犯人であっても生きていてほしい…息子は被害者なのか、それとも加害者なのか?

新刊著者インタビュー

公開日:2016/9/6

当事者だけが知りえる繊細な心の動きを追って

 ベストセラー『犯人に告ぐ』をはじめとして、登場人物の心境を丹念に追いかけてゆくのが雫井作品の特色だ。本作ではそのテクニックを最大限に駆使し、夫婦の内面に潜りこんだ。

「やってみると大変でした。主人公が自ら行動してゆく他の作品と違って、待機している夫婦の心の変遷をじっくり描きこまないといけない。深いところまで掘り下げる必要があって、へとへとになりましましたね(笑)。連載中は妙に体感時間が長かった気がします。こういう感覚は初めてですが、結果的にこれまでなかった作品に仕上がったと思います」

 物語のラスト、2つの可能性が1つに収斂してゆく。規士は被害者か、それとも加害者か。残酷な真実が一家に突きつけられる。

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「結末をどうするかは決めていましたし、そこで二人がどんな気持ちになるかも大体予測していました。しかしそれが物語の流れの中で、本当にしっくりくるのかは実際に書いてみなければわからなかった。ラスト付近の一登のある言動など、書いていて初めて発見できた部分もありましたね」

 2つの望みの間で翻弄され続けた、一登と貴代美。その悲痛な旅路の果てに、作者はほんのわずかな救いを用意している。

「僕がこの作品で描こうとしたのは、ジャーナリストの内藤が取材しても触れられない、当事者にしか知りえない視点だったんだろうと思います。事件を扱ってはいますが、サスペンス小説とだけくくれる作品でもありません。これがどんな小説かは読んでいただければわかるはず。家族という間口の広いテーマなので、ぜひいろいろな方に読んでもらいたいです」

 究極の家族愛を描いた傑作。感涙のラストシーンがきっと消えない余韻を残すことだろう。

取材・文=朝宮運河 写真=川口宗道

 

紙『望み』

雫井脩介 KADOKAWA 1600円(税別)

埼玉県戸沢市で車のトランクから少年の遺体が発見された。同市で建築デザイナーを営む石川一登は、行方不明中の息子・規士が、事件に関わっていることを知る。凶悪事件の加害者家族として、世間の冷たい視線に晒される一家。規士は加害者か、それとも被害者か。2つの「望み」に翻弄される一家を描いた、究極の家族愛の物語。