まったく部活になりえないものを、部活にでっちあげてしまおう

新刊著者インタビュー

2012/2/6

「掃除」がスポーツ!しかも熱血!?
その陰にはなぜか国家の存在も――
『となり町戦争』の三崎亜記がおくる新境地「スポーツ」小説!!

 突然「コロヨシ」と言われてもピンとこない? ならば「頃良し」ではどうだろう。頃、良し。機は熟した。三崎亜記の“頃良し”な新境地は、なんと今までの印象をガラリと変える青春スポーツ小説だ。しかも主人公が夢中になるスポーツが「掃除」って!? 

三崎亜記

みさき・あき●1970年福岡県生まれ。熊本大学文学部史学科卒業。2004年に『となり町戦争』で第17回小説すばる新人賞を受賞してデビュー。18万部のヒットとなった同作は映画化され、直木賞にもノミネートされた。近著に『廃墟建築士』『刻まれない明日』などがある。

「最初の依頼は青春小説を、とのことだったんですけど。でも私が既存のスポーツを取材して描いても、それは三崎亜記が書く必要はない。じゃあ、まったく部活になりえないものを、部活にでっちあげてしまおうと考えました」

 出発点は競技それ自体の創作。さまざまな構想を練る中で、ふっと「掃除」が候補に挙がった。

「境内を箒で掃いているときのお坊さんの所作って、すごく美しいものがありますよね。フィギュアスケートを見ているときも、素人の私にはまったく理解できない動作で拍手が起こったりする。ならば掃除の何気ない動きの中にも、実はすごい技術が含まれているんだ、というでっちあげも可能かなと。あとはいつも通り、自分の頭の中を取材して、あるものを全く別の場所に置き換えてみるという手法でやってみただけです」

 それにしても掃除をスポーツにするという発想も大胆だが、それを取り巻く世界観の緻密な書き込みたるや!(57ページを参照)。三崎ファンには馴染み深い「居留地」「西域」といったキーワードも見受けられる。高校生たちがスポーツ(掃除)に熱中するほど、背後に潜む国家の思惑も浮かび上がる。こんな複雑かつ巨大な構造を背負ったスポーツ小説、前代未聞では? ちなみに三崎さん自身、スポーツの経験は?

「ゼロです。見ず知らずの人を応援する趣味もありません(笑)。今回、昼の部活と夜のクラブカルチャーと2つのクラブが出てきますが、私はどちらも未経験です。経験したことがないものをどれだけ描けるかというのもひとつの挑戦でした。でも当初、スポーツ小説のプロットとして考えていたときは筆が全然進まなくて。編集者と『やめときましょうか』なんて話をしてたら、ぱっと国技という単語が出てきた。その瞬間に『あ、できる』って。結局、青春小説の妙というのは、若さゆえの不完全感ですよね。

ただでさえ生きづらい社会なのに、親の保護下にいるせいで充分に体を伸ばせない感覚だとか。でもそこに国という巨大なものを据えてみたらどうだろう、と思って。主人公の成長という主軸はありますけれども、その成長と挫折をたんなるスポーツ上のものだけにするのではなく、様々な思惑が渦巻く世界をしっかりと見据え、それでもなお自由に動けるかどうか挑戦する成長物語にしてみたい、と考えました。書き進めるうちに、剣豪小説を書いている気分になってきましたが」

 大げさに言えば掃除とは「世界を乱したのち元の状態に帰着させる」ということ。それは主人公の樹が追求する真理でもあると同時に、『コロヨシ!!』の世界観をも示唆している。現在は、シリーズ続編を執筆中。この大きな世界が次に向かう先は過去か、未来か、海の向こうか?
 

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