『シティーハンター』から『エンジェル・ハート』完結まで! 冴羽獠が見守った32年間【インタビュー】

アニメ・マンガ

2017/8/26

    エンジェルハートカラーイラスト

突然の連載終了と『エンジェル・ハート』誕生

 物語終盤でようやく獠と香の気持ちが重なりあう。獠が育ての親との因縁に決着をつける「海原編」で、獠と香のガラス越しのキスシーンが描かれ、本当の意味で二人が男女のパートナーになったことが示されたのだ。

「初期のハードボイルド路線の遺産として、南米の麻薬組織の話があったんですけど、途中でギャグ路線に突入して、ほったらかしてあったんです。担当はとっくに忘れているんだけど、僕としては、完結までに絶対に整理しておかなくちゃいけないと思っていました。獠の育ての親の海原が、麻薬組織の首領になっている話にしてケリをつけたわけだけど、あのエピソードを描き上げたことで、自分としては、ついに終わったと(笑)。あのエピソードは、そろそろ終わりたいという編集部への意思表示でもあったんですよね」

 1エピソード完結型の『シティーハンター』は、続けようと思えばいくらでも続けられるスタイルだ。なぜ終わりに向けて物語を進展させようと考えたのだろう?

「どこか開き直っていたんでしょうね。連載が始まる少し前に子どもが生まれたんですけど、それもあって連載当初は何がなんでも終わりたくないと思っていました。ここで失敗したらマンガ家として先がないんじゃないかという不安にかられていて、妙なジンクスを作りだしては、これで連載が延びるはずだと思い込むようにしていたんです。あるとき、自分で自分を縛っていることのバカバカしさにようやく気がついた(笑)。それから、やるだけやってやろうという気持ちに変わって、ストーリーが進展しだしたんです」

 しかし、何事もなかったようにその後しばらくは連載が続いた。ところが、唐突に編集部から連載終了を告げられたという。

「聞かされたのが、残り4週だったんです。大慌てで無理やり終わらせたような感じでしたね。ちゃんとしたエンディングを迎えられなかった憤りもあって、いずれ続編を描くだろうと思っていましたが、そのときは特に具体的なイメージがあるわけではなかった」

 こうして1991年に『シティーハンター』は一旦完結。その後、1993年から『週刊少年ジャンプ』で『こもれ陽の下で…』を連載し、1996年からは青年誌に活躍の場を移し、男女逆転家族を描いた『ファミリー・コンポ』を連載。この作品の連載前に、堀江信彦氏と『シティーハンター』の続編について話し合ったという。

「もし描くとしたら、獠と香の子どもを主人公にしようという話で決まったんだけど、考え込んでしまいましたね……。この4、5年を振り返ってみると、ヒット作がない。ここでまた『シティーハンター』に戻ることが自分でも納得できなかったんです。それで『ファミリー・コンポ』を描くことにしたんですけど、これが思いのほかウケて、そうこうするうちに、堀江が独立してコアミックスを設立するという話になって、じゃあ手伝おうかということで『シティーハンター』の続編の話が再び持ち上がってきたわけです」

セルフリメイクとして生まれた香の心臓(ハート)をもつニューヒロイン

    香瑩に移植された心臓が意思を持ち、たびたび香との対話シーンが描かれる。香は香瑩のなかで生きているのだ。
    香瑩に移植された心臓が意思を持ち、たびたび香との対話シーンが描かれる。香は香瑩のなかで生きているのだ。

 それにしても『エンジェル・ハート』の展開には心底驚かされた。獠との結婚を間近にひかえていた香が、交通事故で亡くなってしまうのだ。そして、香の心臓が移植されたのが、台湾マフィアに殺人のエキスパートとして育てられた主人公の香シャンイン瑩なのである。

 香の死は本当に悲しい出来事だけれど、物語的には香は生き続ける。どういうことかというと、心臓に宿った香の記憶が、絶望していた香瑩の心を母のように包み込んでいくのだ。そして獠は、香の分身として香瑩を受け入れる。新たなシティハンターの誕生だ。

「獠と香の子どもを主人公にすることは決まっていたわけですけど、直接的に子どもにしてしまうと、香が二人いるみたいになってマズイと思ったんです。香と完全に違うキャラクターにしたかったというわけではなく、むしろ香を主人公にして描きたかった。どうしようかと考えているうちに、たまたまそのとき考えていたタクシードライバーの話が結びついたんです。事故死した妻の心臓が女の子に移植されて、血のつながりのない親子になるという話だったんですけど、この設定が一気につながって、これは絶対に面白い話ができるはずだと思いましたね」

 殺し屋として育てられた香瑩は、ごく普通の生活というものを知らない。10代半ばの少女だが、ある意味、子どものように無垢なのだ。そんな彼女が、獠との交流を通して少ずつ人間性を取り戻していく。その一方で、最愛のパートナーを失った獠が、いつしか父の目線になっていく姿も印象的だ。

「本来は違う性格なんだけど、香の記憶に左右されることで、眠っていた香瑩の人間性が引き出される。やがて二人の性格が融合して新しい性格になっていく姿を描いていこうと考えていました。獠が父親目線になっているのは、単純に自分が親の目線になっているからでしょうね(笑)。当時、ちょうど娘が香瑩と同じくらいの年頃で、積極的に自分の思いを描くつもりもないんだけど、自然と雰囲気に出てしまったのかもしれない。香瑩の成長を描くつもりだったのが、いつのまにか獠の成長を描いていた気がしますね。それだけこいつはキャラが強い(笑)」

