きっかけは『ゆるゆり』! ブレイクする「百合」の魅力を専門誌編集長に聞いてみた。

マンガ

更新日:2017/12/8

 長くマイナージャンルだった百合が、ブレイク中だ。作品のアニメ化が相次ぎ、一般誌で百合をメインテーマにしたマンガが数多く掲載され、話題になることも増えた。2005年に創刊され、ブーム以前から百合界を支え続けた雑誌『コミック百合姫』の梅澤佳奈子編集長に、百合の世界や、その魅力について、お話を伺った。

■女性同士の関係性を見せるものであれば、それはもう全部百合

――まず大前提として、百合というのは、女の子と女の子の恋愛を描くジャンルだと思いますが、定義のようなものはあるのでしょうか?

advertisement

梅澤佳奈子編集長(以下、梅澤) 読者の方や作家さんと百合についてお話をする中で、ここまでが百合だとか、キス以上は百合じゃないとか、思いは人それぞれだと感じています。百合の定義は、読者、作家、編集者、それぞれが持っているもので、女の子同士の、女性同士の関係性を見せるものであれば、それはもう全部百合に含まれていいのではと個人的には感じています。

――百合の歴史や魅力を教えてください。

梅澤 もともと百合というジャンル自体が、少女マンガや少女小説の流れから作られてきました。なので当初は女性の読者が多かったんです。百合の歴史でメジャーなのは、古くはたぶんアニメ『美少女戦士セーラームーン』ですね。女性も男性も百合萌えしていました。長く活躍されている作家さんで、セーラームーンで百合にはまったという方は多くいらしゃいます。次に大きくヒットしたのが小説『マリア様がみてる』。男性読者が「百合を楽しむ」という作品の読み取り方を知ったターニングポイント的な作品だと思います。

 百合の魅力は、男女どちらも楽しめるところですね。成り立ちが似ているBLとの違いでもあるのですが、いまの百合は、男性にも女性にも読まれているのがおもしろいところなんです。強みでもあると思っています。男性読者は箱庭的な世界を外側から覗き込むような視点で楽しんでいらっしゃる方が多いのかなと感じます。女性読者は同じ女性の物語なので、もうちょっとリアルなものとして読まれているようです。

――百合視点で振り返ると、一般のマンガの中にも百合を描いたものがたくさんあります。『青い花』(志村貴子)、『輝夜姫』(清水玲子)、『LOVELESS』(高河ゆん)『ラヴァーズ・キス』(吉田秋生)などなど。梅澤編集長の百合との出会いを教えてください。

梅澤 実は小中学生のころから、もともとはBLばかり読んでいて(笑) 高校生のころ、アニメ『少女革命ウテナ』のアンシーとウテナの関係性に非常に百合を感じて、それが思春期に感じた最初の百合萌えです。編集者として百合に携わるようになってから印象深かったのは、担当したタカハシマコさんの『乙女ケーキ』という作品で、思春期の女の子が未分化な感情の中で友達を取られたくないと思うところが描かれていて、その気持ちに覚えがあったので、あの時の気持ちはこれだったのかと再発見できました。

■『ゆるゆり』で「僕たちも百合を楽しんでいいんだ」と気づいた男性が急増

――女性はリアルなものとして読む、というのはまさにそういうことですね。しかしそれでも百合は長くマイナージャンルでした。いまのブームのきっかけはなんだったのでしょう?

梅澤 2011年にアニメ化などのメディア展開でヒットした『ゆるゆり』という作品がきっかけですね。そこから、「僕たちも百合を楽しんでいいんだ」と気がついた男性ファンの方たちが増えたんです。女性読者が減ったわけではないのですが、それ以上に男性読者が増えました。

――『ゆるゆり』がエポックメイキングだったのですね。

梅澤 いわゆる日常系として楽しめる部分もありながら、きちんと百合萌えもできる作品ということで、『ゆるゆり』から百合にはまった方も多くて、そこで読者の男女比が逆転しました。少しずつ女性が盛り返してきていますが、いま男女比はだいたい6:4くらいです。前編集長の中村成太郎が立ち上げた『百合姫』の前身の『百合姉妹』時代から、13年くらい百合の編集をやっているのですが、百合作品がテレビアニメとして放送される時代が来るなんて想像できませんでした。本当にマイナーなジャンルで、読者の方と作家さんに細々と支えられて続けてきた印象なので、まさかここまでと……。

――『コミック百合姫』の編集長にも、この11月に就任されたばかりということで、激変の13年でしたね。現在の百合の最前線をどうとらえていらっしゃいますか?

