています。

――津田さんは、Twitter上でも、批判的な意見も敢えてRT(リツィート)して、コメントで応えるということもやっていますね。

津田:それも批判的な意見も吸収していきたいという考えからですね。格好いい言い方をすると、僕がやっているのは「メルマガのリ・デザイン」なんです。既存のメルマガの、「良いんだけど、ちょっとコレはどうなんだろう」という部分を変えていきたい。

「Twitter社会論」を出したときも、感想を断続的にRTするということをやっていたんですが、正直「たぶん宣伝になるだろうな」ということしか分かりませんでした。いまはメルマガの購読数という形で、相関関係をリアルタイムで把握出来るので、実はRTする曜日や時間にもノウハウがたまってきたりしているんですよ。

――来年スタートする政治サイトと、メルマガ「メディアの現場」はどう関係していくのでしょうか?

津田:メルマガと政治ニュースサイトは両立します。メルマガは有料ですが、政治ニュースサイトは原則無料で誰でも読むことが出来るようにします。一部プレミアムコンテンツも用意するかも知れませんが。そうすると、運営費をどこで稼ぐのか、ということになりますが、それをメルマガで稼ぐ。僕自身、興味・関心の方向は政治に限らず、トークイベントなどでも様々なテーマについて話をしています。一種「雑誌的な人間」だと思っているんですね。その視点から取材したり書いたりするものはメルマガとして発信していき、Webサイトについては政治・政策に特化した情報を発信していきます。

――週刊金曜日のように広告を載せない、独立・中立したWebメディアを目指す、ということですか。

津田:そうですね、スタート時は広告を載せることは考えていません。ただPVが増えてきたら、AdSense(Googleが提供するコンテンツマッチ型の広告)は入れると思いますよ。営業して獲得する広告と異なり、自動で挿入される広告はニュース内容に制約となりませんから。ただ、基本的にお話ししたように、収益源はメルマガが中心という想定です。

1ヶ月の購読が630円、手数料を引くとざっくり1読者あたりの私たちの売上げは400円です。2500人まで購読者が増えれば月100万円になる。いま既に1人編集をお願いしている人がいますが、おそらく2人までは雇える。購読者5000人ならその倍、そんな感じで考えていますね。

――「ミドルメディア」(マスメディアと個人メディアのようなニッチなメディアの中間的存在となるメディア)という概念に注目が集まっており、幾つかのチャレンジもありますが、特に収益面で成功した例が少ないですね。

津田:とにかくマネタイズが鍵を握ると思いますね。僕はナタリーを2007年から立ち上げて、軌道に乗せるところまでずっと面倒見てきたので、その経験がすごく活きていて、どうやったらマネタイズできるか、というのも分かっているつもりです。

――メルマガが少し遅れたことでネット上では「いつまで続くのか」というのが話題になったりしました。

津田:曜日がずれることがあっても「毎週必ず出す」というのは自分に課しているんです。そうじゃないとダラダラしてしまいますから(笑)その代わり休めなくなっちゃいましたし、本もなかなか読めなくなってしまいましたけど、ずっと一人で仕事してきたので、いまチームで仕事するのは楽しいんですよ。

つだ・だいすけ●ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。
東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース 非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執 筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。
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次回更新は、12月19日(月)です。
取材・文=まつもとあつし 写真=隼田大輔