浦井健治「マンガを読むと落ち着くんです。全ジャンルの新刊をだいたい読んでます」

あの人と本の話 and more

公開日:2017/12/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、日韓文化交流企画 世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演『ペール・ギュント』を控えた浦井健治さん。ミュージカル界のプリンスとして注目を浴びる浦井さんに、出演舞台への意気込みとマンガ愛を語っていただいた。

浦井健治さん
浦井健治
うらい・けんじ●1981年、東京都生まれ。2000年、『仮面ライダークウガ』で俳優デビュー。舞台を中心に活躍。菊田一夫演劇賞、読売演劇大賞最優秀男優賞、芸術選奨文部科学大臣演劇部門新人賞など数々の演劇賞を受賞。出演作に『薔薇とサムライ』『MIWA』『デスノート THE MUSICAL』『王家の紋章』など。
ヘアメイク:鎌田直樹 スタイリスト:壽村太一

「こんなふうに自分と向き合い続けた舞台はこれまでなかったし、きっとこれからもないかもしれないなと思います」と、浦井健治さんが語る舞台『ペール・ギュント』。自由奔放で夢見がちな青年が、自分探しを続ける旅を描いた作品。ヘンリック・イプセンの原作戯曲を、来年の平昌オリンピック開・閉会式の総合演出も手掛けることでも話題のヤン・ジョンウンが上演台本・演出を手掛け、音楽、ダンスもありのエネルギッシュな舞台となる。

advertisement

「稽古の最初のころは役者全員で毎日、原作も読んでいたんです。上演台本では数行で終わることが、原作では何十ページにもわたっている。そこにちりばめられた思想や哲学みたいなものもきちんと舞台の上で表現したいというのが、演出家のヤンさんの考え方で。台本を読みながらみんながそれぞれ何を感じたのか、自分の人生に照らし合わせて何を思い出したのか、シーンの一つ一つに対してじっくりディスカッションするので、気づいたらあっというまに8時間くらい経っている。先輩たちと『こんなに大変な現場はそうそうない』なんて言っているんですけど、己を曝け出しながら作品に入り込んでいくことで、役と自分の境界線が溶け合っていくのが楽しいんです。誰かの解釈が自分のものと違っていたとしても、そういうこともあるのかと受け入れていくうちに、役者同士の境界線もなくなっていく。多面的な視点をもって演じることで、舞台そのものに深い広がりが生まれるだろうし、お客さまをその中に巻き込んで、何百何千とおりもの感じ方ができる舞台にしていけたらなと思っています」

 旅の途中で、預言者としてあがめられることになったペールが言う。「人は自分自身を通じて己を見つめることはできない」のだと。自分のことは自分が一番よくわかっている、と人は思いがちだが、果たして本当にそうなのか? 他人の目に映る自分こそが本当の自分ではないのか。己を真に映すものとは何なのか。ペールの旅を通じて、本作は観客に問いかけ続ける。

「まさに同じことを僕も考えたんですけど、また改めて考えるとまったく違う考えが浮かんだりもして。感じ方はどんどん変わっていくんですよね。でもそれが正解。唯一なんてことはないんだっていうのが、僕らの共通認識です。旅するペールと同じように、観てくださるお客様にも、時空を超えてほしいなと思っているんです。つまり、自分の過去の記憶を引っ張ってきて『ああ、自分もあの時はこうだった』と思い出してもらったり、今すぐにはわからなくても何年か経った時『そういえばあのときの舞台で言っていた台詞はこういう意味だったのだろうか』と感じていただいたり。そういう力をもった舞台だと思うんです」

 言葉を丁寧に選び、静謐さを漂わせながら語る浦井さん。だがマンガの話題となると一転、無邪気に表情をほころばせる。

「『ヘンリー四世』という、一部二部合わせて約6時間かかる舞台に出たとき、精神的に追いつめられてしまった時があって、ふとマンガを読んでみたらなんだか落ち着いたんですね。紙の手ざわりもよかったのかな。小説も好きですけど、一冊読むのに時間がかかるので、台本に追われているとなかなか読めないんですよね。今は、ジャンルを問わず新刊はたいてい読んでます。もうほんと、大好き」

 おすすめはなんですか、と訊いてみると、タイトルの列挙が止まらない。

「ええと、『響』『約束のネバーランド』は続きがすごく気になってますね。『クジラの子らは砂上に歌う』『恋は雨上がりのように』も好きだし、『ばらかもん』『はんだくん』は両方好きだし。最近完結した『大正処女御伽話』は、右手が使えなくなった男の人のかたくなな心が少女の純真さで解きほぐされていく過程がよかったなあ。『うどんの国の金色毛鞠』のポコもかわいいですよね。『きのこいぬ』にはすごく救われて、フィギュアも買っちゃったし。あ、あとは『王家の紋章』のミュージカルに出させてもらったときにはじめて原作を読んだんですけど、いまや立派な“王族”(原作ファンの呼称)です。『月刊プリンセス』も買って読んでますよ。休載だとさみしいけど、『薔薇王の葬列』とか他の作品も読んでます」

『薔薇王の葬列』はシェイクスピアの『ヘンリー六世』および『リチャード三世』を下敷きにした歴史ファンタジー。浦井さんは、ヘンリー六世を演じたこともある。

「切り口が独特で、いろんな要素の入ったオリジナル作品だけど、原作の台詞もちゃんと取り入れられているから『これ、言ったことある!』って嬉しくなったりして。あれ、このヘンリー六世、ぼくの髪型に似てるんじゃない?とか勝手に思ったり。おこがましいのは百も承知ですけどね(笑)。」

(取材・文=立花もも 写真=干川 修)

 

舞台 日韓文化交流企画『ペール・ギュント』

舞台 日韓文化交流企画『ペール・ギュント』

原作:ヘンリック・イプセン 上演台本・演出:ヤン・ジョンウン 出演:浦井健治、趣里、ユン・ダギョン、マルシアほか 12月6日(水)~24日(日) 世田谷パブリックシアター 
●夢見がちな青年ペール・ギュントは「遠回りしろ」という声に導かれ、自分探しの旅に出る。トロルやボタン職人、人ならざる者との出会いを経て、彼が見つけた答えとは……。
撮影:久家靖秀