マンガ読みから大注目! デキるOLとのんびりマンガ家のほのぼの同居マンガ『2DK、Gペン、目覚まし時計。』大沢やよい、初インタビュー!

マンガ

更新日:2017/12/21

 都内のオフィスでバリバリ仕事をする25歳の香月奈々美は、ぐーたらで生活能力がない27歳のマンガ家の卵・藤村かえでと同居中。そんな正反対の二人の暮らしを描く『2DK、Gペン、目覚まし時計。』が、広くマンガ読みから注目を集めている。第3回次にくるマンガ大賞にノミネートされた本作について、取材を受けるのは初めてという著者・大沢やよいさんの貴重なインタビューをお届けする。

まったくタイプが違う奈々美とかえで。二人暮らしの行方ははたして……?『2DK、Gペン、目覚まし時計。』(画像は1巻より)

■仕事ができるOLで、彼氏持ち。異例づくしのヒロイン像

――『2DK、Gペン、目覚まし時計。』の第一話は、東京に暮らし、仕事も家事もできるしっかりものの主人公・奈々美に、地元福岡在住の彼氏がいて、遠距離恋愛をしているという状況から始まります。メインのヒロインがふたりとも社会人、というのも、百合作品としてはめずらしいですよね。

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大沢やよい(以下、大沢) いきなり主人公に彼氏がいるのは、百合ファン的にはどうだろうと思ったのですが、奈々美は同性に恋する自分を知っているけれど、世間体を気にして少し背伸びをしているので、最初は彼氏にいてほしかったんです。

 恋愛のために生きているのではなくて、生きていくために恋愛がある。そんな、今生きている私たちのような、等身大のキャラクターが描きたくて。恋だけに夢中になるわけにはいかない状況の中で、それでも恋をしたり、その恋に振り回されて生活がだめになってしまったり。

 大人の話だけれど、そういう大人らしくない一面が出てしまう物語にしたかったんだと思います。

彼氏との恋愛を続けるため、時間を決めて電話をする奈々美(『2DK、Gペン、目覚まし時計。』1巻より)

――百合の専門誌である『百合姫』の連載としては、いろいろと異色の作品だったのですね。

大沢 連載をスタートした2014年は、『百合姫』発で大ヒットした『ゆるゆり』のアニメ第2期が盛り上がったあとで、3期が待たれている時期でした。編集部がその間に百合をもっと一般層に広げたいと考えていて、入り口は普通にマンガが好きな人にとって読みやすくて、長期的に百合を深めていくという作品をやろうと。そこで、担当編集さんとキャラ作りからはじめました。おかげさまで今、「マンガとしておもしろい」といっていただけることが多くて、とてもうれしいです。

――『2DK、Gペン、目覚まし時計。』は、百合入門としてはもちろん、マンガが好きなら、男女問わずおもしろく読める作品ですよね。キャラクターそれぞれの人生のエピソードも丁寧に描かれています。

大沢 もう1人の主人公のかえではマンガ家なので、かなり自分の経験が反映されています。かえでがマンガの欠点を指摘されるシーンは、ほぼそのまま、新人時代に編集さんから言われたことなんです(苦笑)。

大沢さんの実体験が活かされた、恋由姫からかえでへのダメ出しの嵐(『2DK、Gペン、目覚まし時計。』1巻より)

 奈々美はデキる女性なので、憧れを詰め込んでいる感じですね。ちょっとがんこだったり、不器用だったりするところは私自身の欠点でもあると思います(笑)。19歳で『百合姫』に投稿した作品が入選してマンガ家になったので、実は会社勤めの経験がなくて、奈々美の同僚の意識高い系OL谷原侑子(たにはら・ゆうこ。通称ルー子)と奈々美の仕事風景などは、編集さんや、建築関係の仕事をしている父に、取引先とのやりとりのことを聞いたり、ファッション誌でオフィスカジュアルをチェックしたりして描いています。

意識高い系のカタカナ語を連発するルー子はファンからも大人気(『2DK、Gペン、目覚まし時計。』1巻より)

