「幸福」を運んだ、ふたつの大きな出会いとは――早見沙織インタビュー

エンタメ

2017/11/8

『劇場版 はいからさんが通る 前編 〜紅緒、花の17歳〜』11月11日公開、ワーナー・ブラザース映画配給 (C)大和和紀・講談社/劇場版「はいからさんが通る」製作委員会

 長年にわたり多くの読者に愛読されてきた漫画『はいからさんが通る』の主人公・花村紅緒として、前向きに力強く大正の世を生き抜く姿を演じきること。竹内まりやが作詞・作曲を手掛けた主題歌を担当するアーティストとして、自らの歌声で『はいからさん』の作品世界を表現すること。11月11日に公開される『劇場版 はいからさんが通る 前編 〜紅緒、花の17歳〜』で、声優・早見沙織が担った役割はとてつもなく大きい。しかし、だからこそ、『劇場版はいからさんが通る』は、彼女が持つ表現者としての可能性の奥深さを知らしめる作品となった。くるくる表情を変える元気いっぱいな愛らしさをもって魅力的な紅緒像を体現し、劇場版の主題歌“夢の果てまで”(11月8日リリース)は、作品のエンディングを彩る楽曲としてもポップミュージックとしても、素晴らしい1曲に仕上がった。日々過ごす日常の「断片」から表現の端緒を探り当てていく早見が、『はいからさん』を通して得たものとは何か――演技者として、歌い手として、進化を続ける「表現者・早見沙織」の今に迫った。

アフレコ中に考えていたのは、「キャラクターとしての境目をゼロにする」ということ

――『劇場版 はいからさんが通る』の紅緒は、とても愛嬌があるキュートなキャラクターになってますね。そういう人物にしていくために、何をフックにして演じましたか?

早見:今回の作品の一番のカギは、やっぱり原作だと思います。アフレコのときも、皆さん原作を横に置いていて、自分の出番がないところや休憩時間に、ずっと原作を読んでたんですね。わたし自身は、原作を読んで何かに活かすために読むのではなくて、ただ面白いから読む、みたいな(笑)。面白く読んでいるときに、自分自身がもらう気持ちってあるじゃないですか、ワクワクしたり、ちょっとおちゃめな要素に笑ったり、少尉と紅緒のシーンを読んで夢が広がったり。その気持ちのままマイク前に立って掛け合うと、ほんとに原作の空気が乗るというか。その中で、紅緒が持つコロコロ変わるキュート感も、原作にあるものがそのまま映像に映し出されていったので、そこはけっこう大きいと思います。

――原作を読んで早見さん自身がもらったのは、どんな気持ちだったんでしょう。

早見:ひとつアフレコ中に考えていたのは、「キャラクターとしての境目をゼロにする」ということで。「このキャラクターはこういうことしないよな」っていうことが、たまにあったりするじゃないですか。たとえば、すっごい無口なキャラが突然大笑いしたり、突然叫んだり、突然しゃべり出したりすることって、相当意味がないと行われないことですよね。無口なキャラクターの表現をするときに、突然自分がそうしてしまったら、「ちょっとこのキャラクターと違うかも」っていう感じが必然的に生まれたりすると思うんですけど、紅緒にはそれがないんです。どんなに笑ったり、突然泣いたり、その後で芯の強いところを見せ始めても、なんら違和感がないというか。キャラクターとしての垣根がないんですね。なので、自分がマイクの前に立つときは、振り切るというか、あまり抑えずに、やりたいところは思う存分やらせていただきました。原作を読んでいても、1ページ前ではしょげてたのに、5コマ後くらいで笑ってたりしてるんですよ(笑)。表情が自然にコロコロ変わるし、原作にもそう描かれてるんですよね。大和和紀先生や編集の方々も、「コミカルなところや夢見心地なところの、相反する部分というか、ふたつある魅力がキモなんですよ」っていうお話をされていて。メリハリがあるので、その部分を上手に引き出したかったところはあるかもしれないです。

