史上初の夫婦対談!小山宙哉さん&こやまこいこさんインタビュー【前編】

アニメ・マンガ

2017/11/29

 累計発行部数1900万部の大ヒット漫画『宇宙兄弟』。その原作者、小山宙哉さん一家のほのぼのとした日常を描いた漫画がSNSで人気を呼んでいます。描いているのはイラストレーターとして活動している奥様のこやまこいこさん。11月17日には、ご自身の体験も加えながら、山椒ファミリーの毎日を描いた初のコミックエッセイ『スキップするように生きていきたい』(KADOKAWA)が発売されました。

 今回、コミック発売を記念して小山夫妻による史上初の対談インタビューが実現。前編では、こいこさんが漫画家デビューすることになったきっかけから、お互いの作品への感想や影響などについて、たっぷりと語っていただきました。

小山宙哉 漫画家。京都府出身。2006年にデビュー。『ハルジャン』『ジジジイ-GGG-』を経て、2007年より『宇宙兄弟』を週刊モーニングで連載開始。『宇宙兄弟』は2012年に実写映画化、2012~2014年にアニメ化を実現したほか、第56回小学館漫画賞一般向け部門、第35回講談社漫画賞一般部門を受賞。

こやまこいこ 漫画家・イラストレーター。京都府出身。代表作に絵本『はーはのはみがき』(教育画劇)、挿絵『ルルと魔法の帽子』(徳間書店)など。レタスクラブと雑貨サイト「scope」でコミックエッセイ『スキップするように生きていきたい』を連載中。さらに、TwitterやInstagramではクスッと笑えるイラスト・漫画を毎日更新中。

旦那の実録エッセイがきっかけで漫画家デビュー

――本日はどうぞよろしくお願いします。今回、11月17日に初のコミック単行本『スキップするように生きていきたい』を発売されましたが、執筆されたきっかけは?

こやまこいこ(以下、こいこ) 元々は2016年に『宇宙兄弟』のムック本(『宇宙兄弟&小山宙哉 大解剖』/三栄書房)で、『自宅の宙哉』という描き下ろし漫画を描かせていただいたのがきっかけです。佐渡島庸平さん(『宇宙兄弟』の初代編集担当。現在は株式会社コルク代表取締役)からお誘いいただいて実際に描いてみたところ、「KADOKAWAに松田(紀子)さんというコミックエッセイですごい人がいるから、見ていただいてもいいですか?」とご紹介いただいたんです。

――宙哉さんは、こいこさんの漫画連載のお話を聞いていかがでしたか?

小山宙哉(以下、宙哉) うーん、そうですね。最初に読んだ漫画ってこれ(自宅の宙哉)だったっけ。

こいこ 最初は保育雑誌で描いていたこどもの小さな漫画だったかな。それを見て「なんか描いてみたら?」って言われて。「なんかって何?」みたいな(笑)。

宙哉 そうそう。実際に描いたものを見たら意外と描けてるっていうか、漫画家の目から見ても上手いこと描いてるなって感じました。それまで彼女はイラストレーターとして活動していたので、なかなか最初は漫画のコマ割りとか行間とかが難しいんですけど、結構できていたのでビックリした記憶があります。

――そこから実際に連載をスタートすることになったんですね。

こいこ はい。ずっと夫の大変な様子を見てきたので、ストーリー漫画は私には無理だと思ってました。生活すべてを注がないと絶対に描けないって。ただ、自分が経験している毎日のことを少しずつ描くんだったらできるかもって。だから松田さんにラフやアイデアを色々と見ていただきながら、主婦っていう自分に近いイメージのぴりこが生まれて、ちょっとずつ形にしていったんです。

松田紀子(以下、松田) 補足すると、私は昨年の春ごろに佐渡島さんからこいこさんをご紹介いただきました。とても絵がかわいらしくて、独特の視点をお持ちなことがよくわかったので、実際にお会いしてホームドラマみたいなものをやってみましょうか、とお話して。その頃、私はコミックエッセイ以外にレタスクラブの編集長になることが決まっていたので、じゃあターゲット的に相性が良いレタスクラブで連載を念頭に準備しましょうということで、同誌の9月号から連載をスタートしたんです。

――それまではイラストなどを描かれていて、いざ漫画を描き始めたときに戸惑いはありましたか?

