結婚したい40代と、ぼちぼち暮らしたい若者…「生涯未婚時代」を考える【インタビュー前編】

恋愛・結婚

公開日:2017/10/10

『生涯未婚時代』(永田夏来/イースト・プレス)

 独身女性たちの結婚をめぐる思いや葛藤をテーマにした『結婚しないかもしれない症候群』(主婦の友社)を谷村志穂さんが発表したのは、1990年のこと。好景気にわく当時の日本であっても、女たちの大きな関心事は結婚だった。

 そこから27年経った今は、生涯未婚時代がおとずれているという。

『生涯未婚時代』(イースト・プレス)著者で社会学者の永田夏来さんによると、2015年の生涯未婚率は男性で23.4%、女性で14.1%となっていて、2030年には男性の3人に1人、女性の4人に1人が未婚のまま生涯を終えるという予測もあるそうだ。

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 未婚でいることは、果たして既婚よりも寂しくてみじめなのか。永田さんにインタビューした。

結婚してない=ダメ人間はもはや時代錯誤

 タイトルの意味について永田さんに問うと、こう返ってきた。

「結婚していない=誰からも選ばれないダメ人間、という考え方はもはや時代に合わなくなっていると私は思っています。昭和の人生すごろくと呼ばれるような、結婚しないとあがれないという人生モデルはもはや崩壊しています。今は独身でも還暦を過ぎてから結婚するかもしれないし、3分の1の夫婦が離婚を経験するというデータもあります。結婚=安泰ではないし、未婚を決意しても何があるかわかりません。『生涯未婚時代』というタイトルは、『結婚をしていてもしていなくても、人生にはさまざまな選択肢がありますよ』という思いを込めてつけました」

 そうは言ってもお見合い番組や自治体による官製婚活イベントなど、結婚を後押しするツールはいまだに多い。「人は家庭を持って子育てをしてこそ一人前」のような考え方も根強く、自分を必要とする存在がいない“家族難民”は、アイデンティティが安定せず自暴自棄になりがち、という説もある。しかしパーソナリティを安定させる機能は家族でないと果たせないわけではないと、永田さんはバッサリ言う。

「お互いに不倫をしていたり、完全に破綻しているのに別れない『隠れ離婚』みたいな夫婦もいますよね。彼らは子どもやお金を理由に離婚しないことがありますが、それは言い訳。社会学では『動機の語彙』として分析できますが、本当は相手にもう興味がないのにそれを認めるのが嫌で、社会的に共有されやすい理由を後付けするのです。でもこんな状態で夫婦を続けていたら、アイデンティティが安定しませんよね。だったらパートナーにしがみつくより、地域や職場などのつながりに目を向けることを勧めたいです」

結婚したい40代と、ぼちぼち暮らしたい若者

 個人的な意見かもしれないが、周りを見渡してみると43歳になって婚活サイトに登録したり、妊活の末に45歳で初産を経験したり(いずれも実話)と、40代の結婚や出産願望は逆に高い気がする。

「もはやディズニープリンセスだって自力で幸せを掴む時代なのだから、目を覚まして! と言いたいです(苦笑)。でもアラフォー以上の世代の方は、昔の童話によくある『お姫様は王子様と結婚して、幸せに暮らしました』的な刷り込みが強く影響しているでしょう。あとは母親の呪縛もあるのではないでしょうか。昭和の母親は専業主婦も多く、子どもが結婚しないと子育てが終わった気がしないからか、当たり前のように子どものプライバシーに介入して結婚を勧めていました。思春期ぐらいまでなら『子どものすることは親の責任』もわかりますが、もういい加減にしておきましょうよと言いたいです。それに『結婚しなきゃ!』という意識で相手を探すのは、結婚と結婚するようなものだと私は思います。その呪いからぜひ、独身アラフォーは逃げてほしいですね」

 永田さんによると、生涯未婚時代を底上げするのは中高年だけではなく、「結婚を人生設計に組み込まない若者」の存在も大きいそうだ。若者が結婚に関心を示さないのは、それはよく言われる、「給料が低く、家族の面倒を見る自信がない」という経済的な問題からなのだろうか?

「親もとで暮らし、仲間に囲まれて暮らすうちに、『結婚したくないわけではないが、絶対とは思わない』と考えるようになった若者が地方にはいます。彼らは自信がないというより、自分と違う水準の生活をしている人と接点がないから、親もとで暮らすことにうしろめたさを持っていません。だから焦りもありません。

 また90年代の半ばぐらいから、性や恋愛に対する考え方が変わったこともあると思います。ゆとり世代以降の子たちは、いわゆるコギャル全盛期の後の世代です。コギャル世代より前の若者は、性や恋愛に興味があるけど、経験がない子たちが圧倒的でした。しかしそれより後は興味があって経験もある子と、興味も経験もない子に分かれます。全体として上の世代と比較すると、性や恋愛に期待や欲望が薄いのが特徴です。このような状況が、若者の非婚率増加とつながっていると思われます」

 生涯未婚時代は、もはや目の前にある現実のようだ。ならば未婚者は、この時代をどう生き延びていけばよいのか。続きは後編にて。

▲著者の永田夏来さん(撮影:charlie)

取材・文=今井 順梨