■急展開で大反響「4巻からでも読め」というファンの声も

――かえでのマンガ家友だちになる壁サーの姫・城山恋由姫(しろやま・こゆき)の過去や、はんなり京女の辻堂葵(つじどう・あおい)も、かなり個性的です。

大沢 恋由姫の過去の黒歴史は、オタクだった女の子は身につまされるかもしれません。男性も女性も愛することができる大人の恋愛マスター葵は、間違いなく、自分から一番遠いキャラクターです(笑)。

 それまでたっぷりキャラクターを描くことにページを割かせてもらっていたのですが、4巻で葵と奈々美が急接近して、百合的にも見せ場があり、一部では4巻からでも読め、とか葵ルートでもいいのでは? という反響もあって(笑)、新規の読者も増えました。

 葵によって、奈々美とかえでの関係性も変わります。キャラクターは自分で動かすというより、この子ならきっとこうするだろう、というふうに考えて作っています。みんな人間だからいいところも悪いところもある。完全な悪役は作らずに、欠点もあるけれど、共感できるところもあるキャラクターになるよう意識しています。

ホテルで奈々美にせまる葵。奈々美、どうする!?(『2DK、Gペン、目覚まし時計。』4巻より)

――19歳で『百合姫』に投稿してデビューというお話が出ましたが、投稿前から百合を描いていらしたのでしょうか?

大沢 マンガの専門学校に通って、初めてペンを持って仕上げた人生最初の作品をダメ元で送ったら、入賞して担当さんがついてくださいました。なので、同人誌などもやったことがないんです。

 もともと女性アイドル、モーニング娘。など、女の子がかわいいのが好きで、かわいい女の子同士が仲良くしているのに萌えていたのですが、そんな女の子同士の関係が「百合」だと知ったのが『百合姫』だったんです。中2のころでした。

 インターネットを調べると百合の情報がたくさんあって、本や漫画を読むジャンルが一気に固まったんです。自分の中でマンガ=百合になって、マンガを書くなら百合を書きたいと思いました。ド新人を基礎の基礎から教えていただいて、なんとか食らいついていたら、連載もさせていただけて、今に至っています。

■百合にはすべてをOKにしてしまう帳消し力がある

――生粋の百合育ちなのですね。百合のなにがそこまで大沢さんを惹きつけたのでしょう?

大沢 イージーな恋愛ではないので、一生懸命恋をしている女の子が見られるところでしょうか。女の子のキャラクターが違うと、まったく違う関係性の百合が生まれる多様性もある。女の子が女の子を意識したら百合だと思うので、楽しみどころはとてもたくさんあると思います。

 私が描きたい、伝えたいと思っているのは、“女性同士ならではの手触り”みたいなものなんです。女性を描くのも好きですし、かわいい女性、綺麗な女性への憧れも根底にあると思います。言葉にするのがむつかしいのですが、クラスの高嶺の花のあの子が女の子と付き合っている、と考えたら、すごく萌えませんか?

 「好きだ好きだ」とうざく感じるJポップも(笑)、もし百合だったら……と考えると急にいい曲に思えるので、私にとって百合にはすべてをOKにしてしまう帳消し力があるんです(笑)。無条件の憧れがあるのかもしれません。

 例えば男女が親密になると、恋人同士という関係が最上級だと思われます。女の子と女の子の場合、その親密な関係性がより多様だと思います。その子にとっての親友になれる、恋人になれる、ライバルにもなれる、時には親子のように、姉妹のように…など、リバ的な上下に関わらず、お互いにとっての一番いい関係、ある意味2人だけのオーダーメイドな間柄になれるところが百合ならではの良さだと思います。

 女の子という生き物の複雑で繊細な心情の、尊さ。それがかけ合わさった時のシナジー効果的な人間関係。より個性的な関係を描ける、楽しめるのが百合の良さだと思います。

■圧倒的に違うのは、BLだと受け、攻めがあって、百合にはないこと

――男女の恋愛にはないせつなさや、うつくしさを描く、という意味で、百合とBLは似ている気がしますが、違いは何でしょう?

