郡上八幡の美しい風景がきらめく青春恋愛小説 『……なんでそんな、ばかなこと聞くの?』 鈴木大輔インタビュー

小説・エッセイ

更新日:2017/11/1

『文句の付けようがないラブコメ』などのヒットシリーズで、関連書籍の累計発行部数300万部を超える人気ライトノベル作家・鈴木大輔さんが、初の一般文芸作として『……なんでそんな、ばかなこと聞くの?』を刊行。幻想的で死の影が色濃く漂う青春恋愛小説に込めた思いを聞いた。

第二の故郷・群上八幡を小説で描きたかった

ライトノベルで数々の人気ラブコメ作品を生み出してきた鈴木大輔さんの新刊『……なんでそんな、ばかなこと聞くの?』は、岐阜県に実在する郡上八幡(ぐじょうはちまん)という町を舞台にした青春恋愛小説。本作はライトノベルレーベルではなく、角川文庫から刊行されていることからもわかるようにジャンルとしては一般文芸作として書かれている。

「もともと、郡上八幡の町をフィーチャーした小説を書きたいという気持ちがずっとあったんです。郡上八幡には母の実家があるので子どもの頃からお盆の時期には毎年のように行っていて、僕にとっては第二の故郷のような町なんですよ。それで3年ぐらい前、編集の方と新しい作品について何かアイデアがないかという話になったとき、とにかく〝郡上愛〞を語りたい、と(笑)。これはそこからスタートした小説なんです。それで、やはり実在の町を舞台にするのなら、ライトノベルはちょっとイメージが違うと感じたんですね」

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郡上八幡といえば日本三大盆踊りにも数えられる〝郡上おどり〞で知られている。7月中旬から9月上旬にかけて、33夜にわたって踊られる郡上おどりは、本作でも物語の根幹を成す重要な要素のひとつとなっている。

「郡上おどりの期間、郡上八幡は特別な風情があって、一度見たら忘れられないような光景が広がっています。とくにクライマックスの徹夜おどりの4日間はその独特の雰囲気もあわせて、とにかく幻想的で何が起きてもおかしくない気にさせられます。このイメージを小説に活かしたいと考えたとき、リアリズムに徹するよりもファンタジックな要素が入ったほうが、より面白くなると感じたんです。郡上おどりのルーツには鎮魂の意味もありますし、お盆の期間に行われることもあって、生と死、その狭間というモチーフが自然に出てきました」

そんな超現実的で幻想的な要素とあわせて、友達との川遊びや踊りの練習といった郡上八幡における夏の日常が活き活きと、そしてどこかノスタルジックに描かれていることも印象深いポイントだ。

「作中に出てくるバンジージャンプのような吉田川の〝飛び込み〞も実際に子どもの頃にやっていた遊びなんですよ。うまく着水して浮かび上がりながら空を見上げたとき、水中できらきらと輝くたくさんの泡は忘れがたい光景です。祭りの気配に高揚して活気づく町の空気感、屋台で焼かれる鮎の香り、巨大なクーラーボックスでかち割り氷と一緒にキンキンに冷やされているラムネやビール。僕が郡上八幡で見てきた美しいものを一度書いておきたいという気持ちは大きかったですね」

そんな郡上八幡を愛する気持ちと少年と少女のひと夏の恋を描いた物語は、書き上げたときには500枚を超す長大なものになっていた。

「事前に細かいプロットを作らず、悲しい過去を秘めている少年と少女の恋物語という全体を通したイメージから、最後までいわば〝アドリブ〞で書いていきました。それが、いい意味でドライブ感につながっていると思います。書き上げてから、〝ここがクライマックスだ〞という一行を自分で見つけて、そこに焦点を合わせるために最後にシェイプアップして350枚程度にまとめました。企画段階から3年がかりで書いた小説ですが、タイトルが決まったのも本当に最後の最後です(笑)」

初めての一般文芸作として世に出る本作について、しっかりと手応えを感じているという。

「編集の方々にも完成まで長い間つき合っていただきましたが、それに見合うだけのものが書けたという自負があります。この作品で鈴木大輔という作家の〝引き出し〞に入っている、一番いい〝服〞を出せた。約13年というキャリアにおける最高傑作になったと思います」

[プロフィール]
すずき・だいすけ● 2004 年、第16 回ファンタジア長編小説大賞佳作を受賞した『ご
愁傷さま二ノ宮くん』でデビュー。代表作に『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係
ないよねっ』『文句の付けようがないラブコメ』など。

取材・文:橋富政彦 
写真:山口宏之