ヒロシ「生きていることに気づいてもらいたい」と、初エッセイを発売するも芸人仲間からは反応なし!?【インタビュー】

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公開日:2016/6/23

「ちゃらららら~らら~」、と、おなじみのメロディを聴くだけで、誰もがお笑い芸人・ヒロシの顔が脳裏に浮かぶ(この曲はペピーノ・ガリアルディというイタリア人歌手の『ガラスの部屋』という曲らしい)。2015年6月には中野区中野坂上に「ヒロシのお店」というカフェ&カラオケ喫茶までオープンさせてしまった彼は、先日5冊目の本『「モテない人」と「仕事がない人」の習慣 ダメ男、38のエピソード』(ヒロシ:著、小田原ドラゴン:イラスト/バジリコ)という本を出版した。

「店をオープンしてから、面倒くさいことばかりが増えた」と語るが、基本的に普段は店にはいない彼に、ダメ男のエピソードについて直撃した。


――これまで10年間で5冊の本を出版してますね。

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「日めくりカレンダーの『まいにち、ネガティブ。』(自由国民社)を入れると今回で6冊目になりますが、一発屋にしては出してますよね(苦笑)。最初は趣味の釣りについてのエッセイを書く予定だったんです。でも最近やらなくなっていたので、そんなに書くことがないなと。今はキャンプが好きなのでキャンプについてとか、小学校の時に初めて釣りをやった話とか大学時代に宗教に勧誘された話とかを入れていったら、結局、俺自身のエピソードになりました」

――一発屋と謙遜していますが、本業でもコンスタントに露出してるじゃないですか。(この取材の直前、ヒロシが出演した『お笑い演芸館』(BS朝日)という番組がオンエアされていた)

「なんなんですかね。『実は応援しています』って言いに来る人が結構いるんですよ。『ヒロシのファンだ』とカミングアウトすると、バカにされるからでしょうね。人って『これを言えばカッコいいと思われる』っていうのがあると思うんですよ。好きな映画を聞かれて『時計じかけのオレンジ』とかゴダールとか言っときゃ間違いない、みたいな。以前、『ヒロシさんが好きだけど友達に言えない。どうしたらいいですか?』って手紙をもらったことがあるんですけど、それを俺にどうして聞く!」

――……。今回の本には炭鉱町の炭鉱社宅で育った話とか、新興宗教に勧誘されて総本山までついていった話とか、インパクトの強い話をさらっと書いてますよね。それに小田原ドラゴンさんのイラストが、見事にマッチしていて。

「炭鉱社宅の様子とかは、今の若い人には文章だけでは伝わらないですよね。だからこの本は、ドラゴンさんのイラストに救われていると思うんです。ドラゴンさんが非常に好きで、6、7年前に自分のほうから『ヒロシです』ってメールを送ったら付き合いが始まって。それで今回はイラストありって話になったので、ぜひお願いしようと。ドラゴンさんはモテない人や童貞をテーマにした漫画を描いてきたので、一発で俺の思いを読み取ってくれました。できあがったイラストを見た時は、本当にすごいと思いました」

――タイトルからすると自己啓発本っぽいんですけど、内容は自身のこれまでについて、を書いてますよね?

「自己啓発本をよく読むので、そういうタイトルにしたいなって。数字とか入れておけば売れるかなと思ったので、『38のエピソード』ってつけました。でも、まだなんの反響もないんですよ……。キャンプ仲間の芸人全員に献本したのに、何も言ってこない。新刊なのに書店に置いてなかったでしょ?」

――一応ありましたけど、平積みにはなってなかったです。

「ほら! 俺の本なんてその程度の扱いなんですよ! 僕の人生で今まで書かなかったことも書いてるのに、なんの反響もない!」

――(気を取り直して)自己啓発本が好きと言いましたが、どんな本に影響されていますか?

「里中李生さんっていう『男はこうあるべき』みたいな内容の本を書く方がいて。3、4年前ですけど、東北で仕事があった時に、東京駅で里中さんの本を買ったんです。『一流の男は○○』みたいなタイトルだったと思うんですけど、読み始めたらハマってしまって、降りなきゃいけない駅で降りられなかった。それ以来、里中さんの本を読み続けています。割とクセがあって結構男尊女卑っぽい昭和なノリなんですけど、『こうなりたい』って思わされることが書いてあります。なかでも里中さんが書いていた『B層』の話は響きました。それまではB層について知らなかったけど、なんか自分の人生を振り返ってみると、彼らに酷い目に遭わされてきたなと気づいたんです」

※B層……2012年に適菜収氏が『日本をダメにしたB層の研究』(講談社)で指摘した、「マスコミ報道に流されやすい、比較的IQが低い人たち」のことで、この言葉自体は広告会社による造語。

――地方だととくに、声や体格が大きい者がスクールカーストの頂点になりがちですよね。

「どう見ても面白くないし頭もよろしくないのに声だけは大きい連中が、学校ではモテるわけでしょ? 『何が面白いの?』ってネタでクラスが盛り上がるんだけど、俺みたいな声の小さい者は黙って見てるしかなかった。でも俺は『あいつらより俺のほうが面白い』ってずっと思ってきたから、芸人になれたのかもしれない。だからなのか、『友人には言えないけど、私は個人的に面白うと思う』とか言われるのかもしれません。声の小さい人がヒロシのファンなんでしょう。僕はそういう人たちに向けてお笑いを続けていきたいけど、それだけじゃ商売にならないので難しいですね……」

――(再度気を取り直して)この本はどんな人に向けて書きましたか?

「それはあまり考えていないんですよ。でも『ヒロシまだ生きてるんだ』『仕事してるんだ』って気づいてくれればいいです。最近は芸人仲間とキャンプに行った動画をYouTubeの「ヒロシちゃんねる」で公開してるんですけど、地上波の番組に出てないと、もう売れてないし活動もしてないと思われるじゃないですか。そういう人に本を通して、ヒロシが生きていることに気づいてもらいたいです。新刊なのに、書店に置いてないけど……。でも自分の店に、自分の書いた本とかグッズとかを並べたいんですよ。だから商品を増やしていかなきゃと思います。グッズを売るのがメインで、店はサブなのかもしれないですね」

――年内にもう1冊、出版する予定があるそうですが?

「まだ内容は決定ではないんですけど、ネガティブな格言とその解説を書く予定です。今回のものよりも、こっちのほうが自己啓発本っぽいかもしれない」

――じゃあ思いきって、自己啓発本そのものを書けばいいじゃないですか。

「自己啓発本はそれこそ、船井総研の船井幸雄さんや京セラの稲盛和夫さんのような有名な方か、もしくは正体がよくわからない方が書くからいいんですよ。俺が書いたら『ヒロシかよ! なんで一発屋が一流を語ってるんだよ!』になるじゃないですか。でも俺はほかの人が経験していないことをしているので、その目線でネガティブな格言を作っていく予定です」

取材・文=玖保樹 鈴