源泉数・湯量ともに日本一! 別府温泉の魅力とは【温泉ガイド・藤田氏インタビュー】

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更新日:2017/9/28

杉乃井ホテル大展望露天風呂「棚湯」

『別府フロマラソン』(澤西 祐典/書肆侃侃房・しょしかんかんぼう)

 まもなくすると木々も色づき始め、一年のうちで最も美しいとされる季節が始まりますね。そんな時季に訪れたくなるのが、全国各地の“温泉地”。

 本格的な秋の到来を目前に控え、日本屈指の源泉数・湯量ともに日本一を誇る温泉地・別府温泉を舞台とした小説『別府フロマラソン』(澤西 祐典/書肆侃侃房・しょしかんかんぼう)が発売された。

 本書は、別府市在住の小説家・別府大学講師として活躍する著者によって書かれ、別府八湯をはじめとした別府の温泉、名所などが多数登場する。読み終わった頃には別府へ行きたくなってしまうほど、別府の魅力を余すことなく伝えている。

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 主人公は別府大学の温泉研究会に所属する明礬湯太郎。温泉道を極めるため留年を続ける、十三先輩に誘われ、「別府フロマラソン」に出場する。各温泉郷にちりばめられた「当たり湯」を一日ですべて探し当て、一番にフロマラソンを湯破すると、願いが1つ叶うという。淡い想いを胸に、優勝を目指す湯太郎の行く手には、強力なライバルが…。市内の温泉を駆けずりまわる過酷なレースを、湯太郎は完湯することができるのか!?

 そこで、今回は本書から見えてくる別府温泉の魅力について、All About「温泉」ガイドの藤田聡さんに話を聞いた。

──はじめに、本書をお読みになったご感想を伺ってもよろしいですか?

藤田聡氏(以下、藤田) 実在するイベント “べっぷフロマラソン”にヒントを得た架空の物語は、ストーリー展開がまったく予想できず、ワクワクしました。

 実在する温泉や飲食店が多数登場し、“カオスな魅力”が前半から満載。マイナーな滝や廃業した施設までも登場し、「地元の方でも知らないのでは?」と思うほど。表紙カバー裏のカラー絵地図や最後の注釈集はガイド本としても機能するので、別府初心者は持ち歩くとよさそうですね。

──そもそもですが、別府温泉が“日本一の温泉”といわれる理由について、教えていただけますか。

藤田 源泉数、湧出量とも日本一で「泉都」と呼ばれ、別府八湯という8つの温泉地の集合体(温泉郷)であり、放射能泉以外のすべて(*)の泉質が揃っているのは奇跡的。その規模と泉質で日本を代表する温泉でありながら、人口12万人の都市でもある。さらに鶴見岳の山裾に位置し、大分を代表するフェリー港までもある。通り一遍では済まない多面的な魅力が、別府のユニークさです。

*単純温泉・二酸化炭素泉・炭酸水素塩泉・塩化物泉・含よう素泉・硫酸塩泉・含鉄泉・硫黄泉・酸性泉・放射能泉(環境省「療養泉の泉質分類」より)

──藤田さんは別府への老後移住を考え、本籍地を別府にしてしまったほど“別府好き”と伺っております。そこまで藤田さんを惹きつける別府の魅力とは、どんなところにありますか?

藤田 別府の面白さを一言でいうと、“カオスとノマド”に象徴されると思っています。

 大泉地でありながら、都会でもあり、港町でもあるように、“何でもある!“というのが魅力ですね。しかも、それぞれの良さが渾然一体となって一層面白さが増しています。端的に分かるのが、物語冒頭に登場する“路地裏”です。スナックや飲食店がずらり軒を連ねる通りから入った先に現れる、実在した温泉の場面は、まさに“カオス”。主人公が周囲の店の魅力に引き込まれないよう、注意する気持ちがよく分かります。このシーンは別府ファンであれば、誰もが納得できる“別府の象徴”といえるのではないでしょうか。

──“ノマド”というのは、藤田さんと同じように老後を別府で過ごしたいという方が多いということですか?

藤田 老後に限らず、東日本大震災を機に移住する人も増えています。短大や大学も多く、新入生が毎年全国から集まり、卒業後に残る学生も多い。さらに立命館アジア太平洋大学の開学で、海外からの留学生も多くなりました。

 それほど多くの人が集まるのは、温泉地でありながら都会的な要素を併せ持つから。そこから生まれる異文化交流も、別府発展の秘密といえるでしょう。

──本書では、公共浴場が多く登場します。宿で入る風呂にはない “公共浴場”の魅力について教えてください。

藤田 その土地を代表する源泉が利用されているので、“源泉ならでは”の泉質の醍醐味を味わうことができます。シンプルな施設が多いですが、お湯自体を楽しむには最高の環境。温泉ファンは歴史を感じる年季が入った施設を好みますが、市営温泉の中には、改築済みのキレイな施設も多いので、初心者にはこちらがおススメです。

──お湯を楽しむためのコツやポイントはありますか?

藤田 温泉は“五感で楽しむ”のがポイントです。泉質の質感を捉えるように、湯の色や香り、すべすべ感などの感触、飲める場合には味覚でも確かめます。水道水とは異なる、天然温泉の特徴を感じ取ることが、温泉を楽しむコツです。中でも香りは人間の本能や直感に直接作用するので、感動や感激を呼び起こすことが多いといえます。

──物語に登場する「鉄輪温泉」と「観海寺温泉 いちのいで会館」。本書で伝えられている以外の魅力があれば、ぜひ教えてください。

藤田 鉄輪は「貸間(かしま)」と呼ばれる素泊まり専門の湯治宿が多いのが特徴的。これは “部屋を貸す”と表現するほど、昔から移住したかのように長期滞在する湯治客が多かったことを証明しています。今も長期滞在客が多く、別府温泉を“ノマド”と連想する根拠にもなっています。

 「いちのいで会館」から湧き出る「青い湯」は日本でも極めて珍しく、別府から湯布院までの間に数えるほどしかありません。“インスタ映え間違いなし!”の温泉スポットではありますが、撮影できないのが残念。ぜひ記念撮影の時間帯を設けて欲しいと思う温泉です。

──他にも、今流行りの“インスタ映えスポット”がありましたら、教えてください。

藤田 おススメは宿泊者のみならず、日帰りでも無料で楽しむことができる、杉乃井ホテルのイルミネーションです。地熱発電を利用した環境にやさしいイルミネーションで、等身大の動物のイルミネーションや光のトンネルなど種類も豊富。カップルやファミリーにも人気の写真スポットです。

──最後にもう1つ質問させてください。大分県のPR動画「【おんせん県】「シンフロ」篇 フルバージョン」の再生数は150万回を優に超え、「100万再生で本当にやります!別府市・湯~園地計画!」は、わずか3日で再生数100万回を達成し、今年の夏 “湯~園地”が実現したことで話題となりました。藤田さんは、こうした取り組みが全国の温泉地にどう影響していくと思われますか?

藤田 別府温泉には他にも、温泉博覧会(オンパク)、高温の温泉を加水せずに冷却する「湯雨竹(ゆめたけ)」など、ユニークな取り組みが多数あります。しかも別府で独占することなく公開しており、オンパクは2015年には全国60箇所に広がり、各地の観光活性化に貢献しています。

 温泉好きとしては、湯雨竹の普及が嬉しい限り。源泉100%かけ流しが実現し、泉質が大幅に向上します。温泉の革新は、常に別府からはじまっているといえます!

取材・文=澤 ゆか