「……死んでもいいや。」―15歳でレイプ被害にあった元AV女優が自らの傷を語った理由【大塚咲さんインタビュー 前編】

社会

更新日:2017/8/21

『よわむし』(双葉社)

……死んでもいいや。

気を失っている時間は、きっと何分もなかった。

 15歳でレイプ被害に遭った大塚咲さんの『よわむし』(双葉社)は、ページをめくった瞬間、こんな文字がいきなり視界に飛び込んでくる。

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 中高一貫校に通っていた高校1年生の時、英検の二次試験を受けるために学校に向かう途中で襲われてしまった。場所は学校のすぐ近く。見知らぬ男に捕まえられてナイフを突きつけられ、抵抗などとてもできなかった。以来フラッシュバックなどに悩まされ、学校が「恐怖を思い出す場所」になってしまったことで、自主退学を余儀なくされた。そして18歳で飛び込んだのは、AVの世界。そこで2004年から2012年までの9年間、芸名を変えながらAV女優を続けてきた。

 現在はアーティストとして写真やイラストなどを積極的に発表している大塚さんは、なぜ自らの傷をあえて語ったのか。話を伺った。

もう大丈夫だと思っていたのに、めまいが出た

 白いワンピースを着て前に座る大塚さんは、とても小さく華奢に見えた。

「いつかは自分の被害のことを書きたいと思いながらも、うっかり忘れながら日常生活を過ごしてきて。ある時ふと、『あ、私何か忘れてるな』と思い出して、ちょうど写真を撮ったりイラストを描いたりする日常のリズムができてきたので、このタイミングで本にしようと思いました」

 執筆期間は約3か月と語ったが、その間にめまいなど、苦しさを味わうことがあったと明かした。

「もう大丈夫だと思って書くことにしましたが、書いているうちにめまいの症状が出始めて。『まだこんな症状が出るんだ』って改めて驚きましたね。第一稿を書いている時、気持ちが本当に揺れていたので、内容も文体もぐちゃぐちゃでした。でもだんだん客観的になれてきて、ようやく落ち着いたなと思ったタイミングで校了を迎えたので、もう少し執筆時間が欲しかったなあって今は思います(笑)」

 大塚さんがどのような被害に遭ったかについては詳しくは書かないが、この本は辛さを吐露しながらも、自分で自分を俯瞰するような客観的な筆致になっている。被害当事者でありながら、どうしてここまで冷静に過去を吐き出せたのか。

「もともと客観的なんですよ。事件が起こった当日もどこか冷めた目線で自分を見ていた部分があったし、ずっと『なぜこういうことをしたのかな』って、理由を探しているところがあって。子供の頃に意地悪された時も『どうしてこんなことするのかな。妹が生まれて寂しいからかな』とか、理由を探していた人なんですよ、私は。そしてどの時点かはわからないのですが、自分の中では過去に起こった出来事への整理がついていて。だからこうして、今までの自分を振り返ることができたのかもしれません」

犯人への復讐心を終わらせるために、AV女優になった

 犯人への理由探しはいつしか、「自分の外見が性的興奮を抱かせるのだろうか」という考えに結び付き、「あの業界に行って、売れよう」という気持ちが芽生え始める。高校を退学し、18歳を迎えた大塚さんはAVの世界に飛び込んだ。以来9年間AV女優を続けるが、その間台本にはない、撮る予定のない撮影シーンを作られて性欲解消の犠牲になったり、疑似撮影の最中に相手が興奮したからと、強制的に本番に切り替えられたりするなど、屈辱的な現場に何度も遭遇している。そして真剣に演じているにもかかわらず、使い捨ての見下げた感覚で女優を扱う者も、当時は多かったそうだ。

 それでも事務所への抗議や失踪という実力行使をすることはあっても、10年近く女優を続けた。その理由は「15歳のあの日抱いた復讐心を終わらせるために、AV業界にいることで自分なりの決着を見出したかったから」だと、大塚さんは振り返る。そして現在は、

私はAV女優だった過去を自分の活動の上で隠そうとは思わない。その過去自体が、私の心の傷の表れだからだ。心に傷がある。それが私という作品だ。それは、悲しい事でもある。けれど、美しい事でもある。

と思いながら、アーティスト活動を続けている。ではかつての自分と同じ境遇に置かれた女性たちに対しては、どんな言葉を伝えたいと思っているのだろうか。続きは後編にて。

▲大塚咲さんによる、セルフポートレート

取材・文=玖保樹 鈴

大塚咲さん トークイベントのお知らせ
『よわむし』(双葉社刊)刊行記念 大塚 咲 × 姫乃たま トークイベント
「女の子だった私たち。と、その後」
◆日時 8月10日 20時~22時(19時30分開場)
◆場所 本屋B&B
http://bookandbeer.com
(お問い合わせはB&Bまで)