『シティーハンター』から『エンジェル・ハート』完結まで! 冴羽獠が見守った32年間【インタビュー】

マンガ・アニメ

2017/8/26

『シティーハンター』は1985年に連載が始まり、テレビアニメ化もされ、当時一世を風靡した作品だ。一旦は完結したものの、2001年からセルフリメイク作品の『エンジェル・ハート』が連載され、あの世界観が復活。冴羽獠がミドルエイジとして描かれ、ヒロインのを見守る父親目線になっていることが時代の移り変わりを感じさせ、新たなテーマを描きだした。
 この作品がついに完結! 32年にわたる連載を終え、いま作者は何を思うだろう?

    北条 司
    北条 司
    ほうじょう・つかさ●1959年福岡県生まれ。79年に『週刊少年ジャンプ』の第18回手塚賞に準入選し、80年にデビュー。81年より『キャッツ♥アイ』を連載し、85年より『シティーハンター』を連載。両作ともにテレビアニメ化される大ヒット作となる。2001年より『エンジェル・ハート』を連載し、このほどついに完結。

 無類の女好きの自由人、だが、真の姿はスゴ腕のスイーパー(始末屋)。『シティーハンター』主人公・冴羽獠のこのギャップに痺れた人も多いはず。国民的ヒーローといっていい名キャラクターだ。

『シティーハンター』は、1985年に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まった。1991年に一旦は完結したものの、2001年の『週刊コミックバンチ』創刊時にセルフリメイク作品『エンジェル・ハート』として復活。その後、同誌の休刊にともない、2010年からは『月刊コミックゼノン』に連載の場を移し、描き続けられた。

 この『エンジェル・ハート』が、ついに完結。この作品だけでも17年の長期連載になるが、『シティーハンター』から数えると32年という超長期連載である。人生の半分以上を費やした作品に対し、作者はいま何を思うだろう。

 連載を終えた直後の北条司先生の仕事場におじゃまし、冴羽獠と共に歩んだ32年間を振り返っていただいた。

 まずは稀代の名キャラクター・冴羽獠が誕生した経緯だ。そこで振り返っておきたいのが、1981年の連載デビュー作『キャッツ♥アイ』である。セクシーなレオタード姿に身を包んだ3姉妹の女怪盗を描き、出世作となった。

「ジャンプ愛読者賞という読切作品のイベントがあったんです。編集担当(※現コアミックス代表の堀江信彦氏)と何を描こうかと相談して、『キャッツ♥アイ』のねずみを主人公にしようとなった。よく動くキャラなので、僕も担当も気に入っていたんですよね」

「ねずみ」こと神谷真人は、一見ちゃらんぽらんなスケベ男に見えて、実はスゴ腕の泥棒
というキャラクター。彼を主人公のモデルにした読切作品「シティーハンター ―XYZ―」が見事、愛読者賞の1位を獲得した。

「ねずみが元なわけだから、読切のときの冴羽獠はかなりチャラいキャラだったんです。だけど、新連載に向けて準備をしていくうちに、もともとハードボイルド好きだった担当が、海外で銃の取材をするうちにハードボイルド頭になっちゃった(笑)。それで強引にハードボイルド路線で行くことが決まったんです。だけど、僕はハードボイルドが大嫌いだったんですよ。自分の意向とはまったく違うかたちで始まったことが、連載初期の失敗でしたね。当時のハードボイルドというと、ストイックな自己陶酔型の主人公が、一人語りをするといったものが多かった。それを女ったらしのハチャメチャな主人公にして、ハードボイルドをおちょくってやろうと思って描くようにしたんですね(笑)

    獠の原点となった『キャッツ♥アイ』のねずみは、お調子者のスケベ男。二人とも胸よりお尻好き!?
    獠(左)の原点となった『キャッツ♥アイ』のねずみ(右)は、お調子者のスケベ男。二人とも胸よりお尻好き!?