こいこ 考え方が全然違いましたね。イラストや挿絵は依頼して下さる方のイメージがまずあって、それをカタチにしていく面白さがあるんですけど、漫画は逆に自分が一番見せたい部分をコマで大きくしたり、セリフひとつで全然違うようになったりと考えるのがすごく面白くて。

――ご自身に求められる裁量がとても大きいんですね。

こいこ はい。そこがすごく自由だなあって思いました。これまでも夫の大変さは分かってるつもりでしたけど、今なら前よりもう少しは分かった気がします。まあ、ときどき文句は言っちゃいますけど(笑)。

――こいこさんのTwitterでは、ご家族での普段のやり取りが描かれていますね。よく旦那様がソファで倒れている姿をお見かけしていたので、大分お疲れなのかなって思って見ていました。

宙哉 たしかにその状態が多いですね。連載誌が週刊なので原稿やネームは深夜とか朝までかかることが多いです。原稿に一週間くらいかかっちゃうこともありますし。自宅と作業場が近いので夕食はいつも帰って食べますが、また仕事に戻ってみたいな……。だから家だと大体こんな感じでぐたーってしてます(笑)。

こやまこいこtwitterより

ぴりこの生活をのぞいてフフッと笑ってほしい

――こいこさんは連載される上で、大切にしている部分はありますか?

こいこ 色々あるんですけど、セリフが説明っぽくならないようにするとか、テンポの良さだったりとか。ただ、松田さんが指摘してくださって、そこを直すと一気に良くなったこともたくさんあります。

――ところで、ぴりこの旦那様のしびれさんのモチーフは宙哉さん?

こいこ いえ、モデルは雑貨サイト「scope(スコープ)」を運営している社長の平井千里馬さんです。すごく道具を大切にされている方で、見た目はけっこう似てるかなって思います。おおらかな感じとか。

――宙哉さんから何かアドバイスされるケースはありますか?

宙哉 おばあちゃんをちゃんと描いた方が良いって言ったことがあるよね。第3話の『おばあちゃんの思い出』とか。

こいこ 作品では、いつもおばあちゃんのナレーションで進んでいくんですけど、そのセリフが誰の言葉なのか分からないってアドバイスをもらいました。それからはなるべくおばあちゃんの視点を意識するようにしました。

宙哉 第三者が何も情報がないところで読んで、ちゃんと伝えたい意味が分かるかどうかは、ネームを読むときの重要なポイントなんです。描いてる本人は分かってるつもりでも、気付かれないことが多いので。僕も日頃から気を付けてるけど、疲れているときは計算できなくなるんです。

――先ほど、主人公のぴりこはご自身に寄せているとおっしゃいましたが、エピソードには実体験も入っているのでしょうか?

こいこ 最初のほうで描いた納豆をあんまり混ぜないとか、エコバッグをすぐ忘れちゃうとか、そういったことは入れています。

宙哉 ちょっとしたところだよね。実際に体験したことをアレンジして描いてるって感じだと思う。

こいこ そうですね、私の生活が丸々入っている感じではないです。ぴりこという人の生活をのぞいてフフッて笑ってもらえたらいいなと思いながら描きました。

『宇宙兄弟』の子供エピソードはだいたい実体験

――逆に『宇宙兄弟』でご家族とのエピソードが盛り込まれているケースは?

宙哉 ちょいちょいありますね。特にこどもが出てくるエピソードは大体入ってます。例えば真壁ケンジの娘の風佳のしぐさで「カペ」っていう挨拶とか、指で2歳ってやるときの手のカタチとか。あと、奥さんの出産エピソードで、ケンジがおでこの皺をこするシーンも実体験です。そういう細かいところとかは、何も知らずに想像だけでは描けないところなので、そういう実経験に基づいて描けるとリアリティが出るんです。

――ご自身が体験されて新鮮に感じられたシーンでもあったんですね。

宙哉 そうですね。2歳の手のカタチなんて、ピースはできないのに逆にこんな複雑なカタチはできるんやって普通に面白くて。関西人的にその方が難しいやろってツッコむこともできますから。

――こいこさんからご覧になって、宙哉さんの作品から影響を受けるところは?

