【小説家・朝井リョウ×でんぱ組.inc夢眠ねむ】本を読む楽しさを教えてくれた作品って?

スペシャルインタビュー

2017/8/30

(左)でんぱ組.inc夢眠ねむ(右)小説家・朝井リョウ

「つながる」がテーマの文芸誌『小説BOC』。その目玉企画である「螺旋プロジェクト」は、伊坂幸太郎さんや朝井リョウさんをはじめとする8組9人の作家が、同一のテーマとルールのなかで物語を紡いでいくという新しい試みだ。

 描かれるのは「海」族と「山」族という架空の部族の対立の歴史。それぞれの作家が、割り振られた時代に即したかたちで、ストーリーを展開していく。そして、すべての作品に共通して設定されているルールは、「海」族と「山」族の対立という世界観を共有すること。全作品に共通するキャラクターを登場させること。いくつかのアイテムの中から任意のものを活用することの3つだ。

『小説BOC』創刊時から、連載が始まったこの「螺旋プロジェクト」。2017年7月20日に発売された6号で、それぞれ6話目を迎え、物語はさらに深みを増してきている。そして7月30日には、「螺旋プロジェクト」参加作家のひとりである朝井リョウさんと、『小説BOC』第6号から新たに読書コラムの連載を開始したでんぱ組.incの夢眠ねむさんが、渋谷のHMV&BOOKS TOKYOでトークショーを開催。「螺旋プロジェクト」の舞台裏や、おふたりの読書体験について、赤裸々に語られた様子をレポートする。

朝井リョウが描く「わざと対立を生み出す」人たち

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 トークショー最初の話題は「螺旋プロジェクト」で朝井さんが連載している『死にがいを求めて生きているの』について。

朝井 原始時代から未来までの時間を書く企画だと伝えられたとき、絶対平成じゃないと無理だなって思ったんです。依頼をいただいた当時はほかの時代を書いてみたい願望もなかったし、私がメンバーに入ってるっていうことはきっと先方も私に平成を書かせるつもりなんだろうな~、ほかの時代は先輩方が担当してくださるといいな~と。

夢眠 なるほど。かわいい後輩を演じて平成をゲットした訳ですね!(笑)

朝井 そう。先輩に譲らないかわいくない後輩。でも、「対立」というテーマで平成を書こうと思うとそれが意外と難しかったんですよね。平成世代って、運動会でも順位を決めない学校が増えたり、テストの順位表が貼りだされなくなったり、なるべく対立しないように育てられた過去があるから、小説として平成を舞台に書くべき対立は何なんだろうと。戦乱的な対立は昭和以前を担当する方々が書くと聞いていたし、伊坂さんは家庭内の対立を書くとのことで、私が恋とか友情とかそういう普通の対立を書いてもつまらないよなあと。でも、競争がとりのぞかれる時代だからこそ、対立を無理やり自分のもとに引き寄せてまで、もしくは新たに対立を生んでまで自分の存在価値を確かめたい人がいることに気が付いたんですよね。有事でこそ輝く人というか。その存在を取り扱えば「平成ならではの対立」を書けるかも、と気づきました。そういう人、いません?

夢眠 うーん。確かに。

朝井 自分と全然関係ない芸能人の不倫問題とかに本気で怒っている人とか見ると、「対立構造をわざわざ自分のもとに引き寄せているなあ。正しさが揺るがない場所で大声を出すことで自分の存在を確認しているなあ」と思っちゃったりして……あと、たとえば、何人かの女優さんが横並びで撮影するシーンがあるとして、絶対に色がかぶらないように! 髪型がかぶらないように! みたいに奔走することでギラギラ輝いてる人っていますよね。女優さん同士はそこまで気にしてないような気がするんですけど、「特にAさんとBさんはかつてこういうトラブルがあったらしいから絶対に色かぶりNG!」みたいに、真偽もわからない対立構造をどんどん積み上げて、本来なら必要ない気遣いや仕事をして快感を覚えている人というか。

夢眠 そうですね(笑)。でもそれって仕事ができるとも言えますよね。

朝井 そう。紙一重なんです。自分からトラブル解決に身を投じているようにも見えるんですよね。だから書き方が難しいんですけど、『死にがいを求めて生きているの』では個人的に気になった数年前のとある事件をもとに、平成世代ならではの対立、そこに眠る私たちの感情を言葉にしたいなと思っています。

