“文春砲”は昔からスゴかった! 連続幼女殺害事件、グリコ・森永事件…51の衝撃事件の目撃者が生々しい内幕を語る!【『週刊文春』元編集長インタビュー】

社会

2017/10/10

 20世紀に起こった、人々の記憶に残る事件を間近で目撃した関係者による手記やインタビューを一冊にまとめた『週刊文春 シリーズ昭和1狂乱篇 20世紀の51大事件 私は目撃した!』が刊行された。なぜ今「昭和」なのか? 『週刊文春』『月刊文藝春秋』の編集長を歴任した、本シリーズの発行人兼編集人である木俣正剛さんにお話を伺った。

■煮出した「特濃エッセンス」が詰まった一冊

 2016年の流行語大賞候補になった「ゲス不倫」などを放った『週刊文春』のスクープは、いつしか“文春砲”と呼ばれるようになった。その威力と勢いは『週刊文春』の新谷学編集長をして「親しき仲にもスキャンダル」と言わしめるなどとどまるところを知らない。しかし文春が放つ驚異のスクープは『週刊文春 シリーズ昭和1狂乱篇 20世紀の51大事件 私は目撃した!』を見ればわかるように、何も今に始まったことではないのだ。

 「『月刊文藝春秋』の戦後70年企画で『太平洋戦争の肉声』というムックシリーズを出したんですが、やはり文藝春秋ってさすがで、山本五十六のインタビューをやってるんですね。張作霖爆殺事件に関わったとされる河本大作の手記などもあります。そうした記事を再構成すると面白い、じゃあこれの事件版や週刊誌版をやってみよう、というのが『週刊文春 シリーズ昭和』を始めた理由のひとつです。平成のことも入っていますが、昭和の人が起こした事件である、というくくりです(笑)」

 本ムックはこれまでに『週刊文春』『月刊文藝春秋』に掲載された記事をテーマごとに一冊に編集。第1弾は日本中を震撼させた「連続幼女殺害事件」「グリコ・森永事件」「日本航空123便墜落事故」「リクルート事件」「オウム真理教事件」といった20世紀に起きた事件や事故、そして「長嶋監督解任」や尾崎豊、宇多田ヒカルといった芸能界やスポーツ界のスキャンダルなど、数十年にわたって集められたスクープがギッチリ収められている。

「煮出したエッセンスみたいなものなんで、すごく濃い味だと思います。ただオウムの事件などを始め、ここに載っていることは、弊社の新入社員も経験していないことになってしまいました。それで、あるとき平成生まれからこれらの事件を見ることは、若い頃の私が明治時代の人を見たような感じなんだと思ったんですね。もうすぐ平成も終わりですから、昭和はそういう見え方になるわけですし、私たちが感じることと新しい世代が見るものは違うのだろう、という思いもこのシリーズを出すきっかけでした。ですので当時を知っている人はもちろん、電子版もありますので、ぜひ若い方にも読んでいただきたいですね」

 記事は事件の関係者や、間近で目撃した人の証言で構成されている。そこで目撃者と同じく、多くの事件を編集部で目の当たりにしてきた木俣さんに、本誌で特に印象に残っている記事について聞いてみると「『不肖宮嶋、大倉乾吾 拘置所の麻原激写! 秘密兵器はベニヤ板』ですね」という答えが返ってきた。1996年4月、初公判を間近に控えたオウム真理教の麻原彰晃が東京拘置所内を歩く姿を、カモフラージュのためスプレーで塗装したベニヤ板の裏に隠れ、すき間の穴から2000ミリという超望遠レンズで宮嶋茂樹、大倉乾吾両カメラマンが撮影に成功した『週刊文春』のスクープ写真だ。