 獠のパートナー・香は、読切作品のときは「助手の女の子」という程度の設定だったそうだ。

「連載が決まってから、獠のパートナーだった元刑事の兄貴(槇村)がいたという設定を考えたんです。最初から香を登場させて、後からパートナーになった経緯を描いていくつもりだったんだけど、ハードボイルド頭の担当が、最初からきっちり描いてほしいと言いだした。だから最初から殺される予定で槇村を登場させたんですよね。僕はきっちり経緯を描くというパターンが嫌いなので、実はこれもあまり本意じゃなかった(笑)」

 思いつきのように始まったこの設定が、あとあと「パートナー」という作品全体のキーワードになっていく。獠が唯一「もっこり」しないのがパートナーの香なのだが、彼女がボーイッシュだからというより、元相棒の槇村の忘れ形見として、兄と妹のような関係性が自然とできていたのだ。

満足できないからこそ描き続けられたのかもしれない

『シティーハンター』の代名詞といえば新宿である。高層ビル街と世界有数の歓楽街が隣り合わせ、スイーパーという裏稼業の拠点として、これほど相応しい街もないだろう。冴羽獠を32年にわたって描き続けることは、新宿を描き続けることでもある。新宿という街にどんな思いがあるだろう?

「最初は新宿といえば全国の人が知っているだろう、くらいの考えでした。当初は連載がとにかく忙しくて、新宿を取材することがほとんどできなかった。『何があるの?』と担当に聞いて、同伴スナックを描いたりしましたけど、僕自身は行ったこともない(笑)。だから”架空の新宿”という感覚で描いていたわけです。ニューヨークの写真を見ながらスラム街みたいに描いたりしていて、実は新宿らしくない(笑)。マンガなのに現実に即してきっちり描くのもどうなんだろう?という気持ちがあって、ファンタジーとしての新宿を描いているつもりだったんです。逆に『エンジェル・ハート』はファンタジー色が強い設定なので、新宿をきっちり描くようにしましたね」

 ちなみに獠の異名は「新宿の種馬」。『シティーハンター』のもう一つの代名詞が「もっこり」だろう。ハードボイルド路線で始まりながら、獠の「もっこり」描写が増えるにつれ、『シティーハンター』はギャグ路線になっていった。人気に火がついたのもこの頃。

「最初にもっこりを使いだしたのは、徳弘正也さんの『シェイプアップ乱』でしょうね。担当がやれって言いだしたんですけど、最初はパクリみたいでイヤだったんです。だけど、やると決まったからには、やりきるしかない。途中からは完全にギャグマンガのつもりで描いてましたね。だいたい6話で1エピソードなんですけど、5話までほぼギャグで、6話で銃撃シーンがあって、またギャグで締めくくるみたいな(笑)」

 この頃の『シティーハンター』を読むと、底抜けの明るさを感じる。20代の勢いで、ノリに乗って描いているという印象だ。

「楽しんで描いているように見えるかもしれないけど、そもそも作品作りって楽しくないものですよ。ふざけた話であろうとシリアスな話であろうと、最初にきっちりネームを考えて、その通りに描くという作業工程は同じです。ふざけたギャグシーンを何時間も座り込んで考えているわけですから、楽しいというものでもない。楽しいときがあるとしたら、こうすればいいんだ!というアイデアが思いついた瞬間だけでしょうね」

 都会的なタッチでギャグを描くのが『シティーハンター』の持ち味。マンガ界きっての洗練された絵の印象があるのだが、本人は「自分の絵を上手いと思ったことは一度もない」というから驚く。作画面における苦心を聞いた。

「すべてが苦労ですよ(笑)。自分としては常に納得できる絵を描きたいと思っているんだけど、振り返ると納得できたことが一度もない。腹が立つくらい自分は下手だと思っていて、進歩も遅いし、いまだに自分の絵が確立できたとも思えない。なんとか気に入った絵を描こうとしてここまで来ましたけど、逆にいうと、満足できないからこそ描き続けているのかもしれない。原動力が何かというと、僕の場合、それでしょうね。もし本当に納得できる絵が描けたら、もう描かないですよ。だって描く理由がないですから(笑)

    相棒だった槇村の忘れ形見として、獠は香を妹のように大事にしている。いつしかそれが愛に変わっていく。
    相棒だった槇村の忘れ形見として、獠は香を妹のように大事にしている。いつしかそれが愛に変わっていく。