大沢 圧倒的に違うのは、BLだと受け、攻めがあって、百合にはないことでしょうか。なんとなく攻めているほう、受けているほうがあっても、明確ではないあいまいさがあって、そのときの状況や立場によって変わるし、受け手がそれを決めることもできる。BLに、入れて入れられることで完結する何かがあるとすれば、百合にはない。

 だから、より気持ちの部分が大きくて、うつくしく崇高に感じるのかもしれません。読み手の中で想像の余地があるんですよね。私はBLも好きでよく読むんですが、場合によって関係性が変化するカップリングのほうが好きです。BLだとあまり好まれないですが、リバ的な。

――2DKの奈々美とかえででもそうですね、どちらかが弱ったときに、もう片方が支えています。

お互いが相手の弱い部分を支えて、二人の暮らしは続いていく(『2DK、Gペン、目覚まし時計。』1巻より)

大沢 女の人は母性たっぷりに甘やかすこともできるし、えーんと甘えることも両方できるから、その両方を見たいと思うんです。相手をよしよししても、相手によしよしされても、女性はどちらも満たされますよね。入れて入れられて、出すものを出して終わりではない。百合はそこがいいのかもしれません。明確なゴールがないから、付き合っているのか付き合っていないのかがあいまいでもいいですし。

■百合シーンを描いていなくても、読んだ人の心で百合になっていたらいい

――BLだと最後までの描写が入っているのがわりと一般的ですが、百合はキスもしていない作品も多いですよね。

大沢 2DKもキスシーンが1回くらいしかないので、粘膜接触をカウントされてしまうと百合マンガではなくなってしまいますよね(笑)。

 3巻くらいまでは、今回は百合度が薄いといわれていたのですが、私は薄めたつもりはあまりなくて、この温度がちょうどいいと思って描いていました。4巻からぐっと濃度は上がったとは思いますが、それも、これがほしいと思う温度で描いています。

初めて二人で乗った電車の中で吊革もつかめないかえでの小柄さに気づき、思わずかばう奈々美(『2DK、Gペン、目覚まし時計。』3巻より)

 マンガの中に百合シーンを描いていなくても、読んだ人の心で百合になっていたらいい、そういう漫画を描きたいと思っているんです。たとえば、ごはんを食べている時はでんぷんだけれど、かんで飲み込む時は糖になっているみたいな(笑)。読者が読んでかみ砕いてはじめて百合になる、という方向性でもいいのではと。受け取り手によって楽しみ方が無限にあるのが、百合の魅力だと思います。

――大沢さんのお話で、百合作品を読みたくなってきた読者も多いと思います。お好きな百合作品や、おすすめの作品を教えてください。

大沢 百合マンガではないのですが『LOVELESS』(高河ゆん)に出てくる中野倭と坂上江夜には萌えました。『青い花』(志村貴子)、『マリア様がみてる』(今野緒雪)なども好きですね。『百合姫』に出会ってからは、連載のコミックスはほぼ買っていました。キャラクター萌えがある方なら『ゆるゆり』のような、明確に百合な恋愛はしていないけれど、関係性の矢印がたくさんある作品もいいと思います。『飴色紅茶館歓談』(藤枝雅)も好きで、ドラマCDも持っています。1月からアニメ化する『citrus』(サブロウタ)は少年マンガ的な盛り上がりと熱さと感動があってほんとうにおもしろくて読みやすいです。

『citrus』サブロウタ

――最後に、読者へメッセージをお願いいたします。

大沢 2DKは、仕事に悩んだり、恋愛に不器用だったり、等身大の20代の女の子の主人公ががんばっているお話です。百合マンガだと気付かないうちに読んでいたら、いつのまにか百合マンガになっている作品だと思うので、かまえずに読んでいただけると思います。今までは奈々美目線でしたが、かえでの気持ちがこれからようやく見えてきます。かえでは奈々美をどう思っているのか。最近ようやく終わりを決めて、ラストまでの伏線もいろいろ張っているので、あのときのあれは、そうだったのか、というのもわかっていくと思います。それから、ツイッターで月曜日の更新が滞っているルー子さんですが、いま語学留学に出ていますので、帰国をお待ちいただければさいわいです(笑)

取材・文=波多野公美