――おそらく、紅緒は今まで演じてきたどんな人物とも違うと思うんですけど、そのことは「声優・早見沙織」にとっては障害にならないだろうと思うんですよ。というのは、早見さんは常に自分の中にある何かを役に投影しているし、「完全に成り切ります」っていうお芝居をする人ではないわけで。

早見:そうですね。そういう意味では、難しい役柄ではなかったと思います。もちろん技術的には難しい部分もあって、たとえばオペラを鑑賞しながらず~っと脳内でモノローグを言うシーンがあるんですけど、その1分くらいの間に5~6回表情が変わっていくんです。そういうところは、自分の気持ちが切り替わるテンポと、絵柄が切り替わるテンポをシンクロさせていかなければいけなくて、それが速いから大変だったところはありましたけど、紅緒はモノローグで気持ちを全部言ってくれてるので、わかりやすかったですね。「どんな気持ちしてるの?」って思うことはなかったし、そこが紅緒が愛されるキャラクターになる理由だと思います。

――すごく明るく描かれてはいるけど、紅緒が映画の中で生きているのは、けっこうヘヴィな境遇だったりするじゃないですか。それを前向きに乗り越えていくことが紅緒のいいところであり、『はいからさん』っていう作品のいいところだと思うんですよ。紅緒を観ていると、折れない強さだったり、内側から湧き上がる明るさみたいなものを感じるというか。

早見:うん、それはありますね。

――今回の劇場版の紅緒は、まさにそういう人でした、と。で、折れない強さと湧き上がる明るさを持ち合わせた人が演じなければ、紅緒はこの造型にはならなかったんじゃないか、と思うんです。

早見:わたしも、そうだといいなあって思います(笑)。いい意味で、すごく引っ張られたというか。ここまでどんどん進んでいける人って現代にも稀だと思うし、すごくいい影響をもらえました。「やってる間は無敵」、みたいな(笑)。

――(笑)折れない強さと湧き上がる明るさが、早見さんの奥底にもあるんですよね。早見沙織イコール紅緒、ということではないけど、こういう部分は必ずあると思う。結果、それが表に出たなっていう感覚は、早見さん自身も感じてるんじゃないですか。

早見:そうかも。言われてみると、ハッとしますね。少し話がズレるんですけど、ある役柄を担当するときに、寄せてもらったり引っ張ってもらったりしながら、自分の中にある何かを引き出していくじゃないですか。そうすると、いろんな現場で「このキャラクターっぽいですよね」って言われたりして、『はいからさん』であれば「紅緒っぽいですよね」って言ってもらったりするんですけど、紅緒をやっているときは「うん、確かにわたし、紅緒っぽいところあるな」と思うんです。宮野さん(少尉役の宮野真守)にも「紅緒っぽいところあるよね?」みたいな話をされて、「確かに、いざとなれば木でも上りますね」って言ったりして、そのときは「そう思う」と思い、一方で、たとえば『覆面系ノイズ』で(原作の)福山リョウコ先生に「早見さん、ニノっぽいところある」って言われると、わたしも「確かに。こういう衝動的な部分もあるなあ」って思ったりしていて。でも、歴代の「〇〇っぽいよね」を並べていくと、「お前誰やねん?」みたいな(笑)、そんな結果にもしやなるんじゃなかろうか、というところがあって。でも、それって面白いなあ、とわたし自身は思っているんです。いろんな役柄と出会うことで、自分のいろんな面を引き出してもらい、目に見える形にしてもらってる、という感じはしますね。

――「〇〇っぽいですね」って言われることがある、という話はよく聞くんですけど、あらゆる役でそう言われる人って、そんなにいないと思うんですよ。結局、人間が奥底に持ってる感情が人によってそんなに変わるものではないとしたら、それがちゃんと表現として出せるかどうか、なんですよね。早見さんは、どんな役が来てもそれを出せる人なんだなっていうことを、今の話を聞いて感じました。

