粋でイナセな江戸の絵師の人情にしびれる、痛快娯楽時代劇!

新刊著者インタビュー

更新日:2013/12/4

読者による作品への応援メッセージ投稿機能を搭載した
ウェブサイト「ぽこぽこ」のスターティングメンバーとして、
ベテラン古屋兎丸、押切蓮介らと肩を並べて参戦した注目の新鋭・岡田屋鉄蔵。
彼女がその実力を存分に証明したマンガ『ひらひら 国芳一門浮世譚』が
このほど単行本として発売された。
実在した幕末の浮世絵師・歌川国芳一門を描いた本作は、
間違いなく“次にくるマンガ”だ。未読の方は即チェックを!

 

薀蓄マンガではなく、娯楽時代劇
読んでスカッとしてほしい

 江戸時代末期、類稀なる画才で都を席巻した浮世絵師がいた。彼こそが、武者絵、名所絵から春画までなんでもござれの奇才・歌川国芳。粋でイナセな国芳に惚れこんだのは、お江戸の庶民ばかりではない。没後150年を迎えた2011年、国芳に挑んだのが気鋭マンガ家・岡田屋鉄蔵。『ひらひら 国芳一門浮世譚』では、国芳と彼を取り巻く人々の人情噺を、愛情たっぷり、闊達自在に描き出している。

「国芳の魅力は“人間のよさ”。気のいい親父で、金が入れば弟子たちとパーッと使ってしまうような人でした。没後に弟子たちが描いた国芳の死絵(追悼絵)を見れば、その筆遣いから如何に彼が弟子に慕われていたか分かる。泣けてきます。超一流の絵師でありながら自らを先生などとは決して呼ばせず、とにかく楽しんで絵を描いている。規制もある中、網の目をくぐって面白い絵を描こうとするエンターテイナーでもありました。見て楽しい、とにかくスカッとする、そういう作品を目指していたんでしょうね。私もマンガ家として、見習うべき点ばかりです」

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 そう瞳を輝かせて語る岡田屋だが、作中で主役を務めるのは国芳の弟子・田坂伝八郎。なぜ国芳を中心に据えなかったのだろうか。

「国芳を描こうとすると、私も弟子目線になってしまうので『親父、好きだ─!!』で終わってしまうんですよ(笑)。それでは人様にお見せできませんよね。ですから、まず読み手ありきでストーリーを考え、国芳一門の魅力を伝えようと思いました。読者の皆様が楽しめるドラマ性を盛り込み、客観的に国芳一門を描くため、誕生したのが伝八郎という狂言まわし。題材は浮世絵ですが、薀蓄マンガではなくあくまでも娯楽時代劇。テレビの時代劇アワー的な、どなたでも気楽に楽しめる内容を目指しました」

 国芳や彼を取り巻く弟子たちは、すべて実在した人物をモデルに描いている。しかし伝八郎だけは、岡田屋が生み出した架空の人物。どこからが史実でどこからが創作か、虚実の狭間を漂う感覚も心地よい。

「伝八郎と花魁の玉葉は私の創作ですが、実は国芳の浮世絵『勇国芳桐対模様』に、『でん』という人物が描かれているんです。また、伝蔵という人が代書した国芳の手紙も現存しています。『国芳に気に入られていたのかな』『書面が書けるほど字が上手なのでお武家さんだったのかな』と、絵や史実を元に想像を膨らませ、伝八郎が誕生しました」

 幼少期から時代劇や歌舞伎に親しみ、小島剛夕の『首斬り朝』をバイブルに育った岡田屋。幕末の志士・伊庭八郎を知ってからは、ますます江戸期に傾倒していったと語る。

「幕末は、表面張力で盛り上がるほど文化が熟成した時代。それでありながら、お国の一大事が起きたため様々な思惑が入り乱れ、雑多なエネルギーが多方向に交錯している時代でした。国芳が生きたのはそれより少し前ですが、やはりこの時代ならではの熱気がたぎっています。『ぽこぽこ』での続編が決まり、また岡田屋版芳桐連をお届けできることになりました。現在プロットをフルスロットルで構築中です。その前に別口で新作江戸モノ連載を予定してますので、そちらもお楽しみ頂ければ幸いです」

(取材・文=野本由起 写真=冨永智子)

紙『ひらひら 国芳一門浮世譚』

岡田屋鉄蔵 / 太田出版 / 780円

幕末を駆け抜けた奇才浮世絵師、歌川国芳。武家出身の田坂伝八郎は、川に身を投げたところを国芳に拾われ、彼の一門に入る。やがて絵師として頭角を現す伝八郎だったが、彼には師にも言えない秘密があった……。虚実を取り混ぜ、国芳をめぐる人間模様を描いた痛快時代劇。人情味あふれる国芳の魅力が、ページから立ち上る。

web連載空間ぽこぽこ発コミック同時発売!!

ゲーム、それはわが青春!
紙『ピコピコ少年TURBO』
押切蓮介 / 太田出版 / 693円

あの頃、僕はゲームがあったから生きてゆけた……。1980~90年代の極私的ゲーム体験をつづった青春台なしグラフィティ。ゲーマー版『三丁目の夕日』と言うべき、懐かしい味わいが心地よい。

伝説的傑作の前日譚
紙『ぼくらの☆ひかりクラブ[小学生篇]』(上)
古屋兎丸 / 太田出版 / 1000円

廃工場に秘密基地をかまえた3人の少年たち。しかし転校生の常川が仲間に加わったことから、彼らの間に狂気が醸成されてゆく。名作『ライチ☆光クラブ』の数年前を描いた前日譚。