こいこ 妥協をしないところです。周囲が「これでいいんじゃない?」と思っていても、自分がこだわってるところは絶対に曲げず何回も描き直したり、とことん考え抜いたりしているので。そんな作業を連載が始まって10年、ずーっと続けているのですごいなと思います。あと、どのキャラクターもすごく魅力的です。いつも私に「キャラクターが大事」と言っているので、本当にその通りだなあって。

宙哉 ちゃんとキャラクターの個性が見えて、読者が好きになってくれるかってすごく重要なんですよね。まずは自分でそのキャラクターを好きになるセリフや行動を反映させていって、キャラクター同士の違いを明確にさせていくように調整してます。この間も妻の作品でアドバイスしたのが、「ぴり子と親友たち3人の会話で、誰が言ってもいいセリフは使わないほうが良いよ」って。僕は第18話できよえが言った「私、あご治せる」ってセリフがすごくツボだったけど、ああいうセリフを起点にすればキャラクターはもっと個性が出てくると思って。

――きよえやゆかのモチーフは実在の方がいらっしゃるんですか?

こいこ いえ、ぴりこの友達はどういう人だったら楽しいかなと思いながら考えました。私の数少ない友人たちとこんな感じでご飯を持ち寄ったり一緒に作って食べることがあって。外でランチするときとは違うゆったりとした時間で、すごく良いなあ、描きたいなあと思っていました。好きな人たちと台所に立って何かを作るって、すごく嬉しくて幸せなんですよね。

――では、宙哉さんが奥様の作品をご覧になられて影響を受けたポイントは?

宙哉 やっぱりこどもの描写はちゃんと観察して描かれているので勉強になります。すごく表情のある動きを上手く切り取ってますし、かわいいタッチだけどこどもってこういうポーズをするなあってリアルにイメージできる。漫画に出てくるこどもって、元気がいいとかニコニコしてるとか、記号的なイメージで描かれるケースが多いんです。でも、こどもの動きって、大人と違って独特ですよね。例えば鉛筆の持ち方ひとつを取っても、下の方を握るから上が長ーくなってるみたいな。そういうこどもらしさをちゃんと描くことが出来てると思うんです。

こいこ こどものそういう仕草がすごくかわいいですよね。いつも描きたいなと思ってるけど、絶対に覚えきれないからメモを取ったりスマホで写真を撮ったりしています。記憶を頼りにできないので(笑)。

宙哉 ほぼ日手帳に描いてたりもしてたよね。

こいこ Twitterをやる前はずっとほぼ日手帳に毎日描いてました。手帳に描いていたことが今の作品の支えにもなっています。

松田 お子さんのキャラクターがこどもらしさ全開の魅力にあふれていていいなあって思ってました。こども独特の起伏の感じとかがすごく印象的に描けていらっしゃったので。

こいこ ありがとうございます。出産前は夫も言ったように、こどもっていつもニコニコしてるイメージだったんです。でも実際に育ててみるとそれはほんの一部で、普段はすごく不機嫌だったりわがままだったり(笑)。それに何事においても真剣! 私がイメージしていたこどもとは全然違っていたけれど、それも含めて全部面白いなって。

実は描けなかった小山家のNGエピソードとは?

――SNSでこいこさんが描かれているご家族の漫画がとても癒されます。「これは止めて!」みたいなネタはあるんですか?

こいこ ありますね。

宙哉 えっ、あったっけ?

こいこ 夫がAmazonで買った懸垂バーで体を鍛えてるんですけど、それがすごい面白いから描きたいって言ったことがあったんです。そしたら、当時スタッフに体鍛えてる子がいて、知られちゃうと向こうも闘争心を燃やしちゃうからダメって。

宙哉 ああー、追いつくためにね。結果がついてきてからじゃないと(笑)。

こいこ あと、「俺の脚が短くなってきてるから気を付けて」って言われました。

宙哉 (笑)。いや、メガネキャラは目まで描いた方が良いっていうのは言ったことあるよ。

――表情が見えなくなるからですね。

宙哉 はい。描かずに省略できるからメガネキャラって便利なんですけど、省略したらキャラクターとして面白くないから、目まで描いた方が良いよって。

こいこ それで途中から描くようになりました。

こやまこいこtwitterより

――どんどん成長されていらっしゃる感じなんですね。

こいこ そうですね。実感しながら頑張ってます。

松田 今回は、単行本用に60ページくらい加筆いただいてます。レタスクラブの連載中はあくまでぴり子と家族のお話だったんですけど、単行本ではおばあちゃんやお友達2人にもフォーカスしたりと、キャラクターに厚みを出すエピソードを追加して。こいこさんにはすごく頑張っていただきました。

こいこ すごく楽しみながら描かせていただきました。

取材・文=小松良介 写真=花村謙太朗

©小山宙哉/講談社
©こやまこいこ/コルク