映画「BLAME!」を瀬下寛之監督が語る 弐瓶勉の傑作がオリジナルストーリーで蘇る

アニメ

公開日:2017/5/22

 2017年5月20日から、SF長編映画『BLAME!』が2週間限定で公開される。1997年から2003年にマンガ家・弐瓶勉氏が発表したSF作品を原作に、劇場アニメ映画が誕生した。
弐瓶勉氏の得意とするハードSFな世界観を映像で実現したのはCGアニメスタジオのポリゴン・ピクチュアズである。『シドニアの騎士』、『亜人』でみせた新世代のデジタルアニメーションを、『BLAME!』ではさらに進化させる。ポリゴン・ピクチュアズに所属し、本作の監督である瀬下寛之氏にお話を伺った。

いまなぜ『BLAME!』なのか? 映画企画の誕生とは

 映画の原作は、1997年から2003年にかけて発表された。骨太なストーリーには、日本だけでなく、世界中に熱烈なファンがいる。
しかし、過去に何度かアニメ企画が浮上しながら、完成に至らなかった。その重厚かつ壮大な作品の世界観も理由かもしれない。その『BLAME!』が、なぜいま新たにアニメ化企画となり、映画として実現したのだろうか?

瀬下監督によれば、『BLAME!』のアニメ化は2015年にテレビ放送・配信された同じ弐瓶勉原作の『シドニアの騎士 第九惑星戦役』に辿る。第8話にて、劇中に登場する映画(劇中劇)として『BLAME! 端末遺構都市』が制作、放送されたのがきっかけだった。

「この劇中劇は、当初の予定は弐瓶先生の別作品だったんです。ところが守屋秀樹プロデューサーが企画会議で、これを『BLAME!』でやれないかと提案しました。僕も弐瓶先生も面白いと思いました。そこで本編で約40秒、ブルーレイ特典で約1分半のフィルムを作りました。それが『BLAME! 端末遺構都市』です。」
「原作者と監督で、どれだけ前のめりなんだというぐらい。結構、作り込んでしまいました。」と話すほどフィルムに力を入れたという。
「ファンの反応もよかったですね。結果的にはパイロットフィルム的な位置づけになりました。映像を観た関係者がそのクオリティに、これは映画が出来るんじゃないかとなったんです。」
監督と弐瓶氏にとっては思わぬ流れだ。ただ「守屋プロデューサーに戦略があったかもしれない。」と監督は話す。

『シドニアの騎士』がテレビシリーズからスタートしたのに対して、今回『BLAME!』は映画となった。これについて、明確に映画と決めた瞬間はなかったと、監督からは意外な言葉があった。企画は当初より、映画というかたちから始まったのだ。
「ショートフィルムの段階で、すでに映画的なスタイルになっていたのも理由でないか。」と監督は考えている。

「結果的にパイロットフィルムになった作品は、レターボックスサイズ、いわゆるシネマスコープと呼ばれるワイドバージョンで作ったんですよ。普通はハイビジョンサイズのフォーマットですから。それと制作の際に、マカロニウエスタンのセルジオ・レオーネ監督のスタイルを意識したことも理由にあります。60年代の古き良き大作映画的なむムードにしたかったんです。画作りにおいても、そうしたケレン味をふんだんに注入しました。それらが映画的な品格に見えのかもしれません。結果として映画化という流れになりました(笑)」

もちろん、理由はそれだけでない。瀬下監督は「『BLAME!』は簡単には映像化できないという大前提があった。」と話す。

「『BLAME!』は壮大なストーリーなので、たとえテレビシリーズとしても描ききれない。だとしたら映画で、ハードSFで、豊かな世界観ではあるけれどすごくシンプルで共感されやすい人間ドラマを入れることで、間口を広げて弐瓶ワールドの魅力を再認識できるような入門編に出来るのでないか。そうした戦略に行き着いたわけです。」

原作は長大で、劇場アニメとしてまとめるにはかなりの困難が伴う。それが弐瓶勉氏自身が総監修に関わり、オリジナルストーリーを新たに作りだした理由でもある。
「入門編としては、映画はよくまとまったのでないでしょうか。」と、その仕上がりに瀬下監督も納得した様子だ。

