「ONSENを世界共通語に!」 全国3,000箇所の温泉地をつなぐ「温泉むすめ」プロジェクトのキーマンが語る展望と野望

アニメ部

2016/12/2

 先月、日本の温泉をモチーフにした9人の見習いの神様たちが活躍するクロスメディアプロジェクト「温泉むすめ」が発表された。突然発表された同プロジェクトは、株式会社エンバウンドという設立されたばかりの会社が主体になって進められている。今回はそのエンバウンドのキーマンである2人にこれまでの歩みを伺った。

▲11月上旬に公式サイトやTwitter、Facebookで【温泉むすめ】プロジェクトが発表された。

――まず、おふたりの経歴を教えてください。

生方:エンバウンドの代表をしています。新卒で某総合電機メーカーの財務部門に入社して、その後、商社で発電プラントの技術営業をしてました。ただ、そこで海外の若いエンジニアと日本の話をしていると、「もう日本は物作りの国じゃない。でもアニメとマンガがあるじゃないか」とよく言われて。「確かにそうだな」と思って転職し、プロデューサーとしてアニメ制作に携わるようになりました。

橋本:自分は某出版社でウェブメディアの立ち上げや編集をしていました。その後、アニメ制作がきっかけで生方と出会って、彼が独立するというタイミングでジョインしました。

生方:ベンチャーによくある、共同創業に近い形ですね。

――エンバウンドの由来は?

生方:“エン”ターテイメントとイン“バウンド”を組み合わせた造語です。アニメやマンガはもちろんですが、それに限らず伝統工芸とのコラボなど、色々なコンテンツを通じてインバウンド(訪日外国人旅行者)を狙うだけでなく、海外に日本の素晴らしさを発信していきたいです。

橋本:それと“エン”には“ご縁”という意味も込められています。

――そのエンバウンドのプロジェクト第1弾が「温泉むすめ」です。なぜ温泉をテーマに選んだのでしょうか?

生方:まず、アニメによる地域活性というのは各地で行なわれていますが、あくまでそれぞれ独立していますよね。たとえば「ガールズ&パンツァー」と「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」は、同じアニメということ以外は結びつかない。その点と点をつないで、網羅的に盛り上げたいと考えていて、出てきたアイデアがお酒と温泉でした。でもお酒だと20歳未満は対象外になるし、温泉なら「湯上りに一杯」という自然な流れがあるなと(笑)。それで温泉になりました。

橋本:さらに温泉は日本人の誰しもが持っている“共通体験”だからです。

――確かに温泉なら全国各地に3,000箇所以上もありますしね。

生方:はい。そういった事情のほか、外的な要因としては東京五輪が2020年にあって、外国人もたくさん来ることが予想されます。彼らに五輪を観たついでに全国の温泉地に行ってもらえたらと考えると、今からプロジェクトを立ち上げて世界に温泉をアピールすべきだと思いました。

――先日オープンしたティザーサイトには、プロジェクトのサポーターとしてTokyo Otaku Modeがありました。これが海外を視野にいれている本プロジェクトの性質をすごく表していると感じました。

生方:Tokyo Otaku Modeさんは海外向けにEC事業をしていて、日本のアニメコンテンツのグッズなど販売しているのは有名だと思います。しかもFacebookでの発信力も抜群にあって、海外に向けた情報を発信するのにご助力頂けたら最適だと思いお声掛けしたところ、快くサポーターになって頂けました。

実は海外でも注目度の高い日本のONSEN(温泉)

 エンバウンドの企業理念が「エンターテインメントやコンテンツの力で海外からのインバウンドだけでなく、日本の魅力や素晴らしさを発信すること」。クールジャパンを始め、アニメの海外展開などの話題を聞くようになって久しいなか、「温泉むすめ」はどのような姿勢で海外に臨むのか。

――そもそも海外で温泉ってメジャーなものなのでしょうか?

橋本:日本ほど一般的ではないですが、東アジアやヨーロッパ、北欧など、海外でも温泉はありますし、入浴するという文化はあります。

生方:とあるマーケティング資料によると日本に来る観光客の目的のトップ3に温泉を含む自然豊かな観光地への訪問があったんです。温泉は海外にもありますが、日本の温泉の認知度は思った以上に高いです。

――意外です。インバウンドを狙うという点でも「温泉むすめ」は最適だと。東京五輪の話もありましたが、それ以外でも温泉需要は高そうですね。

橋本:現在、日本に来る海外からの観光客は年間2,000万人ほどですが、東京五輪の年は3~4,000万人は来日すると言われています。民泊も制限や条件付きで段階的に解禁されそうですが、それでも宿泊施設は足りないので、東京ではなく地方に送らなければ、東京が観光客で溢れてしまう。そういったときに東京から少し足を延ばして「箱根に行こう!」「草津に行こう!」「鬼怒川に行こう!」と思える一助に、「温泉むすめ」がなりたいと考えています。

