彼氏との結婚目前に、超好みの男子が現れたらどうしたら!?『恋のツキ』【新田章インタビュー】

マンガ

公開日:2017/9/11

30代に入ると多くの人が(するかしないかは別として)結婚や出産について考えざるを得なくなってくる。慣れ親しんだ同棲相手との“結婚”に手を伸ばそうとしたその時、新鮮でピュアな相手との“恋”が目の前に差し出されたら……。『恋のツキ』のワコが選ぶべきなのは、どっち?

 

『恋のツキ』登場人物

恋愛には喜怒哀楽、全部がつまっている

 31歳のワコとふうくん。親へ挨拶に行くことも決まり、結婚も考えているカップルだ。だが目の前に、“恋のツキ”(チャンス)が転がってきたら……?

「同棲のきれいなところではなくて、いやーなところを描けたらなと思って始めました。私にも今一緒に住んでいる人がいて、うまくいっているんですが、これまで何度か同棲には失敗していて(笑)。恋人って、自分を一番さらけ出す相手ですよね。親や友達よりも濃い関係。恋愛には喜怒哀楽、全部がつまっている気がします」

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相手にやられていることは自分も相手にやっている

 ふうくんとの生活には安心感があるが、細かなイライラもまたちりばめられている。靴下はいつも脱ぎっぱなしだし、魚の骨はまたシンクに捨てられ、テレビのリモコンはいつも彼のそばに置かれている──。

「人の恋愛のことはわからないものですが、描いたら描いたでみんな、ああ!と言ってくれて。イコくんにもふうくんにもモデルがいて、こんなことやったなあ、やられたなあということを、シーンに合うように調整しつつ描いています。やられているだけじゃなくて、自分も相手に対してやっているだろうなと思うんですよ。男も女もどっちも人間だから、どっちにも悪いところがある、と描けたらなと。だからワコのことも『バカだなこの女』と思っていただいても構いません(笑)。ふうくんは器が小さい人ではあるけれど、一応結婚を決断しますし、ひどい人ではない。そこは気をつけていたかもしれませんね。ひどい人にすると『そんな人だったらワコも浮気するよね』と思われてしまうので。そこそこ理想の感じのカップルにはしよう、と思っていました。それなりに誠実に生きてきた二人だと思います」

恋のツキ コマ
何を言っても許される…わけではない
長く恋人と暮らしたことのある人にならわかる、日々の小さなイライラ。生活習慣の問題はもちろん、一番キツいのは、気遣いゼロのこんなひとこと。〈職探しさっさとしといてね!〉。がんばっているのに、なかなか就職が決まらないワコの心に突き刺さる。(c)新田章/講談社

恋のツキ コマ
こんな私は「クソ」ですか?
イコくんの「二股でいい」という言葉に甘え、同棲をキープしながら恋すること(セックスを含む)をやめないワコ。〈クソだな私…〉という自覚もある。イコくんの倫理観もどこかへ行ってしまった?「むしろ最初からないのでは。性欲に引っ張られると思いますし。16歳ですから(笑)。でもワコを好きという気持ちはピュアだし、本物です」(新田さん)

同棲の解消には、勇気がいる

 そんなふうくんの「対抗馬」(新田さん談)が高校1年生の男の子、イコくん。映画好きで、ワコがバイトをしている映画館に一人でやってくる。

「最初は小学生の設定だったんですよ。〝体の関係がなくて、精神的なものだけでつながれる〟話を描こうと思ったんですが、担当さんに『新田さんは小学生を本当に好きになれますか?』と聞かれて『無理です』と(笑)。なのでもうちょっと大人で、それでもピュアなことが許されるギリギリの年齢設定に」

 まっすぐに自分に思いをぶつけてくるイコくんに走るのを止められないワコ。夜の神社でしゃべったり、素直に「会いたい」「触りたい」と言われたり、読んでいても「身悶えするほどトキメク」(帯より)。

「ああいう気持ちを思い出して描きました。イコくんとは趣味の合う人ならではの、付き合う楽しさもありますよね。ただ生活力はない(笑)」

 ワコは言う。ふうくんは「必要なもの」をくれる。イコくんは「ほしいもの」をくれる──。そして必要なものより欲しいもののほうが、強烈な力で心を支配する。

「そうなんですよね……欲しいものは、手に入っていない状態なわけですから」

〈イコくんとならきっと 憧れてたず──っとラブラブな日々が手に入る 2人で努力してそれを続けられる〉と思いながらも、〈私の一部になってしまった〉ふうくんとの生活、結婚への思いを簡単には断ち切れないのもまた、30代女性のリアルだ。ワコの気持ちは何度も行ったり来たりを繰り返す。

「同棲してしまうと、解消にはなかなか勇気がいると思います。特にイコくんは高校生ですし、『よっしゃ、来い!』とワコに言える立場ではないですしね」

いいことだらけの人生ではない人間を、描きたい

 もし、イコくんと同棲し始めたとしたら……本当に二人は「ずーっとラブラブ」でいられるのだろうか。そのときめきは、ふうくんの時と同じように、時間と共にどこかへ行ってしまったりはしないのだろうか。

「どうなんでしょうね……。結局ワコのないものねだりかもしれないですからね。隣の芝が青く見えただけかもしれない」

 2年間同棲中の新田さんに聞いてみたい。そこに、ときめきはありますか? 「あります!」。

 では今、“恋のツキ”が転がってきたとしても……「いかないです!」。どちらも即答!

「今のところ、ですけれど。私は私で幼稚な部分がかなりあるのですが……そういうところも受け入れてくれて、相性がいいんです。彼も経済力はあまりないですが(笑)、1億円積まれても彼との関係をとります! ただ……私がマンガを連載してなんとか生活できている今だから言えることなのかもしれない。環境によって、人によって変わるものだと思うんですよね」

 前作『あそびあい』のあとがきでも、新田さんはこう書いていた。〈恋愛やセックスは、時期や相手によりまるっきり変わるという、人それぞれ過ぎるものだよなあと思います〉。誰にとっても、いつであっても、これを選べば間違いないという正解などないのだ。

「本当にそう。だから人にアドバイスなんて、私にはできません。ただ……自己責任ではありますよね。報いを受けてからでは遅いこともある。このマンガに登場する人たちにはみんな、幸せな目だけじゃなくて、ひどい目にもちゃんと遭ってほしいなと。いいことだらけの人生ではない人間を、描きたいと思っています」

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どちらか選ばなくちゃ、ダメですか?
〈「当たり前」の年相応の生活に必要なもの〉をくれるふうくん。キラキラと輝くような、トキメキをくれるイコくん。両方とる、ではだめなのか……? 〈年相応の生活〉とは何なのか、またそれをしなくてはならないのかについても考えさせられる。

恋のツキ コマ
4年分の思いが、あふれる
映画製作のバイトの話をしたワコに、ふうくんは言う。〈どうせワコは作る才能も情熱もないんだからさ〉。この言葉で、ワコの思いがあふれ出す。二人の関係は、どうなるのか……。「(この後の展開で)我ながらいいセリフを書けたなと思いました(笑)」(新田さん)。しみじみと良いそのセリフは、本編で!

取材・文=門倉紫麻 写真=高橋しのの
(C)新田章/講談社

 


新田 章
にった・あきら●青森県出身。2005年春「アフタヌーン四季賞」にて佳作、2008年『マンガ・エロティクス・エフ』にて『くすりをたくさん』でデビュー。初連載『あそびあい』も話題に。2016年から『月刊モーニングtwo』で『恋のツキ』を連載中。