早見:いやいや(笑)。でも、そう思ってもらえるとすごく嬉しいですね。やっぱり、やるときは自分とはかけ離れたものとしてはやらないし、わかるからこそやる部分もあるし。だから、そう言っていただけることはすごく嬉しいことではあります。

――今回の『はいからさん』が幸せなのは、役者さんが皆さんそういうアプローチをされる方々である、というところですよね。たとえば冬星なんて、すごく櫻井孝宏さんっぽい感じがしますし。

早見:そうそう、皆さんそうですね。鬼島も、「中井(和哉)さんだ~」って感じですよね(笑)。宮野さんも、「王子様ですよ」っていう見せ方はしてないんですけど、滲み出るものがあるし、華がある。ほんとに、華やかな方なんですよ。そこにいるだけで存在感があるというか、みんながついていきたくなるようなところがあって、そこは「少尉と似てるなあ」って思います。

――前編が公開されて、劇場版としては折り返しになりますよね。紅緒を演じることはとても楽しいのだろうな、と思うんですけど、後編にはどのような心持ちで臨みたいと考えていますか。

早見:初めて原作のラストまで映像で描かれるのは、やっぱり『はいからさんが通る』を応援してくださってる方々にもご期待いただきたいところですし、わたし自身も楽しみな部分のひとつですね。前編と後編で、時代もどんどん変わっていくので、シリアスさの度合いだったり、描かれ方も変わるんじゃないかなあ、と思っていて。その変化も楽しんでいただきたいです。この間、大和先生が「後編になっても、紅緒の明るさと真っ直ぐさを失わずに楽しくお芝居してください」というお手紙をくださったんですけど、そのお言葉を心に留めつつ、自分の中で軸を持ってやっていけたらいいな、と思います。

(音楽的には)今は3、4歳児くらいの感覚です(笑)

――劇場版の主題歌である“夢の果てまで”、初めて聴いたときからものすごい名曲だなあ、と思ってまして。5月のコンベンションで披露していたので、歌を録ったのはけっこう前だと思うんですけど、曲を受け取った当時の印象と、映画が公開される直前の今感じている印象を訊きたいです。

早見:初めて聴いたときは、メロディラインがすごく耳に残るし、1、2回聴いたらだいたい全部覚えられちゃう、みたいなところがあって、まずは曲が持つパワーに驚きました。(竹内)まりやさんの手書きの歌詞も一緒に入ってたんですけど、ものすごく達筆だったんですよ。

――大和先生のお手紙にしてもそうだけど、熱いことがいっぱい起きてますね(笑)。

早見:そうなんです(笑)。歌詞を見ながら聴かせていただいたときに、アフレコをする前だったんですけど、『はいからさんが通る』の世界が想像できたし、紅緒の姿も想像できる楽曲だったので、「これはすごい楽曲をいただいてしまった」と思いました。本番のレコーディングにはまりやさんもいらしてくださったんですけど、「こういうふうに歌ってみるといいよ」と言っていただいた通りにすると、ほんとに変わっていくんですよね。変化が目に見えるようにわかったし、どんどん曲が輝いていって。メリハリがついて歯切れもよくなっていったんですけど、それも楽曲自体がもともと持っているよさだったりするので、レコーディングをしながら「面白いなあ」って感じてました。で、作品が完成して、試写でエンディングとして流れているのを観たときに、力強くてエネルギッシュな感じが映画にすごくマッチしていて、前に前に行く感じが、エンディングの曲としてすごくいいなあって思いました。

――曲にしても歌詞にしても、早見さんの中ですごくフィットするものがあったんじゃないかなあ、と想像してたんですけども。

早見:そうですね。すごく普遍性があるというか、『はいからさんが通る』を通して聴いてもフィットするし、いろんな方の人生にもフィットする歌詞だなあ、という気がします。