梅澤 他社さんの作品も含めて、明確に「百合」をメインテーマにしている作品が売れているのを見ると、男性女性問わず、百合が好きな人というのが定着してきていると思います。そういった層に向けて楽しんでもらえるものを、これからの1~2年でさらに推し進めていかなくては、と感じています。

いままではジャンルを広げるために、百合に「寝取られ」とか「職業」など、百合に興味がない人でも引っかかる間口をプラスアルファしていたのですが、百合が定着してきたこれからは、百合そのものを前面に押し出しながらも、広く人間同士の関係性を楽しんでもらえる物語を作り、一般層に向けてもアピールしていきたいと思っています。

■百合はそんなに怖くないです(笑) 試しに一度、のぞいてみてください

――多くの人が百合を楽しみはじめたことで、百合の世界もますますおもしろい作品が増えそうですね。『コミック百合姫』は雑誌そのものの美しさもこだわりを感じますが、この11月にリニューアルが行われたとか。

梅澤 もともと『コミック百合姫』の表紙は、デザイナーのBALCOLONY.さんと、イラストレーターさんと一緒に、1年ごとに表紙のイラストレーターさんを固定して、そのときの百合の流行を受け、年間のコンセプトを決めて制作しています。紙の雑誌ならではのおもしろさを読者に知ってもらいたい、そこから興味を持ってもらいたいというのが前編集長の中村の考えで、読者を楽しませたいと言う気持ちで表紙を作っていました。その思いは、私も表紙作りに毎回立ち会って学んできました。箔押しをしたり、10周年のときは蓄光インキという暗闇で光るインキを使って、10周年応援ありがとうとキャッチをつけたり。BALCOLONY.さんと、蓄光インキに誰も気づかなかったら悲しすぎるね、と話していたのですが、Twitterなどで読者さんが気づいてくださってよかったです(笑)

 2018年の表紙に関しては、百合がブームになり、一般に定着してきているので、はっきり百合だと伝える表紙でありつつ、専門誌であることをアピールしていきたいと思っています。百合のカルチャーを広めていきたいという思いを込めて、デザインはカルチャー誌などからもヒントを得ています。BALCOLONY.さんとやってきた中で、年間を通して同じデザインで行くのは初めてなので、緊張もあるのですが。

――透明感があるキレイな表紙で、はじめて読む人も手に取りやすいと思います。最後に、これから『コミック百合姫』や百合作品を読んでみよう、という読者にメッセージをお願いします。

梅澤 『コミック百合姫』は百合の専門誌ですので、いろいろな楽しみ方ができる作品を掲載しています。百合はそんなに怖くないですので(笑)、試しに一度、のぞいてみてください。広く女の子が好き、女の子同士の関係性が好きという方であれば、萌え的に楽しんだり、少女マンガ的にストーリーを楽しんだり、等身大の大人の女性の生き方を描いた作品に共感したり、多彩なアプローチで女性同士の関係性が描かれる物語のなかから、きっと好みに合うものを見つけていただけると思います。

 2018年1月からは、連載中の『citrus』のアニメが放送されますので、興味を持っていただいたら、アニメから、というのも入りやすいと思います。アニメ制作スタッフの方が、キャラクターのビジュアル、世界観、ストーリーなど、原作に忠実にアニメを作ってくださっているので、原作が好きな方も必ず満足できるアニメになっていると思います。著者のサブロウタ先生も編集部も太鼓判のアニメ化です。ぜひチェックしてみてください。

取材・文=波多野公美