生方:「温泉むすめ」の英語版サイトで温泉を“ONSEN”と表記しているのもそういった意味合いからです。「ONSEN」が世界共通語になることが最大の目標です。

――海外展開を重視しているのが伝わりました。いずれはコミカライズやアニメ化も狙っていると思いますが、内容も海外向けのテイストなど取り入れるのでしょうか。

橋本:そこは難しいところで、我々もアニメのプロデュースをいくつかやってきて思うのですが、いわゆる“美少女動物園”的なものは海外では人気になりづらい。だからと言ってキャラクターを妖精にしたり、魔法使いにしたりすると、今度は肝心の日本でウケない。やはりコンテンツ自体は海外向けに寄らないようにしたいです。海外の人には、日本のコンテンツを好きになってほしいですから。

作品を好きになってもらってから聖地巡礼、という流れが重要

 海外需要を狙ってはいるが、あくまで作品自体は日本向け。そうした「まずコンテンツありき」という姿勢は、日本の良さを海外に発信するというエンバウンドとしての理念に加え、先行事例の分析から作られたようだ。

――アニメで地方活性と言うと「ガルパン」などがありますが、そういった先行事例をどう見られますか?

生方:「ガルパン」の大洗は、あくまで推測ですが、自治体側から変な縛りがなく、こうして欲しいなど、最初から恣意的なところや制約がなかったのが成功の要因だったんでしょうね。劇中で実在のホテルをぶっ壊しちゃいますから(笑)。

橋本:もちろん作品のクオリティが一番ではありますが、それを担保するために、変に第三者に迎合したり、不自然な登場の仕方をしたりしないことが重要だと思います。大洗だって、最初から現地で盛り上がっていたわけじゃなく、作品が放送されてしっかりファンが付いて、しかも面白い。だから、ファンや自治体を巻き込んでどんどん盛り上がっていきましたので、やはり、まずはコンテンツありきだと思います。

生方:聖地巡礼が目的ではなくて、作品が面白いからその世界観に触れたくなって聖地となる舞台へ足を運んでみる。その順番を間違えると駄目ですね。

――最初から狙い過ぎてはいけないと。

橋本:そうですね。アニメファンはただ面白い作品に出会いたいだけであって、理由なく地方に巡礼や旅行に行きたいわけではないと思います。あくまでも面白かった作品の世界観に触れたいだけであって、「ガルパン」や「あの花」のような成功例やうまくいかなかった作品を分析してそれがわかったので、我々も慎重に進めたいと考えています。

生方:それに、この温泉地が駄目といったから、じゃあほかの温泉にするかというのも違うじゃないですか。たとえば最初の「草津」の代わりに伊香保や水上が先行したら、一般的に多くの人は「え?」となるだろうと思います。僕は群馬県出身なので、どちらも好きだしそれぞれの良さがあるのは実際行って感じてはいるのですが(笑)。なので、最初にモチーフにする9人は、有名どころの温泉地を選んでいます。

▲本日発表された箱根彩耶(CV:長江里加、キャラクター原案:玖条イチソ)
運動が得意で周囲を盛り上げる爽やかな少女。

橋本:唯一、物凄く有名な温泉地を複数抱えている地域については、 キャラ付けがしやすかったという理由で選択したりもしています。ほかにも様々な特徴を持ったキャラクターがいますが、個性豊かなメンバーが揃っていますので今後の発表にご期待してください。

――各キャラクターには声優が付いていますが、温泉むすめだけでなく、彼女たちもアイドルとして活動するのでしょうか?

橋本:もちろんです。キャラクターと同じく、アイドル活動をすることで実際の温泉地のPRになってほしいですね。我々が行うイベントだけでなく、地元のイベントに呼んでもらうなど、現地からお声がかかるようになりたいです。

――そこまでいくと、各温泉ごとに温泉むすめと温泉地で関わり方が違ってきて、競争みたいになりそうですね。

橋本:競争と言うと、いずれは温泉むすめたちの総選挙やアイドルグランプリみたいなこともやりたいです。温泉むすめたちは見習い神なので最初は等級が低いのですが、人々の癒しや笑顔が集まると神階が上がったり、ポジションがセンターになったりとか。そういった仕掛けも考えています。

生方:プロジェクトとしては、9人のキャラクターを発表したあとに、本格的なクロスメディア展開が始まります。そこから、ファンの方々や協力して頂ける各温泉地と一緒になって、楽しく競い合いながら、日本全国を「温泉むすめ」を通じて盛り上げていきたいですね。

――ありがとうございました!

ふたりの話を伺っているうちに感じたのが、本プロジェクトが既存のコンテンツを参考にしつつ、しっかりと企画の芯が通っているということだ。キャラクターと声優の両輪でのアイドル活動、さらなるキャラクターの増員、東京五輪をピークにしたインバウンド狙いと海外展開……これらの要素が温泉というキーワードとイントロダクションにある世界観を中心に無理なくまとまっており、まさに今、動くべくして動いているプロジェクトと言えるのではないだろうか。

しかしインタビュー内で両名が語っているとおり、すべては作品が愛されるかどうか。ゼロからの立ち上げながらも内的にも外的にも環境が整った本プロジェクトの野望が結実するかどうか。コンテンツ業界に関わる人だけでなく、アニメファンや声優ファンがどのような判断をするか注目したい。

取材・文=はるのおと

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