マウンティングとも違う…加藤ミリヤの“ガールズトーク小説”『28』は、5人の女性たちがそれぞれの人生と闘いながら、ともに歩む姿を描く!〈前編〉

文芸・カルチャー

2017/11/25

 「結婚結婚ってうるさいなぁ」と挑発的な帯文句が躍る小説『28 twenty eight』(ポプラ社)。著者はシンガー・ソングライターの加藤ミリヤさん。『an・an』で連載されていた人気作品が書籍化されたもので、28歳の女性5人それぞれの生き様を描きだす。加藤さんにとっては5冊目の小説となる本作。同世代に圧倒的共感と人気を誇ってきた彼女が今、シンガー・ソングライターとしてだけでなく、小説家として描きたいものは何か。お話をうかがった。

『28 twenty eight』(ポプラ社)

――本作の主人公は5人。高校の同級生でありながら、生き方も性格もまったく違う28歳の女性たちが、女子会を通じてそれぞれの人生に向き合っていきます。

加藤ミリヤ(以下、加藤) この小説を書きはじめる少し前に、高校1年のときに仲良くしていた友人たちと久しぶりに集まったんです。ふだん、同窓会やそういう集まりに、あまり呼ばれるタイプじゃないんですが、行ってみたらすごく楽しかった。小説の冒頭でみんなが集まっていた奥渋谷のお店は、実際そのときに行った場所がモデルです。十何年ぶりに集まったメンバーでゆっくり話すのが、なんだかとても心地がよかったんですよね。それに、28歳って分岐点なんだなっていうのを、みんなの話を聞いていて強く感じた。結婚・出産が増えていたり、仕事でもキャリアアップしはじめる時期だったり。それぞれいろんな迷いや悩みがあるなかで生きてる、っていうのを、そのときのガールズトークの雰囲気で書けたらいいなって思ったんです。そういうもので、同世代の女の子たちをチアアップできたらいいなって。

――5人の女性のキャラクターもいいですよね。個性が強いというよりは、読者が誰かに感情移入できる絶妙な配置。だからといって決して、典型的な造形というわけではなく、全員が自分の友達でもおかしくないようなリアリティに溢れています。

加藤 最初に思いついたのは、愛ちゃん。仕事を頑張っていて、だんだん新人とは言われなくなって責任ある仕事を任されるようになってきた。強い女の子だけど、日々、葛藤もあるっていう。彼女は母親が嫌いで、そのせいで結婚という制度そのものに疑問を抱いているんですけど、私自身、「結婚ってなんだろう?」って思っていた時期はあって。28歳ってちょうど、年齢で“切られる”ことを感じる時期じゃないですか。

――愛のセリフにもありますね。「彼氏と結婚しないの?」と言われて、「その質問マジ嫌い」「そんなに28歳って結婚のこと考えなきゃいけない歳なのかな」と。

加藤 そう。今は私も、まあ結婚してもいいのかなって思えるようにはなったけど、結婚がすべてじゃないよねって言える子が一人いてほしかった。だってほんと、そんなの人それぞれじゃないですか。あとは私の周りでも、28歳になっても母親との関係に悩んでいる子たちがたくさんいるので、現代の大きな問題なんじゃないかと思って書きました。母親がいつまでたっても強くて、小さな子供のように扱われ続ける苦しさみたいなものは、意外とみんな抱えているんじゃないかなあ、と。

――対して、専業主婦の女性も2人、登場しますね。インスタに毎日ごはんをアップしてファンも多いセレブ主婦の夢は、ある意味で愛と対極です。

加藤 夢については、流れに身を任せてふわふわきちゃったな、という子を書きたくて。人から見たら、いい人見つけて結婚して羨ましいし、人生うまくいっててずるいと思われがちな子。でもそういう人でも、蓋を開けてみたら夫婦関係で苦しんでいることもあるし、夢のようにセックスレスや不妊で悩んでいる人たちも多い。一見幸せそうでも、本当のところはわからないですよね。夢はジムの受付をしていたところを旦那さんに見初められましたけど、私も毎朝、ジムでそういう女の子たちに笑顔で挨拶されるたびに元気が出るんですよ。ああいう子たちはどんな人と付き合ってどんな人生を送るのかな、なんて考えていたのもあって、今回、そういう設定にしました。

――もう一人の主婦、円は夢ほどセレブではなく、一人目を出産したあとのセックスレスと、キャリアを諦めて家庭に入ったことへの後悔に悩んでいます。

加藤 友達と十数年ぶりに集まったとき、バリバリ働いていくだろうと思っていた子が、辞めて専業主婦をしていたんです。旦那さんがそうしてほしいと言ったし自分もそうしたいと思ったから、って。仕事を辞めて家庭を選ぶというリアリティに、改めて驚いたんですよね。ちょっとした後悔はあるけど子供の顔見たら幸せだ、っていう彼女の、なんていうか肚をくくった決断みたいなものを感じて。私もいずれ選ぶかもしれない選択肢の一つだなと思ったら、そういう女性も一人、書いてみたいと思いました。

――高校時代から人気者の渚は同性愛者ですね。彼女の描かれ方がとてもフラットだったのが読んでいて心地よかったです。同性愛者であることに、いい意味で、特別なメッセージ性がなくて。

加藤 いわゆるマイノリティと呼ばれる存在ですけど、でも、もはやマイノリティではないんじゃないかなと思うんですよね。定義が難しいところではあるんですけど、同性を好きになる人ってわりと、普通にいるじゃないですか。少なくとも私は、自然のことだなあと思うし。私みたいな職業だって、捉えようによってはマイノリティだなと思うし。だから渚のことは、あんまり特別な存在としてではなく描きたかった。彼女はただ、いると周囲を明るくして場をなごませる人。だから5人の中心にいる。そんな関係にしたかったんです。

――最後はさくらですが、仕事もプライベートもふらふらしがちな彼女の自信のなさは、いちばん読者に共感を得られやすいかもしれないと思いました。

加藤 働いてはいるけど、誇れるキャリアはない。決まった彼氏はいなくて、セフレだけ。いい年していい加減にしなよ、みたいなそういう子を書きたかった(笑)。彼女だけ何も手に入れられていないように見えるけど、でも愛くるしさがあるし、日々の中でおいしいものを食べるとか友達と会うとか、自分の幸せはちゃんと持っている。それなのに、あえて自分を低い位置にもっていくから、傷ついて自己評価をみずから下げていく。そういう子もわりと、いるじゃないですか。

――そんな彼女のぽっかり空いた穴を、4人全員で埋めていく、というラストのくだりはとても胸に沁みました。

加藤 女子会っていうとマウンティングしあっているイメージが強いし、私も最初はもっとそういうドロドロした感じを書こうと思っていたんですよ。そのほうが面白いかなって。でも書いているうちに、マウンティングじゃない描き方をしたいと、思いはじめて。25歳くらいまでは誰しも、他人と比べて自分を評価したり、誰かを基準に人生を考えたりする瞬間ってあると思うんですよ。でも28歳は、そういうピークには既に達してはじけちゃっている。バチバチ火花を散らしあうよりも、それぞれの戦いを受け入れながらみんなで道を歩んでいる、という感覚にいつのまにかなっていた。この道を進んでいけば、きっと30代はもっと楽しいだろうなという予感もある。5人にも、そういう関係性でいてほしかったんです。

【後編】「28歳から、女性が活躍できる時代が始まる」 加藤ミリヤが小説『28』に込めた思いとは?

取材・文=立花もも 写真=山本哲也