 10年の時を経て描かれた『エンジェル・ハート』は、現実の時間軸とシンクロしている。性欲の塊のようだったアラサーの獠が、哀愁漂うミドルエイジとして描かれているのだ。

「10年近く空いてしまったので、そのままの調子で描くのは無理があると思いました。まったく歳をとってない獠が、ケータイを持って現れるのもおかしな話だしね(笑)。やはり時間経過を描かなくてはいけないと考えたわけですけど、かといって、あんまり歳をとらせすぎるとファンだった人が怒って読まなくなるかもしれない。連載中に獠の顔をちょっとずつ老けさせていって、40代の顔にしようという目論見だったんですけど、けっこう試行錯誤しましたね」

 ファルコンや野上冴子といった『シティーハンター』のレギュラーキャラに再び会えることもファンにはたまらない。しかし、ファルコンと結婚したはずの美樹の姿がなかったり、槇村の死因が異なるなど、微妙に設定に違いがある。これは厳密にいえば、完全な続編というわけでもないからだ。

「連載スタート時に出版社が『続編』と謳ってしまったものだから、話がややこしくなってしまったんですけど、『シティーハンター』とは設定が違う別の世界の話なんです。それを説明しようと思ってパラレルワールドという言葉を使ったら、ますます誤解を招いてしまって(笑)。要は作者自身によるセルフリメイクなんですよね」

死に立ち会うとその人がどう生きたかが分かる

『シティーハンター』が獠と香のパートナー関係を描いたのに対し、『エンジェル・ハート』では親と子の関係が描かれる。ただし、獠と香瑩は本来赤の他人だし、ファルコンがミキという少女の父親代わりになるなど、いずれも血のつながりのない疑似家族だ。しかし、それゆえに血のつながり以上に強固な心の絆を感じさせる。

「それが僕の根っこなのかもしれない。いろんなものに縛られずに自由に生きたいという気持ちがあるんですよね。好きだから結婚するのであって、社会制度があるから結婚するわけじゃないですよね。獠と香の結婚にしても、そもそも獠は国籍がないので制度上の結婚はできない。だけど、香とずっと一緒にいたいから結婚しようとする。たとえ本当の親子でも相容れない関係というのもあるわけだし、血のつながりというものにピンとこないところがあるんです」

 32年にわたって描き続けることは、時代の変化もさることながら、作者自身の変化も大きかったと思う。『シティーハンター』の軽妙なテンポに比べると、『エンジェル・ハート』は人生の機微を感じさせるヒューマンドラマの色合いがいっそう濃くなっている。

「やっぱり20代の頃と違って、オヤジが描くマンガなんですよ(笑)。この年になると、まわりの人の死に立ち会うことが増えてくる。究極的に人間の最後の姿は〝死〟じゃないですか。その瞬間に、その人がどう生きたかが浮かび上がる。この人の人生はどういうものだったんだろう?と考えることが、年齢を重ねるにつれて増えていったように思いますね」

「俺が消えると思うなよ」と獠に言われてるような気がする(笑)

 17年続いた『エンジェル・ハート』の完結にあたって、描いておきたかったこととは?

「香瑩が李大人(※実の父)のことを本当はどう思っているのかは描いておきたかったですね。二人の関係性を描くことで、すべてが解決していくというイメージでした。だから、僕にとって実質的な最終回はあのエピソードなんです。だけど、そこで終わらせず、最後は派手に撃ちあうエピソードで締めくくることにしました。ケジメというのもおかしいですけど、最後にカメレオン(※敵役の準レギュラー)との決着をつけたかったというのもありましたね」

 ファルコン曰く、「昔の獠に似ている」のが、愛情や信頼とは無縁のカメレオンだ。獠も香瑩も天涯孤独の身の上だったが、仲間との交流を通して人の心を取り戻していった。しかし、カメレオンは最後まで孤独なまま。香瑩とは対照的なキャラクターである。

「カメレオンは一番のライバルといえばライバル。最後にカメレオンが対決を挑んでくるというふうにして、香瑩とカメレオンを対比させたわけですが、もともとネームにはなかった見開きを付け足しているんですよね。一旦描き上げた後、直接的に二人を対比させた絵がほしくなったんです」

 いよいよ本当に終わりかと思うと寂しくもある。現在の心境は?

「物語は終わらないと話にならない、という気持ちもあって完結することにしたわけですけど、終わったことに対して今は何も考えられない。終わった気がしないというわけでもないですが、何の感情もわいてこないんです。僕が描かなくなったからといって、『オレが消えると思うなよ』と獠に言われているような気がする(笑)

 最後にファンへのメッセージをお願いしたところ、作者の言葉を押しのけて冴羽獠が登場!

「 “長い間お付き合いありがとうございました。これにて冴羽獠は旅立ちます。これまで北条司という限られた才能の中でしか、オレの姿は見られなかったわけだけど、これからオレはあなたの心の中に行くよ。だけど、オレが行くのは女の中だけ。オヤジはお断りだね。” 冴羽獠はそう思っているような気がしますね(笑)」

取材・文=大寺 明 写真=干川 修

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『こもれ陽の下で…』(1巻)

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『小説 エンジェル・ハート~消えた心臓~』

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