「掃除」と国家と青春と!? 異色にして王道な熱血小説の続編

新刊著者インタビュー

2012/2/6

絵画的なイメージで言葉を組み立てて
嘘の世界を真にする

 一方で、健やかな部活小説としての側面も健在だ。今年新たに掃除部に入部したのは、ツインテールの眼鏡才女ニノ、垂楊拳の使い手で人懐っこい性格の悠馬、ぶっきらぼうだが身体能力は高い鳴海。彼ら3人は各々の個性で部に新たな風を吹き込むだけでなく、壁にぶつかった樹にも気づきをもたらしてくれるキーパーソンだ。

 さらに、スポーツとしての「掃除」が前作以上にダイナミックに、躍動的に描かれているところも見逃せない。ふと我に返ったとき、読者は驚くだろう。「どこにもないはずの架空のスポーツが、こんなにもリアルに頭の中に思い浮かぶのはなぜだろう?」と。

 嘘を真に変えてしまう圧倒的な映像喚起力、すなわち筆力は第一級のエンターテインメント小説の証だ。

「棒を振り回して塵芥を動かすだけ、という映像にしたらどうしようもないものを(笑)、文章の力でどれだけ説得力を持たせ、かつ美しく深淵に見せられるかということを試した作品でもあるんです。だからこそ、文章の読みのリズムにはものすごく気を遣っています。ここで4文字の単語を使うとリズムがちょっと崩れるからあえて3文字にしようか、というふうに何百回も見直していく中で削っていく。

だから違和感のある言葉がたくさん出てくるわりには、スラスラと読めるようにはなっているはずです。もうひとつ付け加えるとしたら、あえて相応しくない単語をポンと置いてみるんですよ。その描写にその単語は来ないだろうというものをわざと置いて、きちんと収めるためには前後にどんな文章を置けばそれが光ってくるかと考えてみる。多分、絵画的なイメージだと思うんですよね。絵を描く人って、白い置物を描くときに緑や赤のものをポンッと置いたりするんです。それを置くことで白さが際立つから。そういう絵画的なイメージで文章を書いている部分はありますね」
 

「地震が起こって、君の小説を思い出したよ」

 連載が佳境を迎えつつあった昨年3月、東日本大震災が起きた。その2カ月前に刊行された三崎さんの最新刊のタイトルは『海に沈んだ町』。『失われた町』『刻まれない明日』に連なる町の物語だが、あの大津波を経た今向き合うと、そのモチーフの予言性に慄然とする。

 震災直後、三崎さんは被災した友人から「地震が起こって、君の小説を思い出したよ」と書かれたメールを受け取った。

「その文面を読んで、少し救われた気持ちになりました。あの圧倒的な現実の前で小説を思い出してくれたということは、ある意味で小説が拠り所になることができたのかもしれない、誰かが拠り所にできるものを自分が作っていたのかもしれないと思えたから。あんなにも日常が激変した大震災という状況の中で、自分が作ったものがどれだけの力を持ちうるのかということを、ものを作る人はどうしても考えざるを得なかったと思うんです」

 となり町と戦争が起きる世界、鼓笛隊が襲来する世界、掃除がスポーツになる世界。三崎亜記の小説世界はいつも、私たちが見知った現実をほんの少しだけ遊離させたアイディアに基づいて組み立てられている。

「それはある出来事をそのまま書くと、関与してなかった人にとってはまるっきり無関心なことになってしまうからです。例えば阪神大震災の話をそのまま書いたら、あの震災でかけがえのないものを失った人以外には他人事としてしか読めないものかもしれない。でもそれを思わせる近いニュアンスで書かれた物語なら『この話はこういった形だけれども自分にとってはどうだろう?』と自分の人生に置き換えが出来るのかもしれませんから。

『コロヨシ!!』シリーズも同じ。棒を振り回すだけで大人の世界に抗えるのかといったら、現実は抗えない。じゃあ自分は無力だから何もしなくていいのかというとそうじゃない。無力だからこそ何かやるべきことがあるし、善悪がはっきりしない中でも人は自分なりの結論を出さないといけない。そう考えて一歩ずつ進んで行くことが大事なんだと思う。私自身も無力だからこそ文章を書き続けていかなければならない、と今思っていますから」

(取材・文=阿部花恵 写真=下林彩子)

紙『決起! コロヨシ!!2』

三崎亜記 / 角川書店 / 1785円

新国技候補として大々的に発表されて以来、「掃除」が一躍メジャーになった現実に戸惑う樹たち。掃除部にも入部希望者が殺到するが、樹は全国大会の直後から姿を消した偲と寺西顧問のことが気にかかってならない。個性豊かな新入生や幼馴染の梨奈に振り回され、居留地と西域を行き来しながら、樹の高校生活最後の一年が始まる!