今いる場所に違和感を覚えたら、自分を変えずに環境やルールを変えること。オリラジ中田敦彦が提示する“才能の見つけ方”とは?

エンタメ

2017/12/23

音楽ユニットRADIO FISHによる「PERFECT HUMAN」をヒットに導いたオリエンタルラジオの中田敦彦さんは、デビュー当時にもリズムネタ「武勇伝」でブレイクしていた。傍から見ればシンプルな流れだと思うかもしれない。しかし、本人がその答えを導き出すまでにかかった期間は10年。その裏には、このヒットが必然だったことがわかる戦略と選択があった。中田さんの著書『天才の証明』(日経BP社)を読む前に知っておきたいのは、この本には誰もが真似できる中田さん流の「才能の見つけ方」が書かれていること。「自分を変えなくていい、環境やルールを変えるだけでいい」と語るその理由を聞いた。

<プロフィール>
中田敦彦(なかたあつひこ)
1982年生まれ。慶應義塾大学在学中に藤森慎吾とオリジナルラジオを結成し、2004年にNSC(吉本総合芸能学院)へ。同年、NSC在学中にリズムネタ「武勇伝」でM-1グランプリ準決勝に進出するという新人芸人として異例の成功を遂げ、「エンタの神様」などでブレイク。2016年より音楽ユニット・RADIO FISHの司令塔となり、「PERFECT HUMAN」をヒットに導く。現在はプレゼンター・コメンテーターとして、妻・福田萌さんとの間に生まれた二児の父としても注目を集める存在。

――この本は、中田さんが天才であることを証明しながら、じつは読む人への熱いメッセージがこめられた、ビジネス書としての側面を持っていますね。

中田:そうですね。この強めの表紙でこのタイトルだと、自慢話が書いてあるんじゃないかと思いますけど、そうじゃない。僕が天才なんじゃなくて、「みんなが天才」だということを証明する本ですよね。書いているうちに、そういう結論に行き着きました。

――相方の藤森さんは、すでに2回読み返していると聞きました。読みやすいうえに、2回目に読むときは「大切なことをメモしながら読んだ」と。藤森さんの反応を聞いてどう思われましたか?

中田:うれしいですね~。本を出すときに、読みやすいほうがいいなと常に思ってるんで。しかも、2回読んでもらえたことが心にしみます。相方ですから、義理で1回は読むと思いますけど、本当に楽しかったんだろうなと思いました。本のなかで、相方や(RADIO FISHの)メンバー、周りの先輩や後輩にもふれていて、そういう人へのラブレター的なところもあるんですよ。「いつもありがとう」っていう。だからメンバーにも渡しましたし、先輩にも配ってます。その気持ちが届いて良かったなと。喜んでもらえてうれしいです。

■結果が出ないのに2年3年やっちゃってる人はもったいない

――本の中で、これまでの挫折や、「オリラジは漫才が向いていない」という欠点を打ち明けています。ここまで自分をさらけ出すことに抵抗はなかったですか?

中田:抵抗はなかったですね。この仕事は、隠せないと思ってるんですよ。1人か2人で短い時間ならごまかせると思いますが、マス(大衆)の目ってけっこうすごい。人間の目には第六感みたいなものがあって、形を整えたとしても嘘をつけないんです。能力は高いけどこの人は危ないなとか、この人はがんばってる風に見せているだけだなとか、いろいろ感じるじゃないですか。だから嘘をついても全部バレるという考えが根底にあるのと、そういう仕事だなと一度吹っ切ったことがありました。イメージを作り込む俳優さんやアーティストは違うと思いますけど、野ざらしにされているタレントって隠しようがない。13年間オリラジをやってきて、1年目から毎日舞台に立っていたんですよ。ヨシモト∞ホールで365日ライブと生配信をやるという無茶な企画の実験台で、「とにかく全部言う!」っていう。ある男の人生が隠しカメラによって世界中にテレビ放送されている「トゥルーマン・ショー」という映画ありますよね? もう自分は「トゥルーマン・ショー」なんだろうなって思ってます。生配信は今でもRADIO FISHでほぼ毎日やっていますし。

――「武勇伝」ブレイクのあと、「PERFECT HUMAN」がヒットするまでに10年。10年って長いですよね。だけど、この10年は必要だったと思いますか? 自分の本当の才能を見つけるまでには、やっぱり時間もかかるのでしょうか。

中田:これまでのブレイクは、大雑把に見ると3発(相方である藤森さんの“チャラ男”ブレイクを入れて)になっちゃうんですけど、毎年なにか発見があって、なにか1つ成果が出て、大きく成果が出たのがその3つであっただけ。ここまで続けてこられたのは、毎日トライ&エラーをしながらちょっとずつ評価をいただいたからだと思っています。なにも結果が出ないのに、急にそういうことが見つかるかというと、そうではないかもしれない。

だけど、結果ってけっこう早く出るなと僕は思っていて、その積み上げが大きな成果につながる。結果が出ないのに2年3年やっちゃっている人はもったいないって思うんですよ。それは、思い込んでいるだけだから。目的地に着くための手段は電車でも自転車でもいいわけで、でも自動車で行くしかないと思い込んでしまうと、いつまでたってもたどり着けない時がある。仕事でも、めちゃくちゃきつい思いをしているのに、「この会社、辞められない」とがんじがらめになる必要はないと思います。その会社にいることがすべてじゃなくて、自分の夢を追いかけてるんですよね。それでいうと、どんどん路線変更はしていいのかなって。僕らは、ダメだったらすぐに辞めます。時間も必要なことは必要なんですよ。でも、その方法で結果が出せるかどうかは、わりと早い時点で判断してもいいと思うんです。あんまり時間をかけすぎちゃうと大変だよっていう。

■複数の人の意見を聞くほうが信じられる

――トライ&エラーの繰り返し。本を読んでいると、中田さんは折々で「これをやる、あれをやる」という目標を立てているそうですね。

中田:僕は言いたがるタイプなので、妻なんかに「こうだと思うんだよ。これをやる!」とよくしゃべるんですよ。僕は目標を立ててからやることが好きで。それをあーだこーだ言いながら結果を見せて、やっぱだめじゃんとなれば、じゃあ撤退!と切り替えはすこぶる早い。そういう人間だなと思います。ただ、今立てている目標は「もうがんばらない。休もう」なんですけど…。

――もうがんばらない!?