――早見さんが作詞作曲を担当したM-2の“SIDE SEAT TRAVEL”も素晴らしいですね。すごく洗練されている感じもあるんだけど、それだけじゃないところがとてもいいなあ、と思って。特に、《目的地まで よそ見するな》っていう歌詞が印象的でした。

早見:そんな、そこに着目されるとは思ってなかった(笑)。

――(笑)『はいからさん』の紅緒を、明るく力強く生きる人として演じていたわけじゃないですか。その後で“SIDE SEAT TRAVEL”の歌詞を読むと、「やっぱりこの人には力強い一面があるんだなあ」と思うんですよね。早見さんの音楽って、曲調や歌い方はふんわり優しく届く表現が多いけど、言ってることは力強かったりするし。そういう部分があるからこそ、歌詞で力強い言葉を選ぶことになった、というか。

早見:そうなんですよね。この歌詞に関して言うと、相まってるところが面白いかなあ、とわたし自身は思っていて。ほんとにおっしゃるとおりで、エッジが強めのところもありつつ、曲調的にはわりとフワッて進んでいくから――なんだろう、スルスル動く歩道、的な(笑)。今挙げていただいた部分の歌詞は動く歩道を降りるところで、「おっ? おっ?」みたいな(笑)、重力がちょっとグンとくる感じというか。それを意識していたわけではなくて、結果そうなった、という感じはありますね。

――そう。だから奥底から出てくる「力強み」が、ここにはあるわけです(笑)。

早見:(笑)力強み、あるかもしれないですね。でもそれも、ひとりで完結する話ではなくて、やっぱりともに旅したりともに歩いたりする人がいるからこそ出るものだと思います。それこそ、まりやさんのように媒介してくださる方がいてくれるから、そう思えるというか。そういう出会いがたくさんあることに、ほんとに感謝しています。

――1stアルバムの『Live Love Laugh』を出してから、1年半近く経つじゃないですか。“SIDE SEAT TRAVEL”を聴くと、「これは、やりたいことがふつふつと溜まってきてるんじゃないかな」って感じるんですよ。それこそ、早見さんは日常の断片を表現のヒントにしているわけだし。

早見:確かに。今は、3歳、4歳児くらいの感覚です(笑)。思ったことや、音楽でやりたいことを言葉にしてきれいに伝えたかったりはするけど、自分の中ではまだまだで。でも、3歳、4歳くらいの子って、きっと何かを伝えたくても伝えきれないところがあって、もどかしかったりすると思うんです。いろんなことを吸収しよう、いち早く手に取ろうって思う感じ、ですね。まだまだもどかしさも募るけど、「これをもっとこうしたら~」みたいなことは、日に日に考えたりします。今までにやってきたことがあるからわかることもあるし、出会いがあったからこそ気づくこともあるし、上手く形にしてくださった方たちがいるからこそ気づけた部分は、たくさんありますね。

――確かに“SIDE SEAT TRAVEL”は、今までやってきたことが何もリセットされずちゃんと積み上がっていってるんだな、ということを感じさせてくれる曲ですね。

早見:よかったです。この曲、めっちゃ手探りで作ってたんですよ。歌と歌詞と伴奏をすべて一緒に考えていて、ずーっと試行錯誤してたから、できたときは「で~きた~。嬉し~ぃ」みたいな感じでした(笑)。自分でピアノの伴奏をつけてたんですけど――編曲していただくので実際には曲には使われない伴奏も、「前よりもいい伴奏にしたい!」みたいな、謎の気持ちもあり(笑)。そういう部分でも試行錯誤してた曲だったけど、最終的には面白い感じになったなって思います。

――実際、これも表題曲にしたいくらいの完成度だと思いますよ。

早見:ありがとうございます、聴いていただけたら嬉しいですね。ほんとにありがたいというか、まりやさんの曲と同じ盤に入れるっていうことが奇跡だし、すごく幸せです。「こんな人生になるなんて。人生ってわからないなあ」みたいな感じです(笑)。

取材・文=清水大輔