往復5時間の通学路で育まれた夢眠ねむのシブい読書

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『小説BOC』第6号から、夢眠ねむさんのコラム連載がスタート。ねむさんセレクトの書評企画だが、第1回を読んだ朝井さんからこんなコメントがあった。

朝井 第1回から『私のギリシャ神話』(阿刀田高)って、選書がシブいですよね……。

夢眠 中学、高校のときに私がゴリゴリに読んでた本です。

朝井 まず気になったのが連載冒頭の「中高の通学に5時間かかってた」ってところ。これって本当ですか?

夢眠 毎日三重から大阪まで、片道2時間半。純粋に電車の時間が5時間なんで、実際はもっとかかってました。

朝井 ええ!? 想像つかない。

夢眠 行きの電車で1冊読み切って、帰りは近鉄百貨店でもう1冊買うんですよ。

朝井 そこで本をすごく読むようになったんですね。

夢眠 書評のなかで紹介している『私のギリシャ神話』もまさに近鉄百貨店で買いました。クラスの女の子たちがアイドルとかスポーツ選手の話で盛り上がってるとき「オリンポス十二神だったらだれが好き?」って。朝井さんはそう思いませんでした?

朝井 思わなかった(即答)。

夢眠 そっか、オリンポス十二神は男性の方が多いからか。

朝井 オリンポス十二神は男性の方が多い、というのも今知ったので、男女比の問題ではないと思います。ギリシャ神話は全然通ってこなかったですね。

夢眠 え、つんく♂さんファンなのに? ギリシャ神話はすべての起源ですよ!

朝井 ○○はすべての起源ですって断言する人、なんかすごく怖いですね。

本を読む楽しさを教えてくれたさくらももこさんのエッセイ


 トークショー後半、話題は朝井さんが最近出版したエッセイ集『風と共にゆとりぬ』のことへ。

夢眠 この前、すごくカッコいいカバーの本を出してましたよね。でも帯に「つまんない」みたいなことを書いてませんでした?

朝井 絶対に書いてない。帯のコピーは「読んで得るもの特にナシ!!」です。

夢眠 拡大解釈しちゃった(笑)。

朝井 ひどい字幕の洋画みたいでしたね。『風と共にゆとりぬ』は個人的に超念願のエッセイ集の第2弾なんです。中身はすごくくだらないんだけど、表紙や紙の質など中身以外の全て利用してすごく高尚な本に見せかけるというプレイをやってみたかったんです。

夢眠 エッセイ集なんだ!

朝井 昔からエッセイ集が好きなんです。特に子どものころからさくらももこさんのエッセイが大好きで!

夢眠 わかる! 最高ですよね!

朝井 小さいころ、読書感想文がすごく苦手だったんです。「本を読むのならば感想を持たなければならない」というプレッシャーにやられて……。賞をとるような感想文って大体、「この本がきっかけで自分が変わりました」って内容なんですよね。

夢眠 そうそう。「読んでゴミ拾い始めました」とか。

朝井 本を理解しなければ、何かを得なければ、そして素敵な人間にならなければって、知らない間に刷りこまれていた「本」へのハードルを取り払ってくれたのが、さくらももこさんのエッセイ集だったんです。

夢眠 すごくラクに読める本ですよね。「あはは」って笑いながら文章を読むってはじめての体験だった。

朝井 本を読む以前に、文章を読むという行為自体がすごく楽しいことなんだと教えてもらいましたね。だから、自分がもし作家になれたら「さくらさんのような超絶くだらないエッセイ集のシリーズを出す!」と心に決めていました。

 終始、朝井さんとねむさんの息の合ったかけあいが続き、トークショーは大盛り上がりで幕を閉じた。

『小説BOC』第6号には、朝井さんが誰かのために生きねばともがき、自分の存在価値を求める若者たちを描いた『死にがいを求めて生きているの』の第6話や、ねむさんのシブい選書による書評、そして「螺旋プロジェクト」の作品群など、魅力的なコンテンツが盛りだくさんだ。

 文芸誌の「おかたい」イメージを打ち砕く『小説BOC』。パワフルな読書体験を求めるのなら、ぜひ手にとってみてほしい。

取材・文=近藤世菜