中田:目標は、立てない人もいるわけだから、絶対に立てたほうがいいとは限らないんですよ。それよりも「自分がどんな人間かを知ること」、それがこの本の真髄です。「こうあれ」とは言ってなくて「自分らしくあれ」と。それが僕にとっては目標を立ててやることであり、「自分の個性を知ると生きやすくなるよ」ということを伝えたい。

――自分を知ることってむずかしいですよね。中田さんは、時には他人から言われることに耳を傾けることも大事だとおっしゃってましたが…。

中田:たくさんの人の意見を聞くことがいいと思うんですね。4〜5人とか。僕がいたNSC(吉本総合芸能学院)には、ネタの講師が4人くらいいて、言うことが全然違うんですよ。講師のAは「いいですね」と言っても、Bは「全然ダメだ」と言うし、Cが「こう変えろ」と言ったら、Dは「なんでそう変えた?」って。でも、その中からピンときたこと、自分にフィットする何人かの意見を取捨選択すればいいから、僕にはちょうど良かった。それも、同一の集団じゃないほうがいい。たとえば相方と、お笑い界だけではない主婦の目を持った妻と、身内だけじゃない学生時代の友だちとか、そういう何人か信頼できる人がいて、これどう思う?って聞くと、なるほどと思う意見が返ってくるし。誰か1人の意見にとらわれそうになると、「いや、それ騙されてると思うよ」と教えてもくれる。怖いのは、たとえば占い師とか、信頼しているたった1人が言うことを全部聞いちゃうこと。この人の言うことしか聞かない!ってなると、そういうの、間違えやすいじゃないですか。1人にしか聞かないのもダメだし、誰にも聞かないのもダメだし、僕は複数の人が言うことを聞くほうが信じられるなと、最近思うんです。

■環境を変えるだけでも、自分は全然違うことがわかる

――「自分は凡人だな…」と思う人でも、自分にフィットする意見を取り入れることで、自分の才能に気づけることがあるかもしれないと。

中田:だと思います。僕は平凡な人はいないと思ってて。漁師町で育ったからふつうの漁師だって言う人も、東京に出てきたらなかなか漁師はいないと思いますし。環境を変えるだけでも、自分は全然違うことがわかる。僕もNSCに入ったとき、元暴走族あがりとか元自衛隊員とかいろいろいて、こちらはふつうの大学生なのに大丈夫かなと思っていました。それをもうちょっとミクロに見ていくと、慶應義塾大学に行っていたことが、元暴走族にいた人からすると、「なんやその塾!?」とか、「なんでそんな勉強すんねん!?」とか、面白がられるんですよね。トレーディングカードにたとえると、みんなそれぞれ強いも弱いもない才能のカードを持っていて、平凡じゃないんですよ。

――自分探しをしている読者にメッセージを送るとしたら、どんなことですか?

中田:自分が今いる環境でOKならOKだし、満足していないのであれば、その環境を変えるほうがいい。自分は変わらなくていいんですよ。もう天才だから。もう十分。もう幸福。まあこれ、自分に言ってるんですけど(笑)。がんばるながんばるな、もう天才だからって(笑)。もう十分、あなたには価値があるというのを伝えられたらいいなってすごく思うんですよね。

――なるほど。

中田:『バガボンド』を描いているマンガ家の井上雄彦さん、いらっしゃるじゃないですか。天才ですよね。宮本武蔵の人生を描く『バカボンド』が今、休載してるんですよね。ラストが描けないそう。なんで描けないんだっていうのを分析したネット記事にピンと来るものがありました。武蔵は結局、天下無双なんてないことにだんだん気づいていくんですよ。天下無双なんてないし、刀を鞘に収めることのほうが大事だと気づいている武蔵がいるから、ラストが描けない。そういう分析です。僕が思うのは、井上さんは激烈に描いてきた人だから、たぶん、そこで矛盾が生じてるんだろうなと。もういい!っていうマインドになったら描けるのかもしれませんし、やっぱり天下無双になろうと思ってるのかもしれないし。だから、今の井上さん自身が作品なのかなと。休載していること自体が作品になっていて、もう描かないというエンディングでもいいかもしれない。おこがましいですが、この場を借りて井上さんに言いたい。描かなくていい。もう完成してる。だから最近思ったんですよ。井上さんのような天才でも悩んでいる。だから、もうがんばらなくていいんだって(笑)。

――ああ、だから、がんばらなくていい(笑)。

中田:そう。ここまで考えたからもう十分(笑)。ドラクエでいえば「もう全クリした」を口癖にしています。全クリしてるから、あと70年は余生だと。全部手に入れてるから、もう吸収しなくてもいい、あとは暇をつぶしなさいっていう。そしてみなさんもそうだと…まあ、自分に言ってるんですけどね(笑)。

取材・文=吉田有希 写真=阿萬泰明(PEACE MONKEY)