たった「一行」から広がる極上の怖さ―そこに秘められた作者の奇妙な体験とは?〈インタビュー前編〉

エンタメ

2017/9/4

『一行怪談』(吉田悠軌/PHP研究所)

 夏になると季節柄、怪談物の書籍は多くなる。そんな折に一風変わった一冊を見つけた。それが本書『一行怪談』(吉田悠軌/PHP研究所)である。開くとそこには1ページにつき1行の怪談が並んでいるのだが、余分な言葉が無いだけに、より想像力が喚起され頭の中で勝手に怖さが広がる。こんな作品を書き上げる作者とは、いったいどんな人間なのか? 是非ともと思い、インタビューを行うことにした。

▲著者の吉田悠軌さん

【プロフィール】
吉田悠軌(よしだゆうき) 怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談の収集や国内外の怪奇スポット探訪をライフワークとし、雑誌・WEBでの執筆やテレビ・イベント出演など、精力的に活躍中。

――本日はよろしくお願いします。まず、一行スタイルにしようと思った動機を伺えますか?

「飯田茂実さんの作品が、きっかけでしょうね。『世界は蜜で満たされる』という本があって、それが一行物語なんです。これが怪談のような雰囲気でして、短い文というのはどうしても幻想文学か怪談寄りにならざるを得ないようで。ただ『一行小説』といっても、『一行』ではなく『一文』なんですよね。でも、やっぱり『一行』と言ったほうがインパクトがありますから。ツッコミが来るのは、わかってますけど(笑)」

――怪談に興味を持ったのは、いつ頃からでしょうか。

「興味自体は物心ついた頃からあったと思うんですが、たぶんホラー映画の影響が大きいんじゃないかと。僕、1980年生まれなんで、ちょうど物心ついた頃にレンタルビデオ店が全国的に普及しだして。あの時代って棚を埋めるためにホラー映画がちょうど良かったんですよ。『ギニーピッグ』とか、スプラッタ描写一辺倒なトンデモないものが置いてありましたから。それを、普通に小中学生が『お、なんだろう?』って思ってレンタルする。今、考えると完全アウトなんですけどね。ああいう殺人フィルムみたいなものがレンタル屋の棚にそっと、たぶん殺人鬼がそっと置いてったんだろうって思うぐらいな感じで並んでいる。『一行怪談』もそれをちょっと狙ってるところはあります。例えば全米No.1大ヒットとかっていう作品を観て怖くても、もちろんその作品の怖さの価値はあると思いますが、それで終わりなんですよね。でも、図書館でなんとなく借りた本とか、レンタルビデオ店で知らずに惹かれた1本が、自身の常識を超えたものだったら、不意打ちされたようなショックを受けますよ」

――本書は以前にも、主宰されている「とうもろこしの会」で同人誌として出されていましたが、当時も不意打ち感を狙っていたのですか?

「やっぱりそこはこだわってます。当時、印刷所に『奥付とか入れろ』って言われたんですけど『絶対ヤダ』って断りました。奥付入れたら製本になってしまって、商業出版とまではいかなくても『誰かが作ったんだな』ってなっちゃう。最後の文章が最後のページで、もう書きなぐって終わった感じみたいなものがほしくて。本当に誰かが、たぶん頭の狂った人が100部ぐらい刷って各地の図書館に置いてったみたいな感じにしたかった。それで、日本のどこかの子供にひっそりトラウマ与えられたら、うれしいなって」

――『一行怪談』の中には、ご自身が体験された話もあるのでしょうか?

「これは創作がほとんどですが、もちろん実話もあります。例えば、心霊スポットへ行き、その時は怖がってたけど、後日その廃墟で笑っている写メが送られてきたという話です。実際には廃墟じゃなくて、某心霊トンネルに何人かで行ったのですが、一人が取り憑かれたようになってしまいました。僕は除霊なんてできないけどするふりをして、なんとかその場を収めました。その日はそれで終わって、みんなで帰ってきましたが、後日、彼からそのトンネルの写メが『また来ました』と満面の笑みで送られてきて、もう放っておこうと(笑)」

――他に印象に残っている体験はありますか?

「知り合いたちと某県の廃村に行って、その1週間後ぐらいに、みんなが同じ夜、同じようにその廃村を歩いてる夢を見たんですよ。夢の中では、村にいなかった目の無いおじさんが木の上に座ってたり、井戸の中から覗いていたりと。同じ夜に同じ夢を見るのも変な偶然ですが、有り得なくはないですよ、その廃村へ行ったばかりですから。ただ、そのおじさんが共通しているのは、有り得ない……。でもその夢、僕だけ見てないんです。実は、徹夜で麻雀していて寝てないんですよね(笑)。僕だけ大抵そうなんですよ、なぜか免れる場合が多くて(笑)」

――それは、吉田さんとしては悔しい想いですか?

「僕も、体験はしたいんで……。こういう職業やってる以上、もし本当に体験できるんだったら、しといたほうが良いじゃないですか、全くしないよりは(笑)」

 後編では『一行怪談』のテーマとその書き方について、さらに深く掘り下げる。そこでは、一行の物語で怪異を描き出すコツや、恐怖という感情の多彩さが存分に感じられるインタビューをお届けしたい。後編をお楽しみに。

取材・文=犬山しんのすけ