津田大介2011年を振り返る(最終回)

スペシャルインタビュー

更新日:2016/9/29


 

来年はマスメディアと
ソーシャルメディアの融合に注目している

――今年津田さんは、「メディアジャーナリスト」という肩書きから「メディアアクティビスト」を名乗ると宣言されました。メディアやジャーナリズムに対する失望のようなものがその背景にあるのでしょうか?

津田:それは全然ないです。日本のマスコミは優秀ですし、尊敬できる記者さんの知り合いも多いです。新しい政治メディアを是非一緒にやりたい人も居るくらいですが、あの人達(給料が)高いんですよね(笑)。
普通に年1千万円とかもらっているから、とても払えない。そんな余裕があるか分かりませんが、いまは若手を育てていくしか無いかなと思っています。

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給料はちゃんと払いたい、というのもあるんですよ。
でも、記者も欲しいですが、いまは先ほどお話ししたエンジニアに加えて、「編集者」が欲しいですね。僕のメルマガが他のそれと差別化できている一番のポイントはちゃんと「編集」を加えていることです。読みやすくしているし、構成もきちんと練ってあると自負しています。

他のメルマガを見ていると、文章がただ書き連ねてあるだけのものも多く、「著者を支援する」という意味ではありだけど、コンテンツへの対価として数百円を払うかと言われると、それは無いなと。それだったら既存の雑誌とか新聞を読めばいいわけですから。

――たしかに、電子出版を巡る議論でも「編集」の重要性がよく指摘されますね。

津田:本当にそうだと思うんですよ。環境が変わるなかで、「編集者にしか出来ないこと」が求められている。そして、編集者は「ハイパー化すること」が求められているとも言えるでしょう。例えばYouTubeに自ら編集した動画を上げたり、そこにキャプションを付けたり、Ustreamで中継くらいできれば、もうフリーでも全然食っていくことができるはずです。

これまでは、本や雑誌といったコンテンツを流通させるときは、完成された仕組みに載せれば良かったし、方法論もある程度確立されていたんですよ。そこについて考える必要はほとんどなくて、いわゆる「編集」だけに専念していればよかった。

いまは、本を出して書店イベントをやって――というルーチンでは十分ではない。そうではなくて、この本の著者でこういう内容であったら、例えばUstreamで番組をやろうとか、ニコニコ生放送で、誰かと対談させようといったようなアイディアが出せる人が求められている。

――マーケターとしての動き方ですね。

津田:まあ、そういう人もやっぱり自分で年1千万円とか全然稼いじゃうから、雇用というより、志の共有という形になってしまうんですけれどもね(笑)。僕は人材を育てていきます。その上で「編集長」という肩書きに変えるつもりです。これで「わかりにくい」と言われ続けた肩書き問題も解決する(笑)。

 

 
――津田さんの考える来年の展望をお願いします。

津田:いろんなことがやはり変わりますよね。僕が注目するのはマスメディアとソーシャルメディアの融合です――これは、震災で進み、フジTV前デモでまた元に戻ってしまったと考えているのですが(笑)やはりこの流れは止められないでしょう。

そういう意味では、ドワンゴ、ニコニコ生放送は存在感をさらに増すでしょう。川上量生さんが率いるドワンゴはメディアとして面白いし、既存のメディアからも面白い人材が集まってきている。

逆に言えば新聞社もネットを使うということは避けられないでしょう。だからこそ、そういった時に独立した存在としてメディアを持つということは意味を持つわけです。メルマガも想定以上に好調に滑り出したので、マネタイズの心配をしないで面白いメディア作りに集中できそうです。

――メディアが変われば読者も変わりますね。

津田:そうなんですよ。だから、「読んだらアクションしたくなる」メディアにしたいと思ってます。自然と受話器を取って電凸(大量に対象企業などに電話が殺到すること)したくなる――というのは冗談ですが(笑)。アイディアは無限にあるので、優先順位を付けて取り組んで生きます。仮に購読者数が5000人になれば月200万円ですから、そうなるとかなり色んなことが出来るはずです。
 


 
――電子書籍、出版についてはどうでしょう?

津田:Kindleの登場がやはりインパクトがあるでしょうね。電子書籍の一般化が進むはずですが、一方で心配されているような「紙の本が無くなってしまう」ということは、アメリカでの動向を見ても無いと思います。全体としてのパイは拡大するはずですから、フォーマットや商流の問題を早く解決して、しがらみなく取り組めるようにして、どんどん出していくことが正しい姿だと思いますね。
 


 
――震災に関しては被災地もたびたび取材されていますが、復興のために必要なことは?

津田:大事な動きとしては、「寄付とNPO」だと思いますね。民主党も意外にこの分野には例えば税制を変えるなど手を打っているんですよ。そういった復興を促す動きも新しいメディアで伝え、支えていきたいと考えています。
 

つだ・だいすけ●ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース 非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執 筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』 (中央公論新社)など。
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取材・文=まつもとあつし 写真=隼田大輔