『シティーハンター』から『エンジェル・ハート』完結まで! 冴羽獠が見守った32年間【インタビュー】

マンガ

更新日:2019/3/1

冴羽獠は自ら、恋愛を封印している
くっつきそうでくっつかない微妙な距離感を描いていたわけです

 冴羽獠がこれだけ多くのファンの心をつかんだのも、なんてアホなんだ……と笑ってしまうくらいの人間臭さにあったと思う。完璧なまでに強くてかっこいいヒーローは近寄りがたいものだが、獠の場合、同じ男子としてスケベ心がよくわかるというか、親近感がわいてくる。そして、パートナーの香による制裁の一撃!というお馴染みのギャグ。こうした他愛もないやりとりこそが『シティーハンター』の醍醐味だった。本当にその世界にキャラが息づいているように感じられてくるのだ。

「設定をある程度描いていくうちに、キャラが勝手に動くようになって、収拾がつかなくて困るくらいでした(笑)。それも年がら年中、考えているからでしょうね。こういう場面で獠だったらこうする、香だったらこうするだろうって、つい考えてしまう。連載中はずっと頭から離れないですよね」

 こうなってくると、もはや想像世界に生きる一人の人格である。女の尻を追いかけ回しながら、いざ恋愛に発展しそうになると獠はいつも途端に身を引いてしまう。それも獠なりの考えがあってのことのように思えてくるのだ。

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「獠が女好きなことはたしかなんだけど、タガを外すことが役に立つと途中で気づいたんじゃないですか。獠にボディガードを依頼した女性からすると、殺人犯に狙われる恐怖よりも、獠みたいなおちゃらけたスケベに狙われているほうがまだマシですよね(笑)。依頼人の意識がそっちに向けば、パニックにならずに済むし、多少は気持ちも安らぐかもしれない。だけど、事件の吊り橋効果でヒロインが獠に恋をしてしまう。でも、獠は恋をしたくないんです。女性に迫ることで自分の欲求はある程度、満足できているし、そうすることで自分のことを好きにならないだろうと計算しているように思いますね」

 なぜ恋をしたくないのか。一見、おちゃらけキャラのようでいて、実は彼ほど孤独な人間もいない。孤児として内戦の地で育ち、自分の本当の名前も、自分が何歳なのかも知らない。国籍がないため制度上の結婚もできない。だからといって、孤独な心の内を人に語らないのが獠という男だ。

「獠というキャラクターは矛盾しているんですよね。ずっと女性から隔絶された内戦の地で生きてきたのが、いきなり都会に出てきて、女の子がいっぱいだってなってタガが外れたんでしょう。だけど、自分はスイーパーという裏稼業しかできないわけだから、一人の女性を幸せにすることはできないとわかっている。女好きだから遊ぶことは遊ぶんだけど、彼自身は一生恋愛を封印していこうと思っているわけです」

 そんな獠の気持ちが揺れ動くのが、パートナーの香との関係だ。長年連れ添った夫婦のように、今さら色恋という感じでもない二人だが、随所でお互いに好き同士であることが描かれる。二人の不器用さが実にじれったい。

「男と女がひとつ屋根の下にいて、何も起きないわけはないじゃないですか。二人ともいい男といい女なわけだから、惹かれあうことは避けようがない。だけど、くっついてしまうと、そこで話が終わってしまうので、くっつきそうでくっつかない微妙な距離感を描いていたわけです︒変装した香と獠がデートをするエピソードを描きましたけど、あれは封印していた自分の気持ちに獠が気づくという回なんですよね。槇村の忘れ形見として大事にしているけど、妹みたいなものだと思っていたのが、実は違ったじゃんっていう(笑)」

    男勝りとして描かれる香だけど、実際はかなりの美女。こんな子がそばにいて、好きにならないわけがない!?
    男勝りとして描かれる香だけど、実際はかなりの美女。こんな子がそばにいて、好きにならないわけがない!?