本人は楽しくお酒を飲んでるだけ? 「アルコール依存症」の父親に苦しんだ娘が描く、家族崩壊ノンフィクション!【インタビュー】

マンガ

更新日:2017/9/21

『酔うと化け物になる父がつらい』(菊池真理子/秋田書店)

 酒を飲んで化け物のようになった父親に振り回される家族を描き、『チャンピオンクロス』に掲載されるやいなや話題を集めた『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店)が、9月15日に単行本として発売されました。著者である菊池真理子さんは、なぜ壮絶な体験をマンガにしたのか? お話を伺ってきました。

■「アルコール依存症」だなんて思いもしなかった

――菊池さんの担当編集者の友人で、お酒を飲むと乱れる方がアルコール依存症外来のセミナーを受けた顛末をまとめたマンガを公式ツイッターに掲載されて話題を呼びましたが、その取材まで菊池さんはお父様がアルコール依存症だとまったく気づいていなかったそうですね?

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菊池真理子(以下菊) 私の中でのアルコール依存症って、毎日飲む、手が震える、お酒がないとすぐに買いに行く、働けなくなって借金を抱える、というようなイメージだったんです。でも、お酒を飲むと記憶をなくすとか、人前で脱いでしまう、という酔い方でもおかしいということ、じゃあ「毎週末記憶をなくしていたうちの父も、その気(け)があったのかも」と気づいたのが「酔うと化け物になる父がつらい」の連載をはじめたきっかけでした。

――酔って記憶をなくして、ストーブで額を焦がして、風呂で気絶して溺れそうになるなんて、「その気」どころではないと思いますが…。

 それまでは「父の、この程度の状態でツラいって言っていいのか」という思いが強くて。でも1話が『チャンピオンクロス』で掲載されると「こんなツラい家って実在してるんだ」という反響をいただいて、逆にビックリして。「あ、私って他の人から見たら、ツラかったんだ」ってようやく客観的に認識したんです。

――『酔うと化け物になる父がつらい』では、誘われるがままに酒を飲み、家へ帰ってくると“化け物”状態になっているお父様が描かれています。

 家で飲む人ではなかったので…。父の、しらふの状態から酔い始め、潰れるまでの過程って私は見ることができなかったんです。家を出るときはまともだった人が、突然バーンとおかしな人になって帰ってくる。

――お父様が自宅で飲んでいた描写は、近所の方が集まって麻雀をやるシーンくらいでしたよね。

 父はもともとお酒が好きなわけではなく、若い頃はビール一杯で便器を抱えてしまうくらいお酒に弱い人だったんです。でも男同士のつき合いだったり、仕事のしがらみだったりに縛られて、断れなかったんでしょうね。そして父は寂しくて、誰かに誘われると飲んでしまっていたんだろうと思います。

■もともとは「母親」のことを描くつもりだった

――中学2年生のときにお母様を自殺で亡くされたエピソードも描いていらっしゃいます。

 昔から家族のことは描きたいと思っていて、もともとテーマは母だったんですよ。私が生きにくいのは、母が自殺したことにあるんだろうと感じていたんです。この話を描こうと考えていたときは、生きづらさは母由来なのか、それとも父由来なのかを分けるような作業をしていくうちに、いつの間にかテーマが父に変わっていたんです。それまで、私は父から何かされたという感覚って、実はあんまり持ってなかったんですよ。

――え! そうだったんですか? マンガを読む限り、かなりヒドいですが……

 描いてみたら父の方が母よりも影響が大きかったんだな、とだんだんわかっていった感じで。母はある新興宗教の熱心な信者だったんですが、何より父のことが大好きだったと思うんです。全部先回りして、ご飯を用意したり、お客さんが来ても嫌な顔せずに面倒見たりするんです。だけどみんな帰るとワーッと泣くみたいな。そんな強烈な母のこともあって、これまで父の酔ったエピソードって、私にとって「面白ネタ」でしかなかったんです。

――お父様の行動は、冷静に見ると笑っていい話ではないと思いますが…。それにしても思い出す作業、ツラくありませんでした?

 ツラかったのもありましたけど、忘れちゃっていたこともたくさんあって。作中、父が突然号泣するシーンがあるんですけど、これは「どんなことがあったっけ?」と聞いた妹から「突然泣き出したことがあったよね」と言われて思い出したエピソードです。それまでは完全に記憶からなくなってました。

――あまりにツラいこと、思い出したくないことって、生きる上で邪魔になるから、心の奥底に押し込んでガチガチに凍らせて蓋をして、忘れたつもりになるんですよね。それが何かのきっかけで、瞬間解凍するように思い出される。ウチの父も軽いアルコール依存症で、うつ病で過干渉、言葉によるDVがヒドかったので、あまり思い出したくないですね……ただ母が社交的な人で多少は外の空気も入ってきていたので、菊池さんの家よりはいいかな、と思ってマンガを読みましたけど。

 私の父はDVもなかったし、過干渉もうつもなかったので、「そういう人が家の中にいたら、よっぽど大変だろうな」と、そちらの方がツラかったように聞こえますが……

――確かに外に助けが求められない、でもここは自分の家だからこの場所にいたいと思って、「ウチの家って変」という意識を持たないようにしていたかもしれないですね。

 「ウチの家って変」と気づくには、やっぱりいろんな人とお話をしないといけないと思います。何気ない普通の会話からも、「自分は他の人と違うのかも?」と思うこともありますしね。

――マンガには「若いママになりたい」と言う友人に「自分に似たものを作るなんてナルシストなの?」と思ってしまって、自己嫌悪に陥る場面もありましたね。

 「寂しいから、お父さんとお母さんの間に入って寝たりしたな~」とかいう幸せ家族のエピソードを聞くと、すごくビックリしてしまうんです。「何? その家!」って。普通の基準が自分の家しかないので、「そっちの家の方が仲良すぎて、変!」と思っちゃったりとか……ヒドいですよね。

【後編】へつづく(9/16公開予定)

取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ)

[プロフィール]
きくち・まりこ マンガ家。1972年埼玉県生まれ。樹海や心霊スポットの探訪、昆虫食やホームレス体験、超激安海外旅行記など、可愛い絵柄とはギャップのある壮絶現場の突撃レポートを得意とする。主な作品に『あやしい取材に逝ってきました。』『あやしい男と失恋(ヤ)ってきました。』『キツい取材に逝ってきました。』など。『酔うと化け物になる父がつらい』は本名で執筆した初めての作品。