AVは表現手段のひとつ。作る側には価値基準と、覚悟が必要―AV監督・安達かおるが語る「AV表現における責任」【『遺作』インタビュー後編】

社会

公開日:2017/7/7

『遺作―V&R破天荒AV監督のクソ人生』(安達かおる/三交社)

 約30年にわたり「ヌケないAV」ばかり手がけてきたAV監督・安達かおるさんの『遺作―V&R破天荒AV監督のクソ人生』(三交社)は、安達さんの半生だけを追っているだけではない。やはりAV出演強要問題に積極的に発言するAV男優の辻丸さんや、作家の岩井志麻子さんとライターの酒井あゆみさんとの鼎談、V&R女子社員座談会なども載っている。そして1冊を通して漂っているのは、安達さんの強い反骨精神と「組織が嫌い」という思いだ。

 そんな中でV&Rは、激しいレイプシーンが社会問題となるバクシーシ山下監督の『女犯』をリリースしたり、障がい者を出演させたことでお蔵入りとなった作品もある。反骨精神の極みかもしれないが、出演者を軽視しているという実感は、安達さんの中にあったのだろうか。

「作品への批判は受け止めてきましたし、それをきっかけに『じゃあどうしたら抗議が来ない現場作りができるか』は考えてきたつもりです。ダメな部分はダメな部分でしかないから、そういう意味では自分はAV出演強要問題における加害者だと自覚しています。

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 僕はマイノリティや弱者に対して、加害者意識を持つことはとても大事だと思っています。だって『自分は絶対差別なんかしない』と言う人がたくさんいる一方で、やまゆり園の加害者に同調する声もありましたよね。『絶対に差別しない』と言いながらどこかで『自分とは違う』と他人を分断して、さげすんだり哀れんだりする気持ちを持っていると、いつしか本物の加害者になってしまうのではないか。だから常に『自分は加害者である』という意識を持ちながら、表現することを続けてきました。

 またアダルトだからといって何でもありではなく、女優さんや出演者の権利は100%守られるもの。アダルトほど、撮る側のリテラシーが試されるジャンルはないと思います」

 表現の自由は確かに大切だが、それは人権よりも尊重されるものではないと、安達さんも言う。

「『こういう表現はしてはいけない』というのは、作る側が意識していないといけない。表現の自由だからと言って児童ポルノを撮っていいという理屈は通用しなくて、表現の自由は撮る側にリテラシーや良心があってこそですよね。でもそれは自身が身につけていくものであって、第三者からガイドラインを渡されるものではない。自分の価値基準があれば『これはダメ』と言われても撮る意義について説明できるし、バッシングを受ける覚悟もできる。AVを作る側には自身の価値基準と、覚悟が必要だと思います。だからこそ権力から遠い場所に身を置き、表現者としての責任をまっとうするべきだと思うんです」

汚いものがあるから、きれいなものが存在する

 年齢認証があるとはいえ自己申告だから、アダルトコンテンツは今や誰もが簡単に見られてしまう。また一般サイトにまでアダルトバナーが貼りついていることから、見る資格がない年齢の子供や女性の目にも飛び込んできてしまう。それが暴力だという意見もあるが、どう受け止めているのだろう?

「それでもやっぱり見たくないからといって、徹底的に排除することには疑問があります。うんこがまさにそれですが、世の中には嫌われているもの、後ろ指をさされるものは確実に存在しています。そして嫌悪される対象としての存在には、人間の生と性があるとも思っています。

 V&Rが撮り続けているような、人々が忌み嫌うものがあるからこそきれいなものが存在するし、スカトロAVがあるから、AV女優が美しく絡むAVが重宝されるところがあると思う。だから女の子をかわいくきれいにエロく撮っているAV制作会社は、うちに感謝せいと言いたいですよ(笑)。

 ただ僕は『変な人間は変なものを創る』という考えは嫌で、常識ある人間がタブーに挑戦し、面白いものを創るから面白いと感じられると思う。だから先ほども言いましたが、作る側のリテラシーがまずは問われるのではないでしょうか」

『遺作』というタイトルには、還暦を迎えた安達さんが抱えてきた「AVはただセックスを見せて抜くためのツールではなく、表現のひとつ」という思いを、後輩たちに受け継いでほしい気持ちが込められているそうだ。

「AVは80年代に世に出てきて、まだそう長いものではないですが歴史がそれなりにあるので、時代に合わせてどう変わってきたか。そこを読みながら知ってほしいと思うし、表現手段のひとつであるという、僕の思いを受け継いでもらえたらと思うんです。

 でもそう言いながらも本当は、V&Rの作品を見たいと思っている人は確実にいることをわかっているので。遺作どころか来年の今頃は、運転手付きのアメ車に乗って豪遊しているかもしれないと思ってますけど(笑)」

AV監督の安達かおるさん

取材・文=霧隠彩子