「人に迷惑をかけちゃいけない」は呪いである!? 吉田尚記と尾原和啓が幸せをアップデートするべく語り合う!【後編】

社会

更新日:2017/10/26

 9月に、『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』を上梓したIT批評家の尾原和啓さん。そして同月、『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』(石川善樹氏との共著)を上梓したニッポン放送の大人気アナウンサー・吉田尚記さん。二人とも相手の本を読んで、「同じメッセージを持っている本だ」と驚いたそうです。若い世代に大人気の二人が考える、「これからの時代の幸せ」とは?

人間の価値は「偏愛」にあり?

吉田尚記(以下・吉田) 尾原さんの新刊『モチベーション革命』によると、これからの時代、もっとも人間の価値を左右するのは「偏愛」であると。

尾原和啓(以下・尾原) そう。非効率だし、他人から見たら意味のわからないようなこと、ただひたすら「それが好きでたまらない」ということが、これからの時代の産業になるし、人の価値にもなるんです。

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吉田 ここで多くの人を苦しめるのが、尾原さんが言うところの「人に迷惑をかけちゃいけないという呪い」でしょうね。

尾原 これは、まさに古い世代の価値観だよね。日本が戦後に急成長した理由は、みんなで一丸となって、とにかく合理的に大量のものを作り続けたからだった。そこで誰か一人が余計なことをすると全体の効率が落ちる、つまり、他人の勝手な行動が自分の損に直結する時代だったわけです。だから上の世代ほど、「人様に迷惑をかけるなんて非常識だ」と言うわけ。

吉田 それって本当に、今では無意味な常識だと思う。そういえば僕、人生をパックツアーだとすると、常識って「添乗員」にあたるとずっと思っていたんですよ。

尾原 添乗員?

吉田 パックツアーって団体行動じゃないですか。一人でちょっと危なそうなところに行こうとすると、添乗員さんが「危ないですよ!」って声をかけてくるし、「◯時◯分に戻ってこないとバスが行っちゃいますからね」って注意されたりする。

尾原 ああなるほど。そういうとき、参加者だと「添乗員さんに迷惑をかけちゃいけない」って思うよね。

吉田 でも実際は、「常識」そのものは非人格だから、人生でちょっとくらい冒険したって、「常識さん」に迷惑はかからない。それに「常識さん」が目指しているのはツアーのつつがない進行であって、あなたという個人の幸せじゃないんだから、行ったらいいんですよ。

尾原 ツアーバスの時間に間に合わなかったら、自分でチケットを買って、日本に帰ればいいだけだしね。別に怖いことじゃない。

吉田 そうそう。もし自分がパックツアーの一員だったとして、他の人が「俺は一人で帰るよ」と言い出したって、別に迷惑でもなんでもないでしょ。人に危害を加えるような極端なことでない限り、人生というパックツアーにおいて、添乗員さんに気兼ねする必要はありませんよね。

「自分は他ならぬ自分である」を証明するものは?

尾原 結局「好き」って何かっていうと、「自分はあの人ともこの人とも違う、他ならぬ自分である」ということを示すものだと思うんです。

吉田 「自分は他ならぬ自分である」。あっ、つまり「俺はこれが好きだ」というのは、これからの時代のIDみたいなものなんですね! おもしろい。

尾原 そうそう。IDって、他の人とかぶっちゃいけないじゃない。だから「お金大好き」っていうIDは成り立たないよね。

吉田 いくらでも他にいるから。

尾原 そう。でも、「10億以下はお金じゃない」っていうIDだったらたぶん成り立つ。なぜならそこに、その人がその人であるという固有性があるからです。だから若い人には、他人から見たら不可解としか思えないような「好き」こそを、自分の価値、才能として大切にしてほしいよね。

吉田 「好き」を見つけるのは実は簡単。 「違和感」に注目すればいいんです。他の人は気にならないけど、自分だけが気になって仕方ないことがあったら、それがその人だけの「好き」なんです。

尾原 そしてその「好き」の先にこそ、その人独自の幸せがある、幸せがハックできるってことですよ。

吉田 そうか、幸せはハックできるんだ。

尾原 それを伝えるために、僕は自分のこの本で、最初に「前の世代と今を生きている君たちの幸せの違いを、理解しておくだけでもう少し楽になれるよ」ということを解説してるんです。まず理解・安心してもらって、そこから改めて、各々の幸せについて考えを深められるような章立てにしました。

吉田 尾原さんの本は、今の時代にバッチリ照準が合ってるんですよね。だから、「どうして上の世代ってこうなんだろう」「どうして僕は今こうなんだろう」ってことに悩んでいる人は、読んだらすごく安心すると思う。

尾原 で、僕の本を読んで安心したあとに、より具体的なアクションを知りたくなったら、吉田さんと石川さんの新刊『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』を読むといいんじゃないかな。

吉田 そう思います。「仕組みはわかった。じゃあこれからどうしよう?」と考えたとき、石川さんの知恵はすごく役立ちますよ。科学という観点から、感情とは何か、勉強とは、結婚とは……と非常に細かく人生の要素を見ていったうえで、実際にどうアクションすればいいかをしっかり書いていますからね。

尾原 まず目次の細かさがすごいもんね! 電話帳みたい。これ、アクションのレシピだよ。幸せのクックパッドだね。15分でできる幸せ料理(笑)。

吉田 尾原さんの本で幸せの基礎思想を理解して、具体的な行動に移すときに、「どう幸」を参考にしてもらえたら、うれしいです!

★前編はこちら★

●尾原和啓(おばら・かずひろ)

シンクル事業長、執筆・IT批評家、Professional Connector、経産省 対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー
京都大学院で人口知能論を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなど事業立上げ・投資を歴任。現在12職目 、バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。ボランティアでTED日本オーディション、Burning Man Japanに従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書「ザ・プラットフォーム」(NHK出版新書)はKindle、有名書店一位のベストセラー。前著「ITビジネスの原理」(NHK出版)も Kindle 年間ランキングで2014年、15年連続Top10のロングセラー(14年7位、15年8位)。韓国語、中国語版にも翻訳されている。

◎ツイッター @kazobara https://twitter.com/kazobara

吉田尚記(よしだ・ひさのり)

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。2012年に第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞。「マンガ大賞」発起人。ラジオ『ミュ~コミ+プラス』(ニッポン放送)、『エージェントHaZAP』(BSフジ)などのパーソナリティを務める。マンガ、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、2017年には自ら新型ラジオ『Hint』のクラウドファンディングを3000万円以上集めて成功させた。著書に『ツイッターってラジオだ!』(講談社)、『アドラー式「しない」子育て』(白泉社/向後千春との共著)、13万部を突破した『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)など。

◎ツイッター @yoshidahisanori https://twitter.com/yoshidahisanori

取材・文=小池未樹
写真=山本哲也