「ジャーナリストの江川紹子さんがフリーになって初めて仕事をしたのは私で、坂本弁護士が失踪したという極秘情報を江川さんから聞いて、そこからずっとオウム真理教の事件を追ってきました。江川さんと深夜『オウムはロシアで軍事訓練をやっているそうなので気をつけましょう』と電話で話していたら、朝方に電話がかかってきて『ガスを入れられた』ということもありました。私も色々と怖い目に遭いましたよ。当時住んでいたマンションは2階だったんですが、ベランダに人影があったり、家を建てたときに建設中の現場を見に行ったら、私のポケベルに『イエタツンダ ヨカッタネ』とメッセージが入ったこともありました。そんなこともあって、思い入れがあるんですよ。そして当時、この撮影で宮嶋と大倉が警察にパクられるかもしれないという話があったんです。話題になった分だけ、やっぱり警察は動くんですよね。それで色々と手を尽くして、様々な人の協力で事なきを得ました。ひとつの記事には、いろんな人や他業界の人も関わっているんですよ」

■“証言”がスクープ記事を出す踏ん切りになる

 これまで数々のスクープに関わってきた木俣さんだが、「スクープって、怖いんですよ」と語る。

「スクープというのは今まで世の中に出ていないことです。なのでまったくの間違いである可能性もあるし、誰かから激しく利用されている可能性もある、それを世の中に一番に出すということは、編集長もデスクも含めて怖いことなんです。でも編集長はデスクを信用して、デスクは書き手を信用する。で、書く人間は何を信用するか、それは“証言者”なんです。本当に信用だけなんですよ。なので私は情報を提供してくれる人を“ネタ元”と言いたくないんです。もっと“重い存在”なんですよ」

 ある大物政治家の不倫スキャンダルを追っているとき、ホテルに出入りした写真も撮り、車中での密会の写真も撮った。しかし「男女関係である」という決定的な証拠がまだ掴めずにいた。そこで証拠を確実なものにするため、何度も証言者に「なぜそこまでするのか?」と問い質したという。

「最近は写真や動画が重視されますが、証言の方が重要なんです。私らの時代は、証言が記事を出す踏ん切りでした。政治家の不倫スキャンダルのときは、証言者からの情報は確かに正しい、しかしなぜ男女関係だと思うのかと聞くと、鞄の中にあったコンドームが戻って来たらなくなっていた、と言う。この人はそこまでリスクを冒している、そして男女関係であることもわかった。そこでさらに『なぜそこまでするのか? あなたになんの得があるのか?』と聞くと、『私は彼は総理になる人間だと思っています。しかしこの程度のことで壊れてしまうなら、それだけの人だ』と言うんです。これで完全に証言者に乗っていい、と思ったんです。スクープ記事では、証言者にそこまで聞ける“関係”を作ることが大事なんですよ」

 記者は幅広い人脈を使ってネタを集めると思われがちだが、木俣さんは「私自身はそんなに友達たくさんいないんですよ」と笑う。

「本当に親しい人を何人か作っていくと、その人からだいたい人づてに集まってくる。お互いに『絶対にこの人は裏切らない』という関係の人を作ることが大事だと自分は思っていますね。だからネタ元と言いたくないんです。“共犯者”なんですよ。まあ犯罪ではなく、共同正義なんですけどね(笑)。この人はこういうことが許せないだろうな、こういうことがおかしいと思っているな、という延長上でしかネタって出てこないんです。それがどこまで許されるかということ、例えば不倫だったらどこまでなら大丈夫だと思っているのか、ということですね。価値観が一致するとまでは言いませんけど、この人の価値観はここだろうということを理解していないと、一緒に仕事はできないですね。だからそんなに何人も何人も寄ってきて、うまい話があるわけじゃないんですよ」

 日々の地道な努力と信頼関係、そしてコツコツと集められた事実の積み重ねから生まれるスクープの数々。今後は様々な角度から、事件や事故、スキャンダルなどのスクープ記事、また著名人の遺書、皇室の話題など、文春ならではの視点でまとめられた10冊を超えるシリーズになる予定だという。事件の裏も表も知り尽くしているOB記者と現役記者たち約300人による「オフレコメモ」なども掲載されるとのことなので、ぜひとも楽しみにしたい。

[プロフィール]
木俣正剛(キマタ・セイゴウ) 

1955年京都生まれ。78年文藝春秋入社。『文藝春秋デラックス』編集部、『週刊文春』編集部を経て、『週刊文春』『月刊文藝春秋』の編集長を務める。現在同社常務取締役。芥川龍之介賞、直木三十五賞の選考会の選考経緯にも関わる。

取材・文=成田全(ナリタタモツ)