『BLAME!』は神話的

 瀬下監督にとって『BLAME!』、そして弐瓶作品の魅力とは何なのだろうか?
その問いに対して「世界観ですね。」と力強く答える。

「20年以上前にあれほど壮大な世界観を、日本のマンガという表現手段で描こうとした。そのこと自体に魅力を感じますよね。膨大なハードSFの知識と類希なセンスがあったからこそ、ああいった独特の世界が創造できたのではないでしょうか。
そして『BLAME!』は信じられないような遠未来を描いているんです。あそこで起きた災厄は、数百年どころか数千年、数万年前なのかもしれないんです。そして、主人公の霧亥(キリイ)がネット端末遺伝子を探索する永劫の旅は、聖杯探究のようでもあります。ハードSFでありながら、まさに神話的、そこが弐瓶ワールドの魅力だと思います」

そんな原作をまとめるにあったては苦労も多かったと思えるが、原作からの変更点もある。なかでも物語の視点は大きな変更だ。

「一番大きな要素は、主役が誰かということでした。ここを解釈し直したところが映画版ならではですね。映画では「づる」という一人の少女の視点になっています。原作は無感情とも呼べる探索者、いわば救世主である霧亥(キリイ)の視点でストーリーは進んでいくのですが、今回は人間の話にしようと思いました。原作ファンにとっては、何でづるなんだと思うかもしれません。ただ原作のなかで一番健気な存在は誰だろうと考えた結果が彼女だったんです。一人の少女が集落を救うための行動とその勇気がまさにドラマの軸なのです」

映画ならではの楽しみ、そして配信で観る楽しみ

 映像としての新たな挑戦も、本作のみどころのひとつだろう。この点について瀬下監督は『シドニアの騎士』、『亜人』、今回の『BLAME!』と複数の作品を手がける中で、各作品に異なったコンセプトを持たさせている。それぞれに映像的なみどころ、発見があるというわけだ。

「今回の映像は“縦の強調”です」と瀬下監督。
「集落にしても、キャラクターの移動にしても、どこにいても縦の空間性を強調する場面設計をしています。実はシドニアでも上下に広がりのある空間を作っていましたが、それは弐瓶作品の特徴なんです。
その特徴を核にしつつ、あらゆるシーンにおいて臨場感・没入感を高めるための空間設計・場面設計をしています。3DCGならではというこだわりの部分です。
例えば、集落は攻めにくい砦として工夫をこらした事が伝わるように作っています。ものすごく急な下まで見渡せる階段。村へのアクセスはそこだけです。橋も落としやすく配置されています。彼らがいかに外部からの侵入者に脅えていたのか、それらのセット自体が語るようにしたかったんです。」

さらに新しさへの挑戦は、「僕らはいわゆる手描きの日本アニメの再現を目指してるわけではありません」との言葉からも窺われる。つまり、現在、アニメ業界の潮流のひとつになっているセルスタイルのCGとも異なる道を探っているのだ。それではその方向性はどこにあるのだろうか?

これに対して瀬下監督の答えは明白である。
「アメコミやグラフィックノベル、バンドデシネ(フランスのコミック)といったスタイルを映像化していくのが目標です。その最初の取り組みが『シドニアの騎士』です。」

その最新作の『BLAME!』になる。
「僕らはやはり3DCGそのものにこだわりがあります。3DCGの利点を活かして、日本のアニメーションのブランドに、独特のスタイルで新しい領域を築いていきたいです」

最後に本作が映画とNetflixの配信で同時スタートすることにも触れた。
「映画館でしか出来ない視聴体験が、存在すると思っています。DOLBY ATMOSで素晴らしい音響に仕上がっていますし、是非劇場に足を運んでいただければと思います。そして、Netflixでは繰り返し楽しみながら観て欲しいです。作品の各所に仕込んだ様々な仕掛けを発見できたり、劇場とは違った楽しみ方をしていただけるはずです。」

映像そのものと、映像体験。ポリゴン・ピクチュアズと瀬下寛之監督の作品は、いつも新しさと驚きに満ちている。

BLAME!

5月20日(土)より全国公開
「BLAME!(ブラム)」公式サイト
 配給:クロックワークス

<数土直志>
ジャーナリスト。アニメーション関する取材・執筆、アニメーションビジネスの調査・研究をする。「デジタルコンテンツ白書」、「アニメ産業レポート」執筆など。2002年に情報サイト「アニメ!アニメ!」、その後「アニメ!アニメ!ビズ」を立ち上げ編集長を務める。2012年に運営サイトを(株)イードに譲渡。

©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局