成河「自分自身の心を実際に痛めつけないと表現できない舞台。覚悟をもって演じていきます」

あの人と本の話 and more

2017/9/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、舞台を中心に活躍の場を広げる成河さん。童話ホラーの金字塔として、14年ぶりに新演出で再演される舞台『人間風車』で、売れない童話作家・平川を演じる。醜さや弱さ、行き場のない怒り……。人間の見たくないものを徹底的に露わにしていく本作に対峙する今の心境とは?

成河さん
成河
そんは●1981年生まれ、東京都出身。北区つかこうへい劇団などを経て著名演出家の舞台に次々と出演。2008年、文化庁芸術祭演劇部門新人賞、11年に読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。近年の出演作に、舞台『髑髏城の七人 Season花』『エリザベート』、NHK連続テレビ小説『マッサン』、映画『脳内ポイズンベリー』など多数。
ヘアメイク=山下由花 スタイリング=市川みどり 衣装協力=チェスターコート(OUT AGE TEL03-3477-8075)、パンツ(GRAND GLOBAL 下北沢店 TEL03-3411-9234) 

「“童話作家って何? 何が必要なの?”って、改めて考えさせられると思うんです。『人間風車』に描かれた平川からは」

 宮沢賢治が、生前に刊行した本はたった一冊。今回、成河さんが選んでくれた『どんぐりと山猫』は、その本の冒頭にある物語である。

「あまり成功することのない厳しい世界なんだろうなと。平川は、童話作家として、すごく純粋な部分は持っていると思うんです。イマジネーションやユーモアなど。けれど、彼は劇中で“絵本というのは子供じゃなくて、お金を払う大人が選ぶもの”と言われてしまうわけで。そこには、いろんな矛盾がありますよね。本作はそうした矛盾をきちっと捉えた作品だと思うんです。社会のなかで生きていくとき、自分の持っている純粋さをどう適応させていくのか。ものを作る人間として、共感できる部分はたくさんありますね」

『人間風車』は、初演2000年、2003年にも上演され、毎回、大好評を博している。今回は、2003年版でサム役を演じた河原雅彦が演出を手掛ける。

「“人間のグロテスクな部分を見せることって、時代がどんどん追い越していっちゃうよね”と、河原さんが気にされていて。僕も本当にそうだなと思ったんです。たとえば、世の中で起きる事件ひとつとっても、前作を上演してから今までの十数年の間に、その内実はさらに悲惨になり、グロテスクさは更新されてしまう。そんな今、人が見たくない、認めたくないものをどうすれば伝えられるのか。それを考えながら、演れたらいいなぁと思うんです。2017年のいま、何が一番、人間のグロテスクなのか。それにはまず、つくり手が、自分たちの本当に見たくないものを、自分のなかに見なくてはいけない」

 だが「なぜ、これほど人が見たくないものを見せるの?と言われたら意味がない」と成河さんは言う。

「この作品は、そこをすごく素敵なファンタジーとして届けるものなので。それが僕にとって、本作の一番、好きなところであり、強みであると思うんです。生々しいというか、現実と非現実の境目くらいに位置するファンタジー。そこで観る方も“体験”してほしい」

 この夏は、木下順二作、野村萬斎演出の舞台『子午線の祀り』で源義経を演じた。同作は、平家物語が題材となっている。

「考えようによっては、自分たちとは関わりのない世界ですよね。でもそこで命を落としたり、葛藤したりする人間の姿は、2017年を生きる人間にとっても、我がことのように思えてくる。観ているうちに、“自分の葛藤、もうそろそろいいか”とも思えてくる。演劇の存在意義とは、観た方の人生にとって意味があってこそ。何かで絶対に役に立つ。つくり手側もそう思っていないと、つくれないです」

 そして9月28日に、いよいよ『人間風車』の幕が開く。

「自分自身の心を実際に痛めつけないとできない表現は、数多ある舞台のなかでも、そんなに多いものではない。覚悟をもって自分と向き合い、平川を演じていきたいと思います」

(取材・文=河村道子 写真=下林彩子)

 

舞台『人間風車』

舞台『人間風車』

作/後藤ひろひと 演出/河原雅彦 出演/成河、ミムラ、加藤 諒、矢崎 広、松田 凌、良知真次ほか 9月28日(木)~10月9日(月・祝)東京芸術劇場プレイハウス 大阪ほか地方公演あり
●売れない童話作家の平川が公園で披露する奇想天外な童話に子供たちは大はしゃぎ。そこには童話の主人公になりきって現れる奇妙な青年・サムもいた。ある日、知り合ったテレビタレントのアキラ。彼女との出会いは平川の作風に大きな変化をもたらし、そして……。