2000年の時を小さな遺物がつなぐ、そのロマンを鮮やかに描きたい

新刊著者インタビュー

更新日:2013/12/4

 累計600万部を超える大ヒット作「炎の蜃気楼」シリーズの著者。コバルト文庫を代表する作家が満を持して放つ、日本古代史最大の謎にまつわるレリック(=遺物)ミステリーである本書『ほうらいの海翡翠』は、まず、主人公・無量の“天才遺物発掘師”という設定に惹きつけられる。

「最初に、特殊技能を持った男のコを主人公にしたいというのがありまして。じゃあ、私の守備範囲の中で特殊技能って何だろうと思ったときに、やはり歴史系かなと。しかも、それでアクティブに動けるものといったら“遺跡発掘”かなというのが最初のとっかかりでした。またもう一方で“ちょっと変わった事務所ものをやりたい”というのもあって。それを上手く組み合わせられないかなということで、発掘派遣事務所で働く女のコ(萌絵)と、遺物発掘師と呼ばれる男のコ(無量)の話にしようと思ったんですね」

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 その無量と萌絵のコンビが直面する物語は、古代へのロマンをかき立てずにはおかないトレジャー・ハンター的な要素も満載。また、無量と萌絵の二人だけでなく、彼らを取り巻く脇のキャラクターたちも非常にユニークで魅力的なのである。たとえば、萌絵の勤める亀石発掘派遣事務所の面々もほのぼのと良い味を出している。

 「小さな町の事務所だけど、ちょっと不思議な人たちがいっぱいいる、そういう群像劇っぽい雰囲気も出したかったんですね。また、それで言えば前半にちらっと出てくる所長の別れた奥さん(外見はどう見ても年季の入ったキャバ嬢だが、じつは大学の史料編纂所に勤める優秀な研究員)が、なぜか私の周囲に大好評で。あの派手派手な感じがいいと。それは、ややうれしい誤算でした(笑)」

 ライトノベルで培った、読むものを惹きつける“キャラクター力”が存分に発揮されているのだ。そんな登場人物たちの魅力はもちろんのことだが、本書の醍醐味は、それだけではない。奈良の古墳から発掘された拳大の緑色琥珀=蓬萊の海翡翠から導き出される、“日本のルーツ”にまでも迫るような大胆かつ説得力ある仮説=ストーリー。その発想は、大学で史学科を専攻した頃から、あたためていたものなのだろうか?

「史学科というのはとりあえずそうだったというぐらいで、あまり真面目な学生ではなかったので……(笑)。ただ、歴史は昔から好きではありました。ご多分に漏れず、新選組とか幕末ものとか、そういうところをあちこち通って、紆余曲折して、大学の史学科に行きました。ただ、史学科は本当に文献だけで学問をするところだったので、“遺跡発掘”=考古学というのはまったく知らない世界だったんです。それで、今回はまさに一から勉強するハメになって。そこはちょっと大変でした」

 それでも、奈良の遺跡発掘現場の描写などは、まさにその道の専門家が書いたようなリアリティ。今回桑原さんは、実際に奈良の古墳発掘の現場に足を運び、発掘をする人たちの話もいろいろ取材させてもらったのだとか。

「みなさん、寒い現場でがんばっていて、本当に大変な、土と格闘するお仕事だと思いました。史学というのはいわば古文書と格闘する学問ですが、考古学はアクティブな歴史学であり、肉体労働でもある。でも、作業自体は本当に地味で土の色の違いを見ながら、黙々と、少しずつ掘り進めていくんですね。そんななかでみなさんは、無量のようには冷めてなくて(笑)、“何か出てきたら、やっぱりうれしい”と、熱くおっしゃっていて。だから、そういう遺跡発掘のワクワクするような楽しさみたいなものも今